大橋むつおのブログ

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明神男坂のぼりたい・39〔離婚旅行随伴記・4〕

2022-01-12 06:36:18 | 小説6

39〔離婚旅行随伴記・4〕  

        

 

 殺されていたのは新興暴力団の男。

 見た感じは、普通の会社員みたいだけど、いわゆる経済ヤクザというやつで、うちのお父さんなんかより。よっぽど株やら経済に詳しいインテリさん。

 で、なんで、このインテリヤクザが、明菜のお父さんの部屋で死んでいたか?

 どうやら、対立の老舗暴力団とトラブって、温泉に潜んでいたらしい。そして、見つかって逃げ込んだのが、明菜のお父さんの部屋。本人の部屋は隣りなので、どうやら、逃げるときに間違ったらしい。激しく争って奥の部屋はメチャクチャ。で、お父さんのジャケットが窓から外に飛び出した。

 ここから誤解が始まる。

 警察は、逃げてきた男と明菜が部屋で出くわして、明菜が騒いでトラブルになった。そして、なにかのはずみで、男が持っていたナイフで刺し殺してしまった。

 

 そして、ここからが大問題。

 正当防衛か過剰防衛かでもめた……。

 あたしは、必死で説明したけど、警察は女子高生が友達を助けるために庇っていると思ってる。

 いっそ誰かが露天風呂覗いて盗撮でもしてくれていたら、証拠になったのにと思ったぐらい。

 証拠というと、血染めのナイフ。

 てっきり撮影用の偽物と思ったから、明菜は気楽に握った。ベッチャリと明菜の指紋が付いている。それから、慌てふためいてるうちに明菜の浴衣には、血が付いてしまってるし、状況証拠は真っ黒け。

 さらに悲劇なのは、明菜のお父さんもお母さんも、警察の説明を信じてしまって「正当防衛!」と叫んだこと。もう、信じてるのはあたししか居ない。めちゃくちゃミゼラブルな状況。がんばれ、女ジャンバルジャン!

 無い頭を絞った。明菜のためにガンバルジャンにならなくっちゃ!

 

 お父さんの売れない小説を思い返した。

―― プロの殺しは、一目で分かるような証拠は残さない ――

 小説一般のセオリー。反社同士のイサカイに、今どき古典的な鉄砲玉は使わないだろう。

 プロを雇ってやるだろうし。だからこそ足の着きやすいチャカ(ピストル)は使っていない。ホトケさんには防御傷がない。部屋の中を逃げ回ったあげく、ブスリとやられている。警察は逆に明菜が逃げ回った時に部屋がメチャクチャになったと思っている。

 そして、もう一つ気がついた。

 プロの殺しだったら、すぐに逃げたりはしない。目立つからね。犯人は予定通り泊まって、気楽に温泉に浸かって帰るだろう。プロの仕事は目立たないことが第一だから。

 明菜のお父さんとお母さんはテンパってしまってる。例え正当防衛にしても明菜が殺したという事実は残る。明菜の心には癒しがたい傷が残るだろうと思っている。

 あたしは、なんとしても明菜の無実を証明したいと思った……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校


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