大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

滅鬼の刃・32『学校のにおい・1』

2023-08-03 13:38:32 | エッセー

 エッセーラノベ    

32『学校のにおい・1』   

 

 

 この暑いなか、武者は回転焼きを持ってやってきました。

 

「昔は、たこ焼きやってる店やったら回転焼きもやってたけどなあ、いまは回転焼きやってる店はめったにない。それが、M駅の近くで見つけてなあ、嬉しくなって買うてきた」

「このクソ暑いのに、元気なじじいだ」

「もう年やねんからさ、一期一会やろ。涼しくなってからなんて思てたら命がないかもしれへん」

「ハハ、まあいいさ、茶でも淹れよう」

「うんと熱いやつな(^▽^)/」

「はは、なんだか我慢会になりそうだ」

「そういやなんやなあ、夏場は冷やし飴とか冷やしコーヒーとかもやってたなあ」

「うんうん、でっかい氷をいくつも入れたとこに入ってて、柄杓ですくってコップに注いでくれるんだ」

「そうそう、二口目か三口目で、こめかみのあたりがキーーンと痛なってきよるんや」

「夏の風物詩だったなあ」

「冷房とかは無かったけど、昼過ぎになると、近所のおばちゃんらがホースで水撒いとったなあ」

「うんうん、小さな虹が立ったりして、水のニオイがしたっけなあ。水なのに、ちょっとかび臭くってさ。あれは一種の化学反応なのかなあ」

「あれは、飛び散った水滴が地面の砂やら埃を含んでて、それのニオイやて話やぞ」

「そうなのか?」

「ああ、せやから、アスファルトやコンクリートの道は匂えへん」

「なるほどなあ……そういや、昔の学校ってニオイがしたなあ……」

「ああ、そうやなあ……」

 

 回転焼きから、ジジイ二人の話は学校のニオイになってきました。

 

「昔の学校って床も廊下も板張りだったから油のにおいがしたなあ」

「うん、学期に一回ぐらい油引きしてたなあ、登校して油のにおいがすると、なんか新鮮な気持ちになった」

「あの油びきって、子どもがやってたっけ?」

「ああ、技能員室でバケツに入った油とモップをもらってさ、やってた」

「え、そうかぁ、それってワックスがけと勘違いしてないか?」

 わたしたちが現場の先生になったころは、どこの学校も教室は木のタイル張りで、これは油では無くてワックスでした。どちらもモップを使いますがにおいも見た目も全然違います。

「子供にやらせてたかなあ?」

「武者はやってないのか?」

「どうやったかなあ……生徒といっしょにやったことはあるけど、自分が子どもやったころはやってないかなぁ。先生らの仕事やったんやないのか?」

「低学年は先生がやってたけど、高学年は児童がやってたぞ」

「え、あ、そうかぁ……」

「おまえ、ずっとサボってたんじゃないのか?」

「あはは、よう逃げてた(^_^;)」

「それで、現職になってからは主に生徒にやらせてた?」

「ああ、教育の一環や。最初とか、時どきはいっしょにやってたけどなあ」

「女子とだろう」

「ああ、制服汚れたらかわいそうやからなあ」

 思い出しました。武者もわたしも学校の先生をやっていましたが、同じ学校に勤務したことがありません。

「武者、おまえの最後の勤務校はKだったと思うんだけど、その前は、どこだ?」

「あ、ああ、NとH」

「イニシャル合わせたら、NHKか」

「え、あ、ほんまや。あははは」

 ちょうどお湯が沸いたので、話題をもどす昼下がり。

 ついさっきまで喧しかった蝉の声が、いつの間にか止んでいました。

 

☆彡 主な登場人物

  •  わたし        武者走走九郎 Or 大橋むつお
  •  栞          わたしの孫娘 
  •   武者走                   腐れ縁の友人

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