A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記88 「下流志向」

2007-08-30 23:11:39 | 書物
タイトル:下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
著者:内田樹
ブックデザイン:日下潤一
矢印:沼田美奈子
発行:講談社
発行日:2007年2月20日(初版2007年1月30日)
内容:
学力低下、ニート増加の深層!
最新ベストセラー 新聞・雑誌で話題沸騰!
 勉強を嫌悪する日本の子ども
 「自分探し」イデオロギー
 勉強しなくても自信たっぷり
 IT長者を支持する理由
 クレーマー化する親
 ニートの未来

日本社会に未来はあるかウチダ教授が難問に挑む!

学習と労働について、これまでとは違う考え方をする新しいタイプの日本人、新しい世代集団が今生まれつつある。このまま若い人たちがぞろぞろと学びから逃走し、労働から逃走した場合に日本社会の先はかなり暗いものになります。この危機にどう対処すべきか-本書より
(本書帯より)

購入日:2007年8月16日
購入店:ジュンク堂書店 新宿店
購入理由:
大学教育に関するレポートのための参考資料として購入した1冊。
ジュンク堂書店の現代思想コーナーで内田樹の著作がまとめて置いてあり、以前新聞のコラムで読んで気になっていた人だったのでしばし足を止め立ち読みした。内田樹という人は、フランス現代思想、映画論、武道論を専門としており、その専門分野を見る限りかなり毛色の変わった学者で気になっていたのだ。彼は教育関係についての著作もあり、かつ平易な文体で書かれているため、サクッと読めそうだと判断しこの『下流志向』と『狼少年のパラドクス』の2冊を購入。
この『下流志向』は会社のセミナー向けに行った講演会がもとになっており、話の都合上くどい部分もあったり、散漫な点もあるのだが、さまざまなキーワードを散りばめていて、問題意識が高まるストレッチのような本である。読後感じるのは教育というより若者論、現代社会論といった感じか。しかし、ただの若者論で流せないのは私もそのような現場におり、少なからず頷いてしまう現場を知っているせいだろう。
学ぶこと、働くことに関しての考えは、実に明快で、蓮實重彦の『私が大学について知っている二、三の事柄』とも共通する点も多い。文体から橋本治を連想したりしたが、橋本治を好きな人にはおすすめの本である。ベストセラータイプの本なので賞味期限はあると思うが、読んで損はない快作。


未読日記87 「私が大学について知っている二、三の事柄」

2007-08-30 22:35:43 | 書物
タイトル:私が大学について知っている二、三の事柄
著者:蓮實重彦
装丁:鈴木堯+小林煌[タウハウス]
発行:財団法人東京大学出版会
発行日:2002年4月15日(初版2001年12月5日)
内容:
変化へ、細部へ

[主要目次]
Ⅰ-プラトンの寝椅子
 歴史という現実
 思考の柔軟性(他)
Ⅱ-私が大学について知っている二、三の事柄
 大学は「黒塗りの高級車」に似てはならない
 依怙贔屓と偏愛(他)
Ⅲ-「革命」のための「プラットフォーム」
 「日本モデル」からの脱却
 「改革」という言葉の価値下落は誰の責任か(他)
Ⅳ-知性の行方
 「変化」の体験に向けて
 「惹きつける力」について(他)
Ⅴ-偏愛のすすめ
 変化する細部への偏愛

(本書帯より)

購入日:2007年8月16日
購入店:ジュンク堂書店 新宿店
購入理由:
夏休み中に大学教育についてまとめなければならないレポートがあり、参考に購入した3冊のうちのひとつ。どのような本を読めばいいのか、教育分野に疎い私にはわからなかったので、そのような時はまず書店に行く。インターネットではなく、実物の書物が並んだ棚を見ているうちに、私が今買うべき本がわかってくるのだ。インターネットでは、漠然とした書物を探すのには不向きな気がして、いまだに私は書店派なのだ。
気が向かないテーマなので、現代思想のあたりをうろうろしていたら、この本を見つけた。蓮實氏と言えば、私もその映画論の大ファンなのだが、東大総長時代の後半に書かれた文章をまとめたこの本は、直接参考にはならないかもしれないが、教育、研究という問題の本質を考える上ではおおいに参考になりそうだと考え購入。結果は大成功というべきで、蓮實氏らしい淡々としつつ痛快なもの言いに、いくつも考えるヒントが込められていて、すがすがしくなる読書経験となった。これこそ夏の読書という感じである。
 また、先日古本屋でプラトンの『パイドン』を購入したが、蓮實氏が本書の中で「今の日本がうまくいっていないのは、ごく単純に誰もプラトンを読んでいないからだ、プラトンを読めばどうすればいいかということはすぐわかる、というのが私の考えであります。」(p.213)と述べいて、どこか響きあうものを感じた。書物を読む、買うという行為がどこかで連鎖していく。このチェーン・リアクションというべき現象こそ大袈裟な言い方をすれば「変化」ということなのかもしれない。