Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

「最悪の正月」は、更新された。

2015-01-01 | Weblog
こんな最悪の正月はないのだが、と、昨年も言った気がするが、最悪は更新された。そのことに対してとくに感慨も湧かないが、現実がそうなのだ。
とにかく皆さん今年もよろしく。

大晦日。紅白歌合戦は観ていないが、画面は一切見えず聴こえてきた美輪明宏さんの「愛の讃歌」がいくらなんでもビブラート効かせすぎじゃね? と思う。年越しそばは、出雲そばを茹でる。

で、年が明けると自動的に発表される、首相官邸ホームページの「安倍内閣総理大臣 平成27年 年頭所感」。

昨年もこの定例の「所感」に、「新年早々、ひどいものを読まされてしまった」と思ったものだが、今回は、より「深刻」であると思う。この「所感」の内容そのものについても思うが、これが許されているこの現在の状況そのものに対しても、そうだ。

安倍総理が言うには、
「総理就任から2年が経ちました。この間、経済の再生をはじめ、東日本大震災からの復興、教育の再生、社会保障改革、外交・安全保障の立て直しなど、各般の重要課題に全力で当たってまいりました。」

間違った施策を、全力で当たられても、困る。
どう考えても日本経済が「再生」したとはいえないだろう。現状の円安リスクを背負える見込みはない。景気を株価で計れる時代ではない。大きめの「会社」を中心に経済をはかる虚しさ。
震災からの「復興」は足踏み。いや、あれから四年近くになって、解決されないまま持ち越されたことによる被害の重層化・深刻化は否定できない。現在進行形のことが過去形のように装われている。
「教育の再生」って、「道徳」の押しつけのことか? 教科書検定の「自粛管理」強要の無惨。
「社会保障改革」? 「改悪」以外の言葉は出て来ない。年金の支給・支払いの開始・満期時期をずらす方策のせこさ。
「外交・安全保障の立て直し」? 悪化の一途ではないか。アメリカと「軍」として一体化することの意味を日本政府は本当に理解しているのか。
尖閣諸島は既に中国側に理がある。中国の漁船・戦艦の接近を許し、日本側が調査に行くのを見合わせるようになってしまっては、日本が「実効支配」を言うには無理な状況になっているからだ。
中・韓の台頭で日本が防衛強化を余儀なくされたというでっちあげを国民の多くに信じさせる操作は、根拠のないエクスキューズとして浸透してしまっている。

安倍総理は言う。
「さらには、地方の創生や、女性が輝く社会の実現といった新たな課題にも、真正面から取り組んできました。」

「地方の創世」? 絵に描いた餅。首相がかつて言及した、「大山の地ビールや島根のさざえカレーが地域産業の成功例」って、何か勘違いしていないか。安倍首相はこの件でも「やれば、できる」を連発するんだけど、これでは地域の当事者に責任を押しつけているだけではないか。人口減少や超高齢化を防ぐには、地域の自立と産業保護が必須。まったく口にしないで誤魔化して進めようとしているTPPはもってのほか。
「女性が輝く社会の実現」? 気味の悪い女性大臣を数多く誕生させたことか? 大臣を登用するたびにぼろが出る。その禊ぎ選挙でもあったのだろう。
「配偶者控除見直し」、現在の「年収103万円以下は税免除」という規定が完全に消滅する見通しである。主に主婦層である、低収入のパート労働者たちの勤労意欲を削ぎ、更なる貧困階層を作る。1000万人以上がこの控除を使っている。彼らの何割が「ちゃんとした共働き」に鞍替えできると考えているのだろうか。国や地方は相当な増収となるだろうが、弱者を救うためにあった制度をなくしてどうする。低収入のパート労働の主婦は「輝いて」いないという理屈か? 「適齢期」男女はさらに結婚しなくなるぞ。

生活保護費は、厚生労働省が、一昨年から3段階で引き下げを実施し、3年間で平均6・5%、最大10%減額している。生存権の侵害であり憲法違反である。
子育て支援・待機児童の問題についても、改善されていない。

安倍総理は言う。
「そして先の総選挙では、国民の皆様から力強いご支援を頂き、引き続き、内閣総理大臣の重責を担うこととなりました。」

いやいや。「違憲」状態のままでの選挙。何のためにやるかわからない選挙で、極めて低い投票率。「力強いご支援」なんかじゃない。自民党が獲得した得票は比例代表で33%。有権者数を分母にした全国の比例代表の得票数でみれば千七百七十万票で、17%にすぎない。それを圧勝というのはおかしい。その数さえ、与野党の違いが不明瞭で論点さえはっきりせず選択肢がない多くの有権者が不安の中で猜疑心に囚われ「とりあえず現状維持」を選んだという残念な現実であろう。

