A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記83 「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」

2007-08-24 22:46:25 | 書物
タイトル:ナショナル・ストーリー・プロジェクト
原題:I THOUGHT MY FATHER WAS GOD AND OTHER TRUE TALES FROM NPR'S NATIONAL STORY PROJECT
著者:ポール・オースター編 
   柴田元幸、岸本佐知子、畔柳和代、前山佳朱彦、山崎暁子訳
装幀:新潮社装幀室
発行:新潮社
発行日:2005年6月30日
内容:
誰かがこの本を最初から最後まで読んで、一度も涙を流さず一度も声を上げて笑わないという事態は私には想像しがたい。 ポール・オースター

爆笑もののヘマ、胸を締めつけられるような偶然、死とのニアミス、奇跡のような遭遇、およそありえない皮肉、もろもろの予兆、悲しみ、痛み、夢。投稿者たちが取り上げたのはそういったテーマだった。世界について知れば知るほど、世界はますます捉えがたい、ますます混乱させられる場になっていくと信じているのは自分一人ではないことを私は知った。

オースターが全米から募り、選んで、編集し、「アメリカが物語るのが聞こえる」と感動した、180の実話。

購入日:2007年8月13日
購入店:e-books
購入理由:
ポール・オースターといえば私も『ムーン・パレス』や映画化された『スモーク』など好きな作品の多い作家だ。その彼がこのような無名の市井の人々の物語を集めた本を出していたとは。
この本の存在を知ったのは、昨年のことだ。
クリスマス・イヴの夜にJ-WAVEというラジオ局で作家の沢木耕太郎がナビゲーションをつとめる番組が放送されていた。この番組は毎年クリスマス・イブの夜に放送を行い、もう何年か10年ぐらいはたっているようだ。わたしも何回か聞き続けていた記憶がある。その番組の中で、沢木氏が紹介していたのが本書だった。番組によれば、この『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』もラジオ番組から生まれたということから、昨年の番組内に沢木氏はこの番組でもリスナーからそれぞれの「物語」を募集し、1年後に発表したい、という趣旨から紹介された本だった。
無名の人々の「物語」を集めること。
たいへん興味深いアイデアであり、「普通」を嫌い「個性」ばかり求めたがる今の風潮をいぶかしく思うところもあり、また、戦前のドイツの写真家アウグスト・ザンダーのさまざまな職業に従事する人々を撮影した写真集を思い出したりもし、ぜひ読みたいと思っていたが値段がそこそこするのであきらめていた。だが、地元の古本屋で偶然見つけ購入。
たかが1冊の本を店頭で見つけ買うだけの話なのに、いろいろな記憶と結びついているものである。

未読日記82 「パイドン」

2007-08-24 22:15:22 | 書物
タイトル:パイドン 魂の不死について
著者:プラトン 岩田靖夫訳
発行:岩波書店/岩波文庫 青602-2
発行日:1998年2月16日
内容:
人間のうちにあってわれわれを支配し、イデアを把握する力を持つ魂は、永遠不滅のイデアの世界と同族のものである。死は魂の消滅ではなく、人間のうちにある神的な霊魂の肉体の牢獄からの解放である―ソクラテスの最期のときという設定で行われた「魂の不死」についての対話。『国家』へと続くプラトン中期の代表作。

購入日:2007年8月13日
購入店:e-books
購入理由:
不条理な日常をあまりに長く過ごしてくると、さすがにプラトンでも読みたくなる今日この頃。久しぶりに地元の古本屋を散策していたら、そのプラトンを見つけ購入。何かにつけプラトンというのは批判されてばかりいるのだが、批判されてばかりだとアマノジャクの私としては読みたくなる。それにかつての恩師がプラトン好き(いや、イデア好きか?)だったのも影響しているのかもしれない。

TOUCHING WORD 008

2007-08-23 22:18:07 | ことば
研究者に必要な資質とは何か、それは「非人情」である。
(p.178 「「おれって天才か」と笑みを浮かべる」『狼少年のパラドクス』内田樹、朝日新聞社、2007.2)

