大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

あたしのあした13『放課後メールを打った』

2020-06-05 06:00:11 | ノベル2


13『放課後メールを打った』
      


 きょうはプールの補講は無い。

 プールに水が無いんだから当たり前。水野先生たちは、プールを使わせてくれる学校を探しているようだけど、簡単には見つからない。
 ネッチたちは「ラッキー!」と喜んでいる。
 浅はかな子たちだ。このさきプールの補講が無くなるわけじゃない。きのう予想した通り、ご近所の益荒男高校に決まるのは火を見るよりも明らかなのにね。

「ま、とりあえず、きょう一日心穏やかならいいのよ」
 ネッチは、トンカツを食べながら幸せそうに言う。
「そうかなあ……」
 疑問を呈しながら、付け合わせのキャベツの千切りにウスターソースをドボドボかける。
「ゲ、なにしてんの?」
「え、あ、おいしいんだよ」
 ムシャムシャとキャベツを咀嚼する。ソースの刺激とキャベツの甘さが混然一体となって、けっこういける。
「田中さんて、オヤジ臭い」
「そーかなあ……ネッチもやってみそ」
 ソースピッチャーを持ってネッチのお皿に迫る。
「か、勘弁してよーーー!」
 ネッチはお皿を持ち上げて嫌がる。
「アハハ、わかったわかった」
 あたしは、ソースピッチャーの口を自分の方に向け、プニっと力を入れる。シュッとソースが一吹き口の中に入る。
「うん、濃厚!……だけど、アハハハ、あたしって女捨ててるかもね」

「「「「「言えてるう」」」」」
 テーブルの女子たちの声が揃う。

「こんなのどう?」
 ノンコがスプーンだけでチャーハンの残ったのを小さなお握りにし、スプーンに乗っけて左手で弾く。お握りは一メートルほど飛び上がり、その間に待ち受けていた口でパクっと食べる。単純だけど見事なものだ。
「「「「「オーーーーーー!」」」」」」
 感嘆の声があがる。
「ノンコ、もっかい!」
 ノエ(伊藤野江)が参戦する。
「イクヨーーーハイ!」
 お握りが、さっきよりも高く上がる。
 ゴツン!と音がして「「痛ーーーー!!」」の声。
 ノンコが大口開けてキャッチしようとしたところへ、ノエが割り込んできたので、頭をぶつけてガチンコになる。
「「「「「「アハハハハハハ」」」」」」
 あたしの声も一緒になって、食堂に笑い声が満ちる。

 少し分かった。

 その時その瞬間を楽しくって生き方もあるんだ。

 放課後になってメールを打った。

――そちらのプール使わせてもらえませんか――

 あて先は、早乙女女学院の理事長。
 折り返し返事のメールが返ってきた。

――寛ちゃん、回復したのかい!?――

 あたしは寛一の名前でメールを打っていたことに気づいた。

 そして首をひねった。

 なんで早乙女女学院の理事長なんか知っていたんだろう?
 
 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 新・ここは世田谷豪徳寺・3... | トップ | メタモルフォーゼ・14『試... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ノベル2」カテゴリの最新記事