安倍総理は言う。
「いずれも戦後以来の大改革であり、困難な道のりです。しかし、信任という大きな力を得て、今年は、さらに大胆に、さらにスピード感を持って、改革を推し進める。日本の将来を見据えた「改革断行の一年」にしたい、と考えております。」

「大改革」。改悪でしょう。
「困難な道のり」なのは筋が通っていないからである。
「信任という大きな力」。いや。後付けでいろんな事を進めようとしているらしいが、誰も信任していないよ。「消費税増税とアベノミクスを問う選挙」だと自分で言っていたでしょうが。他の論点を「信任された」と言うのは欺瞞である。

「さらに大胆に、さらにスピード感を持って」。調子に乗るな。なぜ焦る? 「やり逃げ」は許されない。
「日本の将来を見据えた「改革断行の一年」」。あなたは国民を自分の歪んだ思い込みの犠牲にして「日本の将来」を潰そうとしているだけだ。

安倍総理は言う。
「総選挙では全国各地を駆け巡り、地方にお住いの皆さんや、中小・小規模事業の皆さんなどの声を、直接伺う機会を得ました。」。

あなたの言う「皆さん」は誰のことだ? テレビニュースに登場したとき、その番組で取り上げた「街の声」について「(自分に対する)反対意見ばかりを集めた」と決めつけて逆ギレしたくせに。

「皆さんの声」など届いていない。

例えば、安倍政権は、選挙が終わった途端に、介護サービス事業者に支払われる「介護報酬」を15年度から引き下げる方針を打ち出した。そもそも低賃金、慢性的な人手不足状態の現場に、追い打ちをかける。結果としてサービスの質が低下すれば、介護を受ける側のマイナスにもなる。

そもそも消費税率アップは、福祉を充実させるために行われたはずではなかったのか。
一方で大企業の法人税を引き下げ、その恩恵を受ける大企業は見返りとして安倍自民党に巨額な政治献金をする。
本来は眼を向けてこなかった癖に「中小・小規模事業の皆さん」などととってつけたように言わないでほしい。

安倍総理は言う。
「こうした多様な声に、きめ細かく応えていくことで、アベノミクスをさらに進化させてまいります。」

無理だね。「中小・小規模事業の皆さんなどの声」を無視することこそが「アベノミクス」なる大ざっぱなザル方策の主旨だからだ。弱者を切る方策ばかりやってきておいて正反対の開き直りをするおためごかし。増え続ける非正規労働者のことなど視座に入っていない。派遣法の改悪、多くの会社のブラック企業化。なぜそうなっているかわかっているのか。政策が間違っているのだ。嘘も強気で言いつのれば通るというやり方は、いい加減にしてほしい。

安倍総理は言う。
「経済対策を早期に実施し、成長戦略を果断に実行する。今年も、経済最優先で政権運営にあたり、景気回復の暖かい風を、全国津々浦々にお届けしてまいります。」

「経済対策」「成長戦略」って、具体的に納得できるものを示せていないじゃないか。マスコミも鵜呑みにしてまともな「方策」として存在するかのように見せている「三本の矢」なるものの何がどう具体的に恒久的な成功を導けているか。何一つ成功していない。市場の金が増えたって相場の動き次第で一瞬にして無化される。政府支出のケツを誰が持つのか。
火だるま借金国の現状を悪化させるのみだ。
「経済最優先」のはずの経済ががたがたなんじゃないか。将来性なし。
「景気回復の暖かい風」があるというウソの前提をやめなさい。貧困化・格差化の雪崩うつ進み具合がわからないのだろうか。
かつては公約で絶対拒否するはずだったTPPを容認しようものなら、後にはペンペン草も生えない。
とにかく「アベノミクス」「三本の矢」という気色の悪いコトバ自体に虫酸が走る。

そして安倍総理は言う。
「今年は、戦後70年の節目であります。」

ただの十進法の区切りを「節目」と言うな(他陣営の政治家も平気で言うが)。ただ「戦後70年」という安倍発言の言葉の裏には、いつまで経っても「戦後」、戦後生まれの癖に「敗戦の悔しさ」を意識しているらしい、そのルサンチマンが透けて見える。

安倍総理は言う。
「日本は、先の大戦の深い反省のもとに、戦後、自由で民主的な国家として、ひたすら平和国家としての道を歩み、世界の平和と繁栄に貢献してまいりました。その来し方を振り返りながら、次なる80年、90年、さらには100年に向けて、日本が、どういう国を目指し、世界にどのような貢献をしていくのか。」