フランス現代思想、映画論、武道論を専門とする内田樹(うちだたつる)の『狼少年のパラドクス』を、仕事で教育関連のレポートを求められたため読んでいたところいたく感心してしまったので紹介したい。

研究者に必要な資質は何かと問われたとき、内田氏はその条件を「非人情」だという。

「「大学院に在籍していたり、オーバードクターであったり、任期制の助手であったり、非常勤のかけもちで暮していたりする「不安定な」身分の若い研究者たちにとっていちばん必要な知的資質はその「不安定さ」を「まるで気にしないで笑って暮せる」能力である。(中略)それは、「生涯定職なし、四畳半暮らし、主食はカップ麺」というようなライフスタイルであっても「ま、いいすよ。おれ、勉強好きだし。好きなだけ本読んで、原稿書いてられるなら」と笑えるような精神の持ち主であることが必要である。」(p.178)

まさに状況が同じだけに爆笑してしまったが、現にそう思っていることを言葉にされると客観的に言って喜劇的である。

さらに内田氏は、その研究は正当に評価されるとは限らないし、そのような「不条理」に耐えなければならないと言う。もし、能力に対して適正な評価を求めるならそのような職業はいくらでもあるし、「条理の通る」世界で生きる方がいい。その上で、この「不条理」な世界に生きられる人間は2種類しかいない。

 (1)この世界以外ではまったく「つぶしがきかない」人。
 (2)自分がいま研究していることに夢中で、毎日が楽しくて仕方がない人。

この2種類の人間に別けられるという。その中で内田氏が研究者の資質として必要であると考えるのは(2)のような精神構造であり、それを「非人情」という。

「「非人情」は「不人情」とは違う。「不人情」は、他人の「人情」(他人が自分をどう思っているか、自分は何を期待されているのか、自分がどうふるまうべきか)がわかった上で、それを無視する人間のことである。「非人情」とは他人の「人情」というものをそもそも自分の行動決定における初期条件にカウントしない人間のことである。他人が自分をどう思っているかというようなことは、はなから「非人情」な人間の思考の主題にならないのである。」(p.179-180)

「非」と「不」の違いで人情もかわるものである。
「不人情」も「非人情」も他人を配慮しない点では同じだが、「非人情」な人間はつねに他人に害を与えるわけではない。例えば、「「世界中の困っている人を救おう」というような途方もないことを考えるのは、たいてい「非人情」な人間」だと内田氏は指摘する。

「で、私が思うに、研究者に限らず、独りで何かをやろうとする人に必要な資質はこの「非人情」である。私が知る限り、楽しそうに仕事をしている研究者や芸術家やアントレプレナー(引用者註:企業家)はみなさん折り紙つきの「非人情もの」である。「非人情」でなければ「不条理」に耐えてなおかつハッピーに生きて行くことはできない。」(p.180-181)

すべてに賛成できるとは思わないが、これからの生き方として「非人情」というのは可能性があると思うし、現にそういう考え方、生き方をしてしまっている自分なんかは楽ではあると思う。最近読んだ本の中では目から鱗の痛快な本でおすすめだが、その読みやすさには注意しつつ読んだほうがといいとは思う。あ、これも「非人情」か?

未読日記81 「風とロック」

2007-08-23 21:21:55 | 書物
タイトル:月刊風とロック 8月号
発行:風とロック
発行日:2007年8月1日
定価:0円
内容:
「風とロック」はフリーペーパーの月刊誌。
編集はクリエイティブ・ディレクター箭内道彦。
8月号の特集は女優の「樹木希林」。

入手日:2007年8月11日
入手場所:六本木ヒルズ アートアンドデザインストア
「風とロック」。以前から気になってはいたが、実物の冊子を手に取るのは初めて。樹木希林にロングインタビューするとは意外である。あとの誌面はタワーレコードのフリーペーパー「バウンス」を思わせたりもするが、ロックとファッションを中心としたサブカル雑誌という感じ。

