A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

TOUCHING WORD 008

2007-08-23 22:18:07 | ことば
研究者に必要な資質とは何か、それは「非人情」である。
(p.178 「「おれって天才か」と笑みを浮かべる」『狼少年のパラドクス』内田樹、朝日新聞社、2007.2)

フランス現代思想、映画論、武道論を専門とする内田樹(うちだたつる)の『狼少年のパラドクス』を、仕事で教育関連のレポートを求められたため読んでいたところいたく感心してしまったので紹介したい。

研究者に必要な資質は何かと問われたとき、内田氏はその条件を「非人情」だという。

「「大学院に在籍していたり、オーバードクターであったり、任期制の助手であったり、非常勤のかけもちで暮していたりする「不安定な」身分の若い研究者たちにとっていちばん必要な知的資質はその「不安定さ」を「まるで気にしないで笑って暮せる」能力である。(中略)それは、「生涯定職なし、四畳半暮らし、主食はカップ麺」というようなライフスタイルであっても「ま、いいすよ。おれ、勉強好きだし。好きなだけ本読んで、原稿書いてられるなら」と笑えるような精神の持ち主であることが必要である。」(p.178)

まさに状況が同じだけに爆笑してしまったが、現にそう思っていることを言葉にされると客観的に言って喜劇的である。

さらに内田氏は、その研究は正当に評価されるとは限らないし、そのような「不条理」に耐えなければならないと言う。もし、能力に対して適正な評価を求めるならそのような職業はいくらでもあるし、「条理の通る」世界で生きる方がいい。その上で、この「不条理」な世界に生きられる人間は2種類しかいない。

 (1)この世界以外ではまったく「つぶしがきかない」人。
 (2)自分がいま研究していることに夢中で、毎日が楽しくて仕方がない人。

この2種類の人間に別けられるという。その中で内田氏が研究者の資質として必要であると考えるのは(2)のような精神構造であり、それを「非人情」という。

「「非人情」は「不人情」とは違う。「不人情」は、他人の「人情」(他人が自分をどう思っているか、自分は何を期待されているのか、自分がどうふるまうべきか)がわかった上で、それを無視する人間のことである。「非人情」とは他人の「人情」というものをそもそも自分の行動決定における初期条件にカウントしない人間のことである。他人が自分をどう思っているかというようなことは、はなから「非人情」な人間の思考の主題にならないのである。」(p.179-180)

「非」と「不」の違いで人情もかわるものである。
「不人情」も「非人情」も他人を配慮しない点では同じだが、「非人情」な人間はつねに他人に害を与えるわけではない。例えば、「「世界中の困っている人を救おう」というような途方もないことを考えるのは、たいてい「非人情」な人間」だと内田氏は指摘する。

「で、私が思うに、研究者に限らず、独りで何かをやろうとする人に必要な資質はこの「非人情」である。私が知る限り、楽しそうに仕事をしている研究者や芸術家やアントレプレナー(引用者註:企業家)はみなさん折り紙つきの「非人情もの」である。「非人情」でなければ「不条理」に耐えてなおかつハッピーに生きて行くことはできない。」(p.180-181)

すべてに賛成できるとは思わないが、これからの生き方として「非人情」というのは可能性があると思うし、現にそういう考え方、生き方をしてしまっている自分なんかは楽ではあると思う。最近読んだ本の中では目から鱗の痛快な本でおすすめだが、その読みやすさには注意しつつ読んだほうがといいとは思う。あ、これも「非人情」か?


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