大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)111・ヒトという字は人? 入?

2024-08-05 06:59:51 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
111・ヒトという字は人? 入? 





 人いう漢字を手ぇの平に書いて飲んだらええねんぞ!


 衣装に着替えてワタワタしていたら啓介が教えてくれた。

「そ、そうなんや(;゜Д゜)、ちょ、ちょっとサインペンとかないかな?」

「はい、どうぞ!」

 美晴がサッとサインペンを……差し出した手ぇにもドーランの香り。

 楽屋になった体育準備室は演劇部と、そのお手伝いさんたちで一杯。

 予想はしてたけど心臓バックンバックン!

 舞台に立つというのはエキサイティングすぎる!

「えと、ヒトってどっちやったっけ?c(゜.゜*)エート。。。 」

 使い込んだ台本の端っこに「人」と「入」を書いて須磨先輩に見せる。須磨先輩は、六回目の三年生という貫録で敵役の『うんず』のコス。

「アハハ、緊張すると忘れるよね『人』の方だよ」

「あ、ども」

「……って、手に書くの?」

「うん、啓介が言うてたから」

「あ、それって指で書くだけよ」

「え、あ、そうなんや(''◇'')!」

 在日4年、たいていのことには慣れたけど、こういうところでポカをやる。

「あ、せやけど、わたしアメリカやからAの方がええかな?」

「A?」

「 audienceの頭文字」

「なーる(▼∀▼)!」

「あ、でも観客は日本人ばっかですよー」

 千歳がチェック。

「そっか、じゃ両方やっとこ……ちょ、ミッキー、あんたも書いとき!」

「me?」

「相手役はわたしなんやから、やるやる!」

 ガタガタガタガタ……

 さっきからアメリカ人らしからぬ貧乏ゆすりをして、テーブルの上のドーランやらペンシルがカタカタ言うてる。

「ちょ、テーブルの上のもんが落ちるがな!」

「お、ソーリーソーリー……あ、なんて書くんだっけ(@゜Д゜@;)?」

「人や人! ほんでもってオーディエンス!」

「え、あ……(''◇'')ゞ」

 テンパってやがる。

「書いたげる!」

 小道具のチェックをしていた美晴が乗り出す。

「サ、サンキュ~(///◇///) 」

 とたんにデレるミッキー。

 ま、こんなときやから突っ込まんとく、貧乏ゆすり停まったし。

 本番まで15分、みんな準備は済んでしまって静かになってしまう。

 う~~~~こういう時の静けさは逆効果。

 いったんは納得した「こんなに痩せてしまって」の台詞が、おりから観客席で沸き起こった笑い声と重なって、自分が笑われたみたいに緊張する。

 ステージはミス八重桜の奮闘で倍の広さになって安全になった。

 こないだは、そのステージを見て、グッとやる気になったんやけど、今日は、その分――笑われたらアカン!――というプレッシャーになる。


 あ、えと、本番前なんで……


 入り口でなにかもめてると思ったら「わたしは着付け担当ですぅーー」と声がして人の気配。緊張しすぎのわたしは顔も上げられへん。

「ミリー、観に来たよ!」

 間近で声がして、やっと分かった。

「お、お婆ちゃん!?」

「着付けが気になってねぇ……ちょっと立ってごらん」

「は、はひ!」

 着付けはさんざん練習したんで完璧のはず。

「うん、きれいに……ん? ミリー、あんた左前やがな!」

「え? え? そんなことは……オオ(|||ノ`□´)ノオオオォォォー!!」

 みごとな左前に気づいて、いっぺんにいろんなことが飛んでしもた!

「これでは『夕鶴』ちごて『四谷怪談』やがな! ちょっと、いったん脱いで!」

 言うが早いか、お婆ちゃんは長じゅばんごとわたしをひんむいた。

 本番は大汗をかくと言われていたので下着しか着ていない……それも、線が出たらあかんので、そういう下着!


 本番終るまでは、もう目も当てられんことに……なったかどうかは、またいずれ(^▢^;)。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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