大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・38『……九人しかいない』

2022-11-29 07:13:41 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

38『……九人しかいない』  

 

 

 部活の稽古場になっている視聴覚教室に向かう。

 

 思わず急ぎ足になる。

 ―― 早く、お礼とお詫びを言わなっくっちゃ ――

 わたしは、二十七人の部員一人一人に言葉をかけようと、夕べはみんなからのメ-ルをもう一度見なおした。

 忠クンへのお礼ってか、想いは昨日伝えた。

 これでほとんど終わったつもりでいたんだけど、あらためてみんなのお見舞いメールを見ると、それぞれに個性がある。アイドルグル-プのMCの子がコンサートの終わりでやるような全体への挨拶じゃいけない。一人一人に言葉をかけなくちゃ……って、ついさっきも言ったよね(^_^;)。

 緊張してんのよ、わたしって……そうだ副顧問の柚木先生……ま、普段の部活には来ないから、あとで教官室に行けばいいや。お礼は、それまでに考えればいい……。

 

「おはようございまーす!」

「おはよう……」「おは……」「おう……」

 まばらで、元気のない返事が返ってきた。

 あ……

 予想に反して柚木先生がいたので面食らった。まだ、お礼の言葉考えてない……。

 で、次に目についたのが、集まってる部員の少なさ……九人しかいない。

「さあ、まどかも来たことだし、始めようか」

 峰岸先輩がポーカーフェイスで言った。

「あの、最初にみんなに……」

「お礼ならいいよ、メールもらったし。早く本題に入ろう」

 勝呂先輩がいらついて言った。勝呂先輩のこんな物言いを聞くのは初めてだった。

「いらつくなよ勝呂。まどかは、まだ何も知らないんだから。まどかへの説明を兼ねて、問題を整理しよう」

―― いったい、何があったの……? ――

「まどか」

「はい……」

「まず、座れ。落ち着かなくっていけないよ」

「立ったままだと、倒れるかもしれないからな」

「勝呂!」

 ポ-カーフェイスの叱責がとんだ。

「じつは、まどか……マリ先生がお辞めになった」


 え?


 足が震えた……。

「顧問をですか……?」

 恐れてはいたが、かすかに予想はしていた。

「いいや、この乃木坂学院高校をだ」

 教室がグラッと揺れた……立っていたら倒れていた。むろん地震なんかじゃない。

「今回のことで責任をとってお辞めになった」

「学校が辞めさせたんですか!?」

「少し違う……」

 峰岸先輩がメガネを拭きながら、つぶやいた。

「それについては、わたしが話すわ」

 柚木先生が間に入った。

「今から話すことは部外秘。いいわね」

 みんなが頷く。

「理事会で少し問題になったみたいだけど、潤香のことも火事のことも……本人を前に、なんだけど、まどかのこともマリ先生の責任じゃない。詳しくは分からないけど、理事会としてはお構いなしということになった」

「じゃ、なぜ……」

「ご自分から辞表を出されたらしいわ」

 柚木先生は目を伏せた。

「それは違います」

 峰岸先輩が静かに異を唱えた。

「峰岸君」

 上げた先生の目は、鋭く峰岸先輩に向けられた。

 先輩は静かに続けた。


「柚木先生のお言葉は事実ですが、部分にすぎません。大事なポイントが抜けています。学校は先週のスポ-ツ新聞が取り上げた記事を気にしているんです」

「なんですか、それ?」

「ほら、コンクールで、うちの地区の審査員をやった高橋って人。マリ先生とは大学の先輩と後輩になるんだ。この二人の関係がスキャンダルになった。コンクールが終わった後、先生が立ち寄ったイタメシ屋で二人はいっしょになった。新聞には待ち合わせてと書いてあった」

「ウソでしょ……」

「乃木坂を落とした理由を説明するために、高橋って人はイタメシ屋に行ったんだ。それは、うちの警備員のおじさんも、店のマスターも証言している。店では大論争になったらしいよ。で、店を出た二人は地下鉄の駅に向かい、たまたま通りかかったホテルの前で写真を撮られたんだ。そして『新進俳優、高橋誠司、某私立女性教師と不倫!』という見出しで書かれてしまった」

「そのホテルなら知ってるよ。六本木寄りにある『ラ ボエーム』って言うホテルだ。店の面構えですぐに分かった」

 宮里先輩が言った。

「なんで高校生のオマエが知ってるんだよ?」

 と、山埼先輩。

「そりゃあ、道具係だもんよ。日頃から、いろんなもの観察してんだよ」

「あ、その気持ち分かります!」

 これは衣装係のイトちゃん。

「それって、濡れ衣だって分かったんでしょ。先輩……」

「むろんだよ、明くる日には謝罪訂正記事が出た。隅っこの方に小さくね。で、学校の一部の理事や管理職は気にしたようだね。マリ先生にこう言った。『丸く収めるために形だけ辞表を出してもらえませんか。いや、すぐに却下ということで処理しますから』で、先生は、その通りにした。『ご本人の硬い意思ですから』と理事長を納得させた」

「うそでしょ……」

 柚木先生の顔が青くなった。

「本当です。ここに証拠があります……」

 先輩は、小さなSDメモリーカードを出した。

「これは……」

「マリ先生とバーコードとの会話が入っています。ときどき校長と、ある理事の声も」

「峰岸君、キミって……」

「こんなもの、今時ちょっと気の利いた中学生でもやりますよ。な、加藤」

「え、ええ……」

 音響係の加藤先輩があいまいな返事をした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母

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