この男の発する「深い反省」という言葉は実に空疎だ。
「戦後」に歩んできたはずの「自由で民主的な国家として、ひたすら平和国家としての道」について、それを評価していないことが露骨なこの男が言うのはリアリティ皆無だし、仮にそうであったと思っているなら、逆にそうであったことを恨みがましくて思い返しているような響きがある。
「次なる80年、90年、さらには100年に向けて、」。またまた空疎な十進法区切り。歴史は君に味方しないよ。

「日本が、どういう国を目指し、世界にどのような貢献をしていくのか。」と、わざわざあらためてこれまでとは違うビジョンが必要であることが大前提という言い回しをするのは、彼が彼自身が認定する「これまでの「自由で民主的、ひたすら平和国家」を否定し、「それ以外の選択をする国」を目指したいという表明であり、「世界」に対する「貢献」というものが、「軍事」による「介入」であるという野望が籠められているように響く。そういう言葉の選び方だ。

安倍総理は続ける。
「私たちが目指す国の姿を、この機会に、世界に向けて発信し、新たな国づくりへの力強いスタートを切る。そんな一年にしたいと考えています。」

改めて言うが、彼の言う「私たちが目指す国の姿」に、「自由で民主的、ひたすら平和国家」であるというイメージは含まれていないわけだ。含まれていれば、あらためて「目指す姿」を世界に示す必要などないからだ。
それは疑う余地がない。全世界の人達が既に知っているように、先の戦争について「不戦」の誓いも「反省」もなく、A級戦犯らを「祖国の礎」という首相なのだから。

この後が、また奇怪である。安倍総理の発言に論理がないことがよくわかる。

「「なせば成る」。
上杉鷹山のこの言葉を、東洋の魔女と呼ばれた日本女子バレーボールチームを、東京オリンピックで金メダルへと導いた、大松監督は、好んで使い、著書のタイトルとしました。半世紀前、大変なベストセラーとなった本です。
戦後の焼け野原の中から、日本人は、敢然と立ちあがりました。東京オリンピックを成功させ、日本は世界の中心で活躍できると、自信を取り戻しつつあった時代。大松監督の気迫に満ちた言葉は、当時の日本人たちの心を大いに奮い立たせたに違いありません。
そして、先人たちは、高度経済成長を成し遂げ、日本は世界に冠たる国となりました。当時の日本人に出来て、今の日本人に出来ない訳はありません。
国民の皆様とともに、日本を、再び、世界の中心で輝く国としていく。その決意を、新年にあたって、新たにしております。」

それにしてもなぜ半世紀前の女子バレーボールの監督の言葉を引用するのか。上杉鷹山って誰だ? 何で直接でなく孫引きなのか。恣意的な引用の空疎さは言わずもがな。
なぜか。彼の主張に合致する「例」など、戦後史にないからだ。
ようく読んでいただきたい。
戦後の日本人は「敢然と立ち上がった」のではない。
それまでなかった自由と平等、権利意識を連合軍陣営から教わり、立ち直ったのだ。農地改革、婦人参政権を、戦後の日本人が「敢然と立ち上がって」獲得したとでも言うのか。
そして、朝鮮戦争の「特需」なくして現在の日本はない。
アメリカの経済政策を下支えすることの恩恵で「経済成長」し、既得権を守ることで成長してきたことに疑いの余地があるのか。
もちろん戦後の日本人たちは努力はした。しかしそれを花咲かせる環境は、与えられたものだ。
社会主義と資本主義の双方から可能な方策を選び、アメリカなどから見ても嫉妬の対象になるくらいの、一種の「資本主義の社会主義含みの理想形態」に近づいた。「組合」も多く存在し、労働者が胸を張れる社会に向かってもいた。
「自由で民主的、ひたすら平和国家」の理想論が背中を押したのだ。
そこにあったのは「なせば成る」の根性論ではない。
「当時の日本人に出来て、今の日本人に出来ない訳はありません。」と言うなら、「自由で民主的、ひたすら平和国家」のビジョンを、現在の人々が持てるようにすべきだ。
厳しく歴史を見るなら、「高度経済成長を成し遂げ」たと見えたとしても、あくまでも「アメリカの衛星国」としてであったということを、よもや忘れてはなるまい。