未読日記80 「SevenStars★★★★★★★」

2007-08-23 21:04:43 | 書物
タイトル:SevenStars★★★★★★★ セブンスターと響きあう、7人の男。
撮影:荒木経惟
発行:JT
発行日:2007年8月
内容:
JTのタバコブランド「セブンスター」のパブリシティ資料として制作されたと思われる荒木経惟撮影による写真集。「セブンスターと響きあう、7人の男」をテーマに尚玄(俳優)、伊藤慎一(スケーター)、天明屋尚(現代美術家)、熊谷隆志(スタイリスト)、野崎晴弘(バリスタ)、いしわたり淳治(音楽プロデューサー)、野村訓市(エディター)の7人がモデルとして登場している。

入手日:2007年8月10日
販促用に送られてきた冊子。荒木経惟撮影というのには驚いた。広告用写真にこうしてアートよりの写真家が関わっていたりするから日本のデザイン界はおもしろい。でも、表紙の写真を見ると森山大道ぽい気がする・・。

未読日記79 「ZERO THUMBNAIL」

2007-08-23 20:39:38 | 書物
タイトル:ZERO THUMBNAIL
著者:岡崎乾二郎
発行:artictoc[エンガワ]
発行日:2007年7月7日
金額:1,890円
内容:
2007年6月6日-8月8日に東京吉祥寺のA-thingsにおいて開催された「岡崎乾二郎/ZERO THUMBNAIL」展に際して発行された作品集。
タイトル通りゼロ号及びサムホール・サイズの作品を中心とした展示。
作品図版50点、作家略歴
テキスト「蜜と眼」林道郎(美術史・美術批評)を収録

購入日:2007年8月4日
購入場所:A-things
購入理由:
岡崎乾二郎にとっては2002年にセゾン美術館で開催された個展カタログについで2冊目となる作品集。セゾンの個展カタログは早々と売切れてしまったのを考えるとこの冊子の存在は貴重である。岡崎乾二郎ほどの作家にいたっても出版社から作品集1冊出ていないのは嘆かわしい。
ややカタログの貴重さばかりを強調してしまったが、この作品集もまた作品がすばらしいのである。サムホールサイズと聞くと習作程度のものかと思われるかもしれないが、作品サイズの小ささは作品の善し悪しとは関係ない話だ。むしろ作品が「小さい」とはまったく感じない。作品の持つ空間はサムホールを越えている。この広がりと奥行きこそ絵画を見る経験なのではないか。私はこれまで岡崎乾二郎にはそれほど注意を払ってきたとはいえないのだが、この展示を見て思いを新たにした。
A-thingsでの展示もまたすばらしく、1点壁にかかっているだけで、そこから言いようのない緊張感と優しさが迸り出て私たちの足を踏み止ませる。A-thingsの空間というのは不思議なもので、雑貨や家具や本などが置いてある。つまり、ややこじゃれてはいるが日常空間に近い環境で作品を展示しなければならない制約がある。しかし、よい作品というのはいつもそうであるようにどのような空間に置かれようと作品の自立さは崩れないと思いを強くした。

未読日記78 「新世代への視点2006」

2007-08-22 21:28:43 | 書物
タイトル:画廊からの発言-新世代への視点2006
編集・デザイン:宇治晶、上田雄三、小川浩子(ギャラリーQ)
発行:東京現代美術画廊会議
発行日:2006年7月24日
内容:
銀座・京橋にある10の画廊が共同開催として行っている隔年開催の展覧会。2006年度は7月24日-8月5日に開催。各回ごとに各画廊が自身を持って推す作家を取り上げ個展を行う。参加画廊と参加作家は以下の通り。

ギャラリーなつか-滑川由夏
コバヤシ画廊-寺田佳央
ギャラリイK-塩津淳司
ギャラリー現-冨井大裕
ギャラリー山口-くごうあい
ギャルリー東京ユマニテ-太田麻里
藍画廊-塩入由美
ギャラリー21+葉-中島立雄
なびす画廊-奥敬詩
ギャラリーQ-タムラサトル

