魔法少女マヂカ・178
ドス! ドス!
小柄は田中執事長の頬を掠めて廊下の壁に突きたった。
壁には、すでに幾つも小柄が付きたった痕が付いていて、ノンコは目を丸くして金魚みたいに口をパクパクさせている。
「お嬢様、オイタはなりませんぞ」
「オイタじゃないわ、心の準備が整わないうちにドアを開けるからよ」
「開くのを待っておりましたら日が暮れてしまいます」
「フン……なに、うしろの二人は?」
霧子お嬢様と目が合ってしまった。
竹久夢二の美人画を思わせる美少女だけど、挑戦的な瞳と立ち姿と清楚なワンピースがチグハグで、川島芳子(東洋のマタハリと言われた女傑)が華族令嬢に化けそこなったみたいだ。
「お嬢様のご学友をお連れしました」
「そんなもの……!」
言い切る前に槍が飛んできた!
ハッシ!
田中執事長の前に出ると同時に槍を掴んでやった。
「これは……」
田中執事長が恐縮している、田中は自分で槍を掴むつもりだったのが、わたしに先を越されて驚いている。
「出過ぎたことをしました」
と言いながら、肩の力は抜かない。これから面倒を見ることになるお嬢様に舐められてはいけないからね。
「二人とも、わたしの前に……いま、槍を掴んだのが渡辺真智香さま、そちらが野々村典子さま。明日からごいっしょに通学いたします」
「学校になんか行かないから!」
「お二人には、筋向いの蓮華の間を使っていただきます」
「え、住み込みなの!?」
「はい、寝食を共にいたしてもらいます。それに、お二人は西郷侯爵ゆかりの方々でもありますし、粗略にはあつかえません」
「ふーん、わたしの気持ちも無視して、田中って、そんなに偉かったんだ」
「お嬢様の事に関しましては、お父様より、この田中が全権を委任されております。田中が申すことはお父様のご意思と思し召しください」
「ふ、ふーん……偉そうに」
「田中の偉さはお父様より委任されたものでございます、偉そうに見えたとしたら、それは霧子お嬢様の行く末をご心配されるお父様のお気持ちと思われませ」
「田中ッ……」
こいつ、目に殺意が籠ってる……
「二人とも、ご挨拶を」
ノンコの背中に手をやって前に出す。
――なんでわたし!?――という目をするが無視。
「の、野々村典子……です、よろしくお願いします(^_^;)、えと……ノンコって呼んでください……キャフ!」
お嬢様と目が合い、ネコみたいな悲鳴を上げてわたしの背中に隠れてしまう。
「渡辺真智香だ、遠慮はしない、覚悟してもらおう」
「……ふん」
ソッポを向いた瞳に影が出来たような気がしたが、まだ、ツッコミを入れるような局面ではない。大人しく田中執事長の後ろに回る。
「では、これにて。さ、お二人とも……失礼いたしますお嬢様」
田中執事長に促されて廊下に出る。
ッウオオオオオオオオオオオオ!
階段まで戻ると、獣が吠えるような泣き声が霧子の部屋から聞こえてきた。