大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん⑥』

2019-06-30 07:03:07 | 戯曲
 
連載戯曲『梅さん⑥』  


 
 
ふく: ごめんなさい遅くなって。はい十六人分の署名と捺印(回覧板を渡す)
: ありがとうふくさん、グッドタイミングよ。
: 誰、その人?
: 渚の母方のひいひい婆ちゃん。
: お母さんのひい婆ちゃん? でも、なんで……
: ダサくって齢とってるか?
ふく: このなりとこの齢で死んだからさ。
: でも、歳は無理でも、その服装くらいなんとかしたら。
ふく: ハハ、動きやすくってさ。それに回覧板まわすのにピッタリでしょ。この子が渚? かわいい赤ちゃんだったのにねえ……
: 今でもかわいいよ!
ふく: ごめんね梅ちゃん、美智子がずぼらな育て方しちゃったから。
: 自分の責任よ、もう二十歳なんだから……
: ムッ……でもさ、聞いてよ、お母さんのひい婆ちゃん……梅さん、あたしの体を奪おうとしてんのよ。
ふく: アハハ、そのとおりだね「奪う」ってとこだけで聞いちゃうと変なこと連想しちゃうけど、渚にしてみりゃその通りだもんね。
: ね、でしょ、だから……
ふく: 元締めの決済も終わってるんでしょ?
: ええ、ついさっき。
ふく: じゃしかたないわ、回覧板も回し終わっちゃったし……
: ご覧、わたしを含む十六人の署名捺印。
: 十六人?
: 四代さかのぼると十六人の人間がいるんだよ、渚って子が一人生まれるのに。
 その十六人のやしゃごだからね渚は。その人達の認めをもらってきてもらったの。
 渚の心は初期化し、体はわたしが預かって、まっとうな人生を歩みますって……
 またいずれ、新しい人間として生まれ変わるんだ渚は……
ふく: 悪いようにはしないから。ね、梅さんもついてることだし。そういうこと……じゃ、あたしそろそろ……
: もう?
ふく: うん、内やしゃごの消去に行かなきゃならないから。
: 決まったの!?
ふく: ここに来る前に、元締めからレッドカード……とりつくしまもなかった。
: ……遠いんでしょ、ふくさんとこは?
ふく: 気持ちがね……孫の歳三がドイツ人と結婚しちゃったから……
: マレーネちゃん……だったよね。
ふく: うん、マレーネ・エッセンシュタイン・フクダ、舌噛みそう。
: レッドカードじゃ完全消去ね……
ふく: うん、でもカードの片すみ見て(カードを示す)
: 初期化可、ただし圧縮保存のうえ、百年間は解凍不可……情があるようなないような……
 あたし、最後くらいドイツ語でかましてやろうと思って、急ぎのアンチョコだから自信なくて、聞いてくれる?
: うん。
ふく: エス イスト ツァイト。エス イスト ショーン シュペート!
: もう遅すぎる、時間だよ……まるでファウストね。
ふく: ありがとう、通じるようね……渚ちゃんは百年もかからないからね、それに……
: ふくさん。 
ふく: 用事が済んだら、また戻ってくるわ。じゃ、アウフビーダゼーエン(消える)
: おふくさーん……行っちゃった……
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