大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・逢魔が時・2『座敷童』

2015-10-08 11:24:02 | 小説5
逢魔が時・2
『座敷童』
           

 あれから例の横断歩道は現れない。

 三日ほどは気になったが、摩子には学校の悩みがあったので、子どものころからの夢想癖の為せる技と納得した。
 幼いころ、魔女のアニメを観た。魔女は子どもたちを魔界に誘い込み、自分の小間使いに使っていた。アニメを観た後、街のいろんなところで魔女を見かけるようになり、とても怖い想いをしたことがある。映画で純白のウェディングドレスを着た花嫁を見た、すると駅前や商店街のお店のショーウィンドウにウェディングドレスを着た大人の自分が見えたこともある。

 ま、あれの一種だろ。今のあたしには現実の問題がいっぱいあるんだ。

「……オレの脚本のどこが悪い」
 森本は静かに切れた。
 コンクールの脚本候補を出したのは、摩子と部長の森本だけだった。摩子は高校演劇の古典とも言われる既成の脚本を、森本はラノベに影響された自分の創作脚本を押した。
 摩子は、自分の推薦にこだわる気はなかったが、森本の創作劇は、どうにも書けていなかった。人物は類型的で台詞は、ことごとく説明的。転換が多く、道具も大掛かりになる。稽古を進めていっても破綻するのは目に見えていた。

 クラブの調和を守ることを優先して、摩子は、それ以上の反対はしなかった。で、演劇部は壊滅寸前になっている。

 校門を出ると、どっと疲れがやってきた。
 摩子は舞台監督なので、稽古中はハイテンションでいる。ここまで破綻せずに稽古を維持できたのは、摩子の力である。
 でも、この三日ほどは、それも限界になってきている。稽古に人が集まらなくなっている。代役は摩子一人でこなしている。もう全部の役の台詞が頭に入っている。そんな摩子を、森本は疎ましく思っていて、顔色や態度に出る。

「もう限界かな……」

 ここのところ癖になった独り言が口からこぼれた。独り言なので返事する者などはいない。
「そうだニャー」
「エ……」
 猫が追い越しざまに返事をした。三日前、あの横断歩道で追い越していった猫だ。
「いま、喋った?……喋ったよね……」
 猫は一瞬振り返ると、黄昏色の路地裏に入っていった。
「待って、待ってよ!」
 猫を追いかけて、摩子は路地裏をクネクネと小走り。

 お地蔵さんの角を曲がると行き止まりだった。

「あれ……ここを曲がったはず……」
 前には何十年も前からあるような板塀、高さは二メートル以上もあり、あの猫が飛び越えられるようなものではない。摩子は、それでも確かめたくて、板塀に手を掛けた……すると、板塀がクルリと回って、摩子は前につんのめってしまった。
「ウワー!」
 天地がひっくり返り、二階から落ちるような衝撃を感じ、一瞬目がくらんだ。
「ええ…………?」
 見覚えのある小さな崖が目の前に立ちはだかっている、崖の上には板塀……あそこから落ちたんだ……ここは、あの二車線の道沿いにある崖、あの向こうには行ったことがない。

「こっちニャー」後ろで、猫の声。

 振り返ると……あの横断歩道があった。
 猫がお尻を向けて、横断歩道を渡っていく。
「待って」
 猫を追いかけ、横断歩道の真ん中までくると、またグラリときた。

「あ……」摩子はたたらを踏んだ。

 横断歩道を渡ると、電柱一本分先の路側帯におカッパに着物姿の女の子が立っていた。
「……ほんとに来てくれたんだ」
 青白い女の子の頬に、ほんのりと血の気がさした。
「あなたは……?」
「聞かない方がいいよ……それより、あたしに『がんばれ』って言って」
 熱っぽい目をして女の子が言う。「がんばれ」はクラブでさんざん言ってきた言葉、あまりいい感じはしない。
「あたしはちゃんと聞くから」
 女の子は切なそうにに胸で手を組んだ。
「あ、えと……がんばって」
「うん……嬉しい!」
 女の子は、本当に嬉しそうに目を輝かせ、体も光ったかと思うと妖精のように消えてしまった。

「ただいま……あ……!」

 家に帰ると、しばらく見なかった男物の靴が並んでいた。
「……お父さん!」
「おかえり……摩子にもお母さんにも心配かけたな」
 長らく別居していた父が戻ってきた。お母さんも嬉しそうだ。
「お便所みたいな苗字だけど、もしばらく、このままでいようか……摩子?」
 御手洗(みたらい)家に幸せが戻ってきた。

 さっきの女の子は座敷童(ざしきわらし)だったようだ。
 

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