Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

「桃太郎」は日本の侵略戦争で子どもたちと国民へのプロパガンダに使われた「海の神兵」だった

2014-10-26 | Weblog
産経新聞系メディアに衆院議員・義家弘介が「子供が使う教科書だからこそ」という文を寄せている。これが、表現の自由を脅かし、歴史をねじ曲げる内容である。

義家議員は教科書検定で「社会科の教科書に見られる一面的な記述、偏向した記述を改めるための活動をしてきた」そうだ。「この度の改定により、すべての社会科教科書が歪曲自虐史観から脱却することを期待したい」ともいう。
彼は平成10年度から14年度まで使用された高校の教科書「国語I」(筑摩書房)に、作家の池澤夏樹氏の「狩猟民の心」を取り上げた単元があったことに触れている。
義家議員が引用したとおりに池澤氏の文を引用する。

《日本人の(略)心性を最もよく表現している物語は何か。ぼくはそれは「桃太郎」だと思う。あれは一方的な征伐の話だ。鬼は最初から鬼と規定されているのであって、桃太郎一族に害をなしたわけではない。しかも桃太郎と一緒に行くのは友人でも同志でもなくて、黍(きび)団子というあやしげな給料で雇われた傭兵(ようへい)なのだ。更(さら)に言えば、彼らはすべて士官である桃太郎よりも劣る人間以下の兵卒として(略)、動物という限定的な身分を与えられている。彼らは鬼ケ島を攻撃し、征服し、略奪して戻る。この話には侵略戦争の思想以外のものは何もない》

以下は、義家議員のコメント。

「わが国では思想及び良心の自由、表現の自由が保障されている。作者が作家としてどのような表現で思想を開陳しようとも、法に触れない限り自由である。しかし、おそらく伝統的な日本人なら誰もが唖然とするであろう一方的な思想と見解が、公教育で用いる教科書の検定を堂々と通過して、子供たちの元に届けられた、という事実に私は驚きを隠せない。
例えばこの単元を用いて、偏向した考えを持つ教師が「日本人の心性とは、どのようなものであると筆者は指摘しているか。漢字4字で書きなさい」などという問題を作成したら一体どうなるか。生徒たちは「侵略思想」と答えるしかないだろう。
歴史を超えて語り継いできたお伽噺が侵略思想の権化としてすり替わり、子供たちを巻き込んで展開されていくことなど公教育の現場ではあってはならないことだ。
教科書改善の活動はまだ道半ばである。今後も継続して取り組んでいく決意だ。」

義家議員自身が言うように、池澤夏樹氏の文は表現の自由で守られるべきだ。同時に、教科書に選び選ばれる自由と権利もある。
義家議員はこの文で結局、自身の「偏向」を告白しているようなものだ。

私自身は瀬戸内海地方出身ゆえ、「桃太郎伝説」が島々の闘争を背景にうまれたものであり、陸の民と海の民の相克も含んでおり、また、ディティールどれ一つとっても皮肉に受け止めるしかないところが多いことは、よく知っている。また、諸手を挙げて「よいお話」と皆が言っているとも思わないのだが、それも岡山では常識である。
だいたい犬猿雉トリオは「キビ団子と引き替え」に桃太郎に協力するのである。俗な欲と利益で動くのであって正義の物語ではない。色々言い出すときりがない。桃太郎はただ威張っていただけである。
「桃太郎はなぜえらいのか、それは彼が桃太郎だからである」という、おとぎ話特有の、実に幼稚なトートロジーがある。これは人間の平等や差別の撤廃といった考え方にも反するのだが、これを言い出すと説明が長くなるのでやめておく。
私は何年か前、岡山で開催された「生涯学習フェスティバル」全国大会の委嘱により開会式のプロデューサーを担当したとき、やはり同県出身の岸田敏志さん主演で、だめだめな桃太郎の劇を作ったりしている。全国の文化・教育関係者が観たわけだが、なんのお咎めもなかった。
ちょっと断言が過ぎる面はあるが、池澤氏の文が「日本人なら誰もが唖然とするであろう一方的な思想と見解」とはいえない一つの見解であることは、既に明らかだ。

義家議員は「お伽噺が侵略思想の権化としてすり替わり」というが、何とどうすり替わったというのだろう。
巧妙にねじ曲げられた前提を強弁している保守主義者のやり方だが、彼らが何と言おうと「桃太郎が侵略思想の権化として利用されたこと」じたいは、明白な、歴史的事実である。
義家議員はまったく勉強が足りない。取り巻き連中もなんで教えてやらないのだろう。

その「事実」については、証明するも何も、タイトルじたいが『桃太郎 海の神兵』という長編アニメが存在する。
大日本帝国海軍省主導による国策アニメである。1944年松竹製作、戦時下の1945年4月12日公開。(白黒、74分)
「南方戦線のセレベス島・メナドへの日本海軍の奇襲作戦を題材に海軍陸戦隊落下傘部隊の活躍を描き、当時の日本政府の大義であった「八紘一宇」と「アジア解放」を主題にした大作である」と、ウィキペディアにも載っている。そもそも日本映画史に少しでも関心がある者なら、誰でも知っているのだ。
ものすごい手間と人材を投入したフルアニメであり、手塚治虫にも影響を与えたことで有名。技術的には米ディズニーの長編カラーアニメ映画『ファンタジア』をお手本にしたというから、なんとも皮肉だ。手塚治虫少年はこの映画を観てアニメ開眼もしたが、当時はすっかり軍国少年として洗脳もされてしまったのだという。
観たのは昔だから詳細は忘れたが、猿、犬、雉、熊(なぜか追加されている!)ら極秘で編成された海軍陸戦隊落下傘部隊が、唯一の人間である桃太郎隊長と共に、鬼(角をつけた白人)のだまし討ちにより征服された『鬼ヶ島』への空挺作戦を行う、という物語。
有名な映画中歌「アイウエオの歌」は、侵略占領地の住民(動物たちとして描かれる)に「日本語教育」を強いた事実の反映である。
このアニメの作り手たちは、命令だから従ったわけであり、こんな軍国主義的な映画は作りたくなかったと証言している。
表現・創作の自由が踏みにじられた「戦時下」の産物だ。

1936年の日本動画「オモチャ箱」シリーズにも、悪魔めいたミッキーマウスの空爆に苦しめられた島民を絵本から抜け出た桃太郎が救う描写が出てくる。桃太郎が反アメリカ、戦意昂揚、武力賞賛に使われているのは間違いがない。余談だが、桃太郎や花咲か爺さんがやがて敵性語になるはずの「オッケー」と言うのがなんともおかしかったのを憶えている。

義家議員は『桃太郎 海の神兵』を胸を張って視聴覚教材に取り上げ、「歴史を超えて語り継いできたお伽噺」を「日本の歴史の捏造」に使用し、子供たちを巻き込んで展開していくつもりなのかもしれない。

教育の現場さえ、「嘘も百回言ったら本当になる」「大声で相手を圧倒すれば勝ったことになる」という「ヘイト」の考えに乗っ取られている。
こんな連中に「道徳」の授業などをでっち上げさせたら、たいへんなことになる。
子どもたちに正しい歴史を教えるべきだ。「〈戦争という過ち〉についてきちんと教えるという前提が失われた時代」になってしまったら取り返しがつかないことを、肝に銘じなければならない。
コメント (6)
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