Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

「勝つ人がいるってことは、負ける人がいる」

2013-12-14 | Weblog
もう取り返しのつかないところに来ているのではないか。
東電福1原発の海側敷地にある観測用井戸の水から、ストロンチウム90などのベータ線を出す放射性物質が、過去最高値となる1リットル当たり180万ベクレル検出されたという。
こうして何度「過去最高値」が更新されてゆくのだろう。
というか、現在と未来に連なる時間の中で、常に、「目下更新中」なのである。

たぶん修復不能の急降下中にある猪瀬都知事が、五輪・パラリンピック招致に成功した経緯などをまとめた新刊を出すという。タイトルは「勝ち抜く力」(PHPビジネス新書)。何とも哀れな話だ。
こんな失墜の事例ばかりだから、若者たちも誰も政治家になりたいとは思わない。政治を手掛けるのは利権を持った二世三世か成り上がりたい者ばかりだというイメージになっている。イメージというか、もうまるごとその通りだ。

勝とうとするから、負ける。
「勝つ」というイメージで何かを始めた者は、結局「負け」によってしか、その物語を終わらせられない。これは一種の「物語原型」の鉄則だ。
「いい仕事」は「勝ち負け」じゃない。
「勝ち負け」で自分を鼓舞すると、結果はどうあれ、何かで埋め合わせをしなければならなくなる。

以下、拙作『屋根裏』、「家庭訪問」の場面より。


        先生が腕を捲ると、手首の上にリストカットの跡。

先生 見て。退職か自殺のどちらかしかないのよ。こんなに傷だらけになっちゃったら、夏も長袖しか着られないじゃない。もう何も信じられない。私も部屋でじっとしていたい。ひきこもらせてよ。
少女 先生のひきこもりなんて、ヘンだよ。
先生 ヘン。
少女 ……ヘン。
先生 言いたいことわかる。私、なにやっても「わざとらしい」って言われる。自分でもそう思う。喋ってても無理してるのばればれ。子供にも見抜かれてる。だからよ。だから「結婚式ごっこ」参加しなかったら、私がいじめられたはず。
少女 もうやめよう。「結婚式ごっこ」されたからって、生きジゴクになっちゃったわけじゃないもの。
先生 結婚しなきゃいけないのは私なの。結婚して退職して、終わりにしたい。
少女 すぐやめればいいじゃない。
先生 負けたくないもの。
少女 勝ち負けなの。
先生 じゃああなたどうして勉強するの。人生に勝つためでしょ。
少女 ……それじゃしようがないね。勝つ人がいるってことは、負ける人がいる。

        先生、横になって、泣く。


最初の話題に戻る。

勝とうとしていたかどうかはともかく、敗北を認めるべき時はある。東電福1原発は失敗したのだ。原子力産業は敗北した。それは認めよう。
それは「勝ち負け」を越えた、必要な認識ではないのか。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 締めつけの強まる社会 | トップ | 第19回劇作家協会新人戯曲賞 ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事