大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい・91〔金の心〕

2022-03-05 06:21:05 | 小説6

91〔金の心〕 

 

 

 こんな夢を見た。

 

 どういうわけか、学校のプールサイドをグルグル歩いている。

 プールサイドにもプールの中にも誰も居ない。だけど学校の水着を着てるから授業なのかもしれない。

 何周か歩いていると、かすかにみんなの声やら宇賀先生の声が聞こえ始める。

 やっぱり授業中。あたしってば授業中に、ひとりウロウロしてるんだ。

 あたしが一人勝手にウロウロしていても、だれもなんにも言わない。

 シカト……とじゃない。

 みんな、あたしの存在に気づこうともしない。

 そのうち、胸がモゾモゾ(ドキドキじゃない)してきて、あろうことか、水着を通して自分の心がヌメヌメと出てくる。

 え……ええ?

 受け止めた手の上でプルンプルン。プルンプルンなんだけど、金色に輝いてる。だからうろたえながらも、なんか凄いと思った。

「うわあ、あたしの心は金でできてる!」

 ひとりで喜んでいたら、その金の心が手を滑って落ちてしまった。

 ポチャン

「あっ!?」

 金の心は、どんどんプールの底に落ちていって見えなくなってしまう。

 なぜかプールのそこだけが深くなっていて、暗く見える。

「先生、心を落としました!」

 そう言っても、先生はチラ見しただけでシカト。クラスのみんなは見向きもしない。

「ああ、心が、あたしの心が……」

 いつもだったら平気で飛び込めるプールなんだけど、プールのそこには大きな穴が開いていて底が見えない。心は、その穴の中に潜り込んでしまったみたい。

「ああ……どうしよう、どうしよう……」

 オロオロしてるうちに、プールの穴の中からヴィーナスみたいな女神さまが現れた。

「明日香さん。いま、このプールに心を落としたでしょう? 明日香さんが落としたのは、鉄の心? 銀の心? それとも金…………メッキの心?」

 これって、なんかに似てるんだけど、ちょっとちがう。金は金で、金メッキなんかじゃない。だから、あたしは正直に答えた。

「三つとも違います。落としたのは金の心です!」

「あら、そう?」

「はい、生まれたての赤ちゃんみたいにグニャグニャなんだけど、ピカピカ金色に輝く心です」

「困ったわね。落ちてきたのは、この三つしかないのよ」

「だけど、ちがいます」

「でもね……」

「あたし、自分で探します!」

 そう言って、水に飛び込もうとしたら止められた。

「そのままの格好で飛び込んでも、ここは、ただのプールよ。あの底の穴にはたどりつけない」

「どうしたらいいんですか?」

「裸になりなさい」

「……裸みたいなもんですけど」

「ダメ、水着を着ていてはたどり着けないわ。それ脱がなくっちゃ」

 そう言えば、女神様はスッポンポン。微妙なところは、ごく自然に手で隠してる。

 ……うう、どうせみんなシカトしてるんだ!

 そう思って、あたしは裸になった。

「え!、あすかスッポンポン!」
「ヘアヌードだ!」
「鈴木さん、裸になっちゃダメでしょ!」

 そんな声が聞こえてきたけど、あたしは構わずにプールに飛び込んだ。

 ドボーン!

 いったん顔を出して精一杯肺に空気を溜めると、穴を目指して潜り込む。

 ムグググ……

 もう少しで穴の中というところで、なんだか怖なってきて、なかなか進めない。

 く、くそ……!

 やっとの思いで穴に入ろうとすると、妙な抵抗感。それも、なんとか突き破って中に入ると、真っ暗で先が見えない。だんだん息が苦しくなってくる。

――だめだ、もう、もたない!――

 

 そこで目が覚めた。

 

 気づくと、お饅頭の入ったビニール袋を握っている。

 ああ……さつきが試供品とか言って持って帰ったんだっけ。

 振り返ると、もう、さつきの姿は無かった。

 そうなんだ、この頃は、仕込みの段階からやってるって言ってた。

 出雲阿国が加わって、なんだか近ごろ、さらに生き生きしてる。

 そういやあ、見事なスッポンポンに目を奪われてたけど、あの女神様、さつきに似ていたかも。

 

 ゆかりからメールが来ていた。

 

―― 美枝のことは、心配いりません。なんとかまとまりつつあります。アスカは自分のことに集中して ――

 

 カーテンを開けると、台風一過の上天気、ちょっと寂しい心は押し殺して、AKRの鬼のレッスンに出かけた。


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