コンセプト、各作家コメント・図版1点、略歴、2003年度概要、すべて対訳付。

寄贈日:2007年8月4日
場所:なびす画廊
1年前のことなのになかなか思い出せないことがもどかしいのだが、すべて見た中で印象に残っている作家・作品を記してみたい。ギャラリイKの塩津淳司、ギャラリー現の冨井大裕、なびす画廊の奥敬詩の3人は偶然にも全員彫刻、インスタレーションを制作しているのだが、傾向がまったく異なりながらもよい仕事をしている。冨井は今年のart & river bank、switch pointでの個展の方が私はより好みではあり、この時はさして気にしていなかったかもしれない。塩津は以前の個展が地味だったせいもあり、スケール感をました展示に変化を感じた。奥は春にも個展を開催していたので、ブランクがあまりない中で視線を滑り込ませるようなかこう岩を素材とした作品を見せてくれる。
このように画廊が合同で取り組む展覧会は個別に存在していたギャラリーを結びつける試みとして興味深いので継続してほしいと思う。

未読日記77 「竹内義郎」

2007-08-22 20:54:11 | 書物
タイトル:竹内義郎
発行:なびす画廊
発行日:2004年
内容:
2004年7月12日-7月24日に東京・なびす画廊にて開催された「竹内義郎」展のカタログ。
作品図版8点、作家コメント・作家略歴、
テキスト「イデア±きず=イメージ、とすれば」峯村敏明

寄贈日:2007年8月4日
場所:なびす画廊
竹内義郎の絵画を見るとき、わたしたちはその装飾的な画面からミニマルアートのような作品を連想してしまうかもしれません。しかし、そのデザイン的な形象からそう感じたとしても、実際の作品からはそのような冷たい印象は感じられません。それは、作品の細部を見ればわかります。均一に描かれたと見えた装飾窓のようなものが左右で色彩のタッチ、筆の痕跡が異なることが見続けていくうちにわかるからです。それは、わたしたちに絵画という形象の出現を力強く画面に引き寄せてやみません。

未読日記76 「松本春崇」

2007-08-21 22:26:17 | 書物
タイトル:松本春崇
発行:なびす画廊
発行日:2000年7月3日
内容:
2000年7月3日-7月15日に東京・なびす画廊にて開催された「松本春崇」展のカタログ。
作品図版6点、作家略歴、テキスト「制作ノートより 四つの部分絵画」「四つの部分主義」松本春崇、「四つ子の痕跡たちを前にして」星埜守之(フランス文学・美術)収録。すべて英訳あり。

寄贈日:2007年8月4日
場所:なびす画廊
連続であり反復であり変容である松本春崇の絵画は、作品を見るわたしたちを視線の誘導へと駆りたてます。松本の絵画は四つの部分が組み合わされた絵画として成り立ちます。もっとも四つの部分とはオタマジャクシであったり、蛙であったり、鼻と舌の間であったりそのかたちはおぼつかない像を結ぶだけです。それらは何か一連の動作のようでもあり、変容でもあります。そう、わたしたちの視線が作り出してしまう不確かな像こそ、松本が制作した「絵画」なのかもしれません。


未読日記75 「黒川弘毅」

2007-08-21 22:05:27 | 書物
タイトル:黒川弘毅
発行:なびす画廊
発行日:1994年
内容:
1994年6月13日-6月25日に東京・なびす画廊において開催された「黒川弘毅」展のカタログ。
作品図版9点、作家コメント・略歴、テキスト「この子を見よ」峯村敏明、収録。

寄贈日:2007年8月4日
場所:なびす画廊
黒川弘毅の作品に接して感じるのはブロンズであることの絶対的な必然性です。とくにこのスパルトイシリーズは、この世に生を受けたことをためらいもなく祝福させてしまうような恐るべき存在として今わたしたちの前にあります/ありました。その存在することの恐ろしさこそ「芸術」と名づけることの可能なひとつの形態なのかもしれません。