RE.乃木坂学院高校演劇部物語
この日は、トラックに乗って演習場に行った。
西田さんのとちがって七十三式大トラ。新型らしいけど乗り心地は西田さんのクラッシックな方がいい。ドライバーのテクニックかなあ……なんて思っていたら、いつの間にか一般道に出ていた。後ろから、ノーズが凹んだポルシェがついてきている。
―― よくやるよ。おまえら、何が悲しくって自衛隊なんかやってんだ ――てな顔したアベックが乗っていた。
―― お、自衛隊にもカワイイ子いるじゃん ―― なんて、思ったんだろう、女の子に携帯でボコられてやんの。
でも、二人ともニヤツイテ感じわる~。
一番後ろに座ってた西田さんが、ヘルメットを脱いで、ポルシェに向かってニターっと笑った。とたんにポルシェは運転がグニャグニャになり、ガードレールに左の横っ腹を思い切りこすって停まった。
「今度は廃車だな……」
西田さんは小さく呟くと、ヘルメットをかぶり直した。
演習場に着いた。一面雪の原野でチョー気持ちいい!
「まずは、演習場を一周ランニング。小休止のあとテント設営。壕掘りを行う」
オッチ、ニ、ソーレ! オッチ、ニ、ソーレ!
雪の進軍が始まった。
昨日の五千もきつかったけど、雪の上のランニングもね……と思ったら、案外楽に行けた。やっぱ慣れってスゴイってか、自衛隊の絞り方がハンパじゃないのよねぇ。
走り終わると、みんなの体から湯気がたっているのがおもしろかった。
「では、テントの設営にかかる。各自トラックから機材を取り出す……」
教官ドノは、ここで西田さんと目が合って、言い淀んだ。
「教官。ただ命じてくださればよろしい。『かかれ』が言いにくければ『実施』とおっしゃればよろしい」
「テント張り方用意……実施!」
教官ドノのヤケクソ気味の号令で始まった。支柱を立てて打ち込む。その間支柱を支えていることを「掌握」 支柱をロ-プで結びつけることを「結着」という。
企業グル-プさんは手間取って、規定時間をオーバーしてしまった。
「腕立て伏せ、用意!」
あらら……お気の毒。と、同情していたら、大空助教が宣告した。
「では、乃木坂班は、これより壕掘りにかかる。各自円匙(えんぴ)用意!」
「エンピツ!?」
夏鈴が天然ボケをかます。大空助教が吹き出しかけた。
「円匙とはシャベルのことである。用意、実施!」
大空さんも、西田さんを相手に「かかれ!」とは言いにくそう。
結局、このカワユイ大空助教の「命令」が、一番きつかった。むろん夕べの不寝番は別にしてね。
気がついたら、乃木坂さんがいっしょに壕を掘っている。
「これ、よくやらされたんだ。校庭の土は硬くてね。それに比べれば、ここは何度も掘ったり埋めたりしてるから、楽だよ」
「あのね、乃木坂さん……(^_^;)」
ひとりでに動いているとしか見えない円匙を隠すのは大変でした……はい。
☆ 主な登場人物
- 仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
- 坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
- 芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
- 芹沢 紀香 潤香の姉
- 貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
- 貴崎 サキ 貴崎マリの妹
- 大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
- 武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
- 南 夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
- 山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
- 峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
- 高橋 誠司 城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
- 柚木先生 乃木坂学院高校 演劇部副顧問
- 乃木坂さん 談話室の幽霊
- まどかの家族 父 母(恭子) 兄 祖父 祖母