大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい・45〔御茶ノ水幻想・4〕

2022-01-18 06:03:10 | 小説6

45〔御茶ノ水幻想・4〕 

        

 

「ただいまあ」

「おかえり……」

 めずらしい、お父さんが二階のリビングに居る。

 と、思ったら、もうお昼。

「明日香。生協来たとこだから、パスタの新製品あるよ」
「あ、食べる!」

 あたしは、自分の意志じゃないのに応えてしまった。どうやらさつきがお腹を空かしているらしい。

 レンジでチンして、和風キノコバターとペペロンチーネを二つも食べてしまう。

「ああ! メチャクチャおいしい!」

「明日香が、そんなに美味しそうに食べるのん久々だなあ」
「ああ、育ち盛りだから。アハハ(^_^;)」

 まさか、自分の中でさつきが美味しがってるとは言えない。

「ごちそうさま!」

 自分の部屋に戻ってから、どうしょうかと思った。

「さつき、ずっと、こうしてあたしの中に居る気?」

『仕方ないだろ。どうやら、この時代では、明日香の中からは出られないみたいだ』

「だけどねえ……」

『狭いけど、いろいろある部屋だなあ。おお、あの生き写しみたいな絵は明日香だな!』

 馬場先輩に描いてもらった絵に興味。

『うわあ、この絵にはタマシイ籠もってるぞ! ううん……残念なことに、これ描いた男は、明日香のことを絵の対象としか見てない。いや……しかし……まあ、大事にしろ。何かにつけて明日香の助けになってくれるぞ』

 それは、もう分かってる。

『そこの仕舞そこねた雛人形も大事にしろよ。もう少し、この部屋に居たいらしいから。その明日香の絵とも相性良さそうだぞ』

「分かってる。それより、少しでもいいから、あたしの心から離れてない。落ち着かないよ」

『明日香は依り代だからな……うん? その日本史いう本はなに?』

「ああ、教科書。日本でいちばん難しい日本史の本」

『おもろそうだなあ……しかし、日本史という言い方はおかしくない? まるで日本という異国の歴史みたい。日本国の歴史だったら国史だろうが……』

 さつきが呟くと、心が軽くなったような気がした。

「さつき、さつき姫……」

―― なに? ――

 なんと、山川の詳説日本史の中から声がした。

「さつき、いま教科書の中に居るの!?」

―― あ、そうみたい ――

「大発見。本の中にも入れるじゃん! 本だったら、けっこうあるから、本の中に居てよ!」

―― おお、わたしも興味津々だしな ――

 一安心、のべつ幕なしで心の中におられてはかなわない。

 ベッドにひっくり返ると、スマホを取り出してググってみる。

 

 さつきひめ ⇒ 五月姫

 

 おお。

 椿の苗木の名前で出てきた。

 大振りのキッパリした赤い花。

 シャッキリしてて感じがいい。ちょっと好感度があがった。

 スクロールすると、すごい名前が出てきた。

 

 滝夜叉姫

 

 え、なにこれ?

 ……平将門の娘、父の無念を晴らすため、毎夜、白装束で鞍馬の貴船神社に通いった。頭にロウソクを括り付け、藁人形を五寸釘で打ち付けて、父を陥れた者たちを呪い続け、ついには、呪力を身に着け、滝夜叉姫となって様々に人を呪い殺し、害をなした。

 え……? 

 丑の刻参りの元祖と言われる。

 ええ!?

 聞いてないんですけど!

 

『明日香、おまえ、なかなかええ体してるなあ』

 次に声が聞こえたのは、お風呂に入ってるとき!

「ちょ、教科書の中にいるんじゃないの!?」

『風呂は、さつきも好きだぞ』

「て、あなた、実は丑の時参りの滝夜叉姫なんでしょ!?」

『あ、もうバレたか?』

「妖術とか呪術とかで、鬼みたくなって、最後は大宅中将光圀てのに退治されたんでしょ!」

『アハハ、昔の話だよ、気にするな』

「いや、だって……」

『しかし、明日香、おまえ、まだおぼこ(処女)だったんだな』

「グ(# ゚゚#)」

 顔のニキビを発見したほどの気楽さで言われたが、言われた本人は、真っ赤になった……。

 


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