颯太の引っ越しは簡単だった。
赤帽の軽トラ一台に積んで、まだ荷台には余裕があった。
「一人住まいにしても、少ないね」
気のいい赤帽さんは、引っ越し荷物の配置まで手伝ってくれた。
冷蔵庫は当たり前として、それ以外に生活を感じさせるものは、座卓にボックスの本棚、あとはほんの少しの着替えに食器、赤帽さんにはガラクタとしか思えない段ボールが一つっきり。
「布団はどうするんだね、これじゃ、寝ることもできないよ」
「あ、ハハハハ、急なことで、忘れた……まあ、この後で買いに行きますわ(^▽^)」
颯太は、自分の粗忽さを笑い飛ばした。
急がなきゃならない理由が……と思い出し、その思いは胸にしまい込んだ。
「あんたかね、新しい店子は?」
布団を買いに行こうとして、玄関の鍵を締めたところに、思いもかけず家主と思しきジイサンが、二階の廊下に上がってきた。
「……まあ、儂の家に来なよ。ここじゃろくに話もできない」
家主は部屋の中をざっと見て、呆れたように言った。赤帽さんと同じ心境だったのだろう。
「不動産屋から聞いてくれたと思うんだけど、あの部屋は事故物件だ。あんたに入ってもらって助かったよ。なんせ、あれ以来5室も空いてしまったからね。なあに、前の住人は仏さんみたいな人だったからね、亡くなったのは気の毒だったけど、化けて出てくるようなことはないから」
そこからよもやま話になり、気持ちがほぐれたところで、颯太は本題に入ろうとた。
「あのう……」
「そうそう、布団も無かったんだよな。引っ越し祝いの代わりだ、うちのを一人前持っていくといい。来客用の新品同様だ」
家主は、せかすように圧縮袋に入った布団一式を颯太に渡した。急に飛び出してきた颯太にはありがたかった。美大生だった颯太の所持金は、せいぜい三か月分の生活費ていどしかなかったのだ。
颯太にも、事故物件でも入らなければならない事情があったのだ。
アパートに戻る途中、宅配便のトラックがゆるゆると颯太を追い越して行った。
部屋に戻ると、その宅配さんが棺桶ほどの大きさの荷物を二階に運んでいるところだ。二階は、颯太と、もう一人キャバクラに勤めている年齢不詳の女がいる。颯太は荷物は、その女宛てだと思った。
「立風颯太さん?」
「はい、そうですけど」
「いや、よかった。大きな荷物なんで持ち帰りも大変なんで、助かりました。サインお願いします」
宅配のニイチャンは、書きかけの持ち帰り伝票を丸めると、ボールペンと伝票を渡した。
ここに越してきたことは、誰も知らないはずなんだけど……。
そう思いながら、颯太は大きな荷物を部屋に入れた。荷物には取扱注意と壊れ物の札の他は、送り状の伝票が貼ってあるだけである。
送り主はホベツ製作所、中身は「玩具」と印字されていた。
「……いったいなんだろう?」
開けて驚いた。
中身は等身大の人形が入っていた……。