先述のように「なせば成る」という首相の言葉は「地方の創世」の件などで「やれば、できる」として連発されている。
これって、「やれば、できる」ことだから、手の平を返せば、「やらなったからできないんだ」と相手を突き放すことができる、一種の責任回避の言葉でもあるのだ。

なぜかケネディ米大統領も政治家として尊敬していたという米沢藩主上杉鷹山の言葉「なせば成る」には続きがあって、「成る」より「為る」が正しいらしく、「なせば為る 成さねば為らぬ 何事も 成らぬは人の なさぬなりけり」である。
「何かを為し遂げようという意思」だけで何とかなるというのか。空疎だ。

ついでに。上杉鷹山には「伝国の辞」というものがある。

一、国家は先祖より子孫へ伝え候国家にして我私すべき物にはこれなく候(国家は先祖から子孫に伝えるところの国家であって、自分で身勝手にしてはならないものです。)
一、人民は国家に属したる人民にして我私すべき物にはこれなく候(人民は国家に属している人民であって、自分で勝手にしてはならないものです。)
一、国家人民のために立たる君にし君のために立たる国家人民にはこれなく候(国家と人民のために立てられている君主であって、君主のために立てられている国家や人民ではありません。)

二つ目の、人民に「我私すべき物にはこれなく候」というのには「人民の自由と権利」に基づいて反発するが、後の二つについては、為政者も同様に「我私すべき物にはこれなく候」ということで国民同様に縛られているし、「君のために立たる国家人民にはこれなく候」で、王政や天皇制・為政者の独断を禁じてもいる。安倍首相はよく読んでいないのだろう。

批判を怖れてであろう、この年頭所感では「憲法改悪」「集団的自衛権」「特定秘密保護法」関連については何も触れていない。
谷垣禎一幹事長に年頭所感で「切れ目のない安全保障法制の整備と憲法改正実現に向けた議論を、国民の皆様の理解を得ながら進めていく」と表明させてはいる。

現実には、某テレビ番組で「戦争をするにあたって……、いや、失礼、集団的自衛権を行使するにあたって……」と言い直してしまった、実は戦争をしたくてたまらないことを露呈した石破茂内閣府特命担当大臣・国務大臣のお粗末もあった。
今や武器輸出三原則解除もなし崩し。
自衛隊海外派遣を随時可能にする恒久法制定に向かっている。自衛隊による海外での米軍や多国籍軍への後方支援を想定しているとするが、戦場にどう「後方」が規定しうるのか。支援内容や活動地域が広がれば、憲法違反とされる「他国軍の武力行使との一体化」に抵触する恐れは否定できない。

特定秘密保護法の施行を受け、「秘密指定」が進んでいることが年末にわかった。
内閣官房が49件、海上保安庁が15件など、判明したうちで最多は従来の「防衛秘密」を移行させた防衛省の約4万5千件。
指定が進む一方で乱用をチェックする国会の「情報監視審査会」はいまだに委員さえ選任されていない。

安倍首相の年頭所感は、沖縄のこと、原発のことに触れていない。
この政権にとっては、沖縄のこと、原発のことは重要事項ではないのだ。
あるいは「既に決着がついたこと」にしたいのだ。
おそるべき「排除」の論理である。
放射能の半減期を義務教育で教えるべきだ。

「最後に、国民の皆様の一層の御理解と御支援をお願い申し上げるとともに、本年が、皆様一人ひとりにとって、実り多き素晴らしい一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。」
これが安倍「年頭所感」の締めくくりである。

「御理解」も「御支援」も、断固としてお断りする。
私たちには、現在の政権を覆す以外に、「実り多き素晴らしい時」を獲得する方法はないはずであるからだ。
その思いをさらに強く持った元旦である。

サザンオールスターズが首相夫妻観覧中の年末公演で「衆院解散なんですとむちゃを言う」という歌詞をアドリブで入れたり、桑田氏が紅白歌合戦で政権を皮肉るようにとれる歌をヒットラー髭で歌ったりという情報も聞くが、主婦がヘイトに走り、嫌韓反中本がベストセラーに列なるようになってしまったこの国で、政権批判がどこまで届くかどうか。

こんな書き込みは、いちいちやってられない。そういう必要のない世の中であってほしい。


※引用させてもらった写真は、アンジェリーナ・ジョリー監督の最新作(第二作)『Unbroken』の宣材。第二次世界大戦で旧日本軍の捕虜となった米兵の実話を映画化したものだが、この日本列島と日の丸とオリンピックが血で繋がるイメージはまさに今の日本についての警告のようだ。日本公開が危ぶまれているという噂もある。もしもそうなるのなら公開できないことこそが「国辱」だ。
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする