明神男坂のぼりたい
こんな夢を見た。
どういうわけか、学校のプールサイドをグルグル歩いている。
プールサイドにもプールの中にも誰も居ない。だけど学校の水着を着てるから授業なのかもしれない。
何周か歩いていると、かすかにみんなの声やら宇賀先生の声が聞こえ始める。
やっぱり授業中。あたしってば授業中に、ひとりウロウロしてるんだ。
あたしが一人勝手にウロウロしていても、だれもなんにも言わない。
シカト……とじゃない。
みんな、あたしの存在に気づこうともしない。
そのうち、胸がモゾモゾ(ドキドキじゃない)してきて、あろうことか、水着を通して自分の心がヌメヌメと出てくる。
え……ええ?
受け止めた手の上でプルンプルン。プルンプルンなんだけど、金色に輝いてる。だからうろたえながらも、なんか凄いと思った。
「うわあ、あたしの心は金でできてる!」
ひとりで喜んでいたら、その金の心が手を滑って落ちてしまった。
ポチャン
「あっ!?」
金の心は、どんどんプールの底に落ちていって見えなくなってしまう。
なぜかプールのそこだけが深くなっていて、暗く見える。
「先生、心を落としました!」
そう言っても、先生はチラ見しただけでシカト。クラスのみんなは見向きもしない。
「ああ、心が、あたしの心が……」
いつもだったら平気で飛び込めるプールなんだけど、プールのそこには大きな穴が開いていて底が見えない。心は、その穴の中に潜り込んでしまったみたい。
「ああ……どうしよう、どうしよう……」
オロオロしてるうちに、プールの穴の中からヴィーナスみたいな女神さまが現れた。
「明日香さん。いま、このプールに心を落としたでしょう? 明日香さんが落としたのは、鉄の心? 銀の心? それとも金…………メッキの心?」
これって、なんかに似てるんだけど、ちょっとちがう。金は金で、金メッキなんかじゃない。だから、あたしは正直に答えた。
「三つとも違います。落としたのは金の心です!」
「あら、そう?」
「はい、生まれたての赤ちゃんみたいにグニャグニャなんだけど、ピカピカ金色に輝く心です」
「困ったわね。落ちてきたのは、この三つしかないのよ」
「だけど、ちがいます」
「でもね……」
「あたし、自分で探します!」
そう言って、水に飛び込もうとしたら止められた。
「そのままの格好で飛び込んでも、ここは、ただのプールよ。あの底の穴にはたどりつけない」
「どうしたらいいんですか?」
「裸になりなさい」
「……裸みたいなもんですけど」
「ダメ、水着を着ていてはたどり着けないわ。それ脱がなくっちゃ」
そう言えば、女神様はスッポンポン。微妙なところは、ごく自然に手で隠してる。
……うう、どうせみんなシカトしてるんだ!
そう思って、あたしは裸になった。
「え!、あすかスッポンポン!」
「ヘアヌードだ!」
「鈴木さん、裸になっちゃダメでしょ!」
そんな声が聞こえてきたけど、あたしは構わずにプールに飛び込んだ。
ドボーン!
いったん顔を出して精一杯肺に空気を溜めると、穴を目指して潜り込む。
ムグググ……
もう少しで穴の中というところで、なんだか怖なってきて、なかなか進めない。
く、くそ……!
やっとの思いで穴に入ろうとすると、妙な抵抗感。それも、なんとか突き破って中に入ると、真っ暗で先が見えない。だんだん息が苦しくなってくる。
――だめだ、もう、もたない!――
そこで目が覚めた。
気づくと、お饅頭の入ったビニール袋を握っている。
ああ……さつきが試供品とか言って持って帰ったんだっけ。
振り返ると、もう、さつきの姿は無かった。
そうなんだ、この頃は、仕込みの段階からやってるって言ってた。
出雲阿国が加わって、なんだか近ごろ、さらに生き生きしてる。
そういやあ、見事なスッポンポンに目を奪われてたけど、あの女神様、さつきに似ていたかも。
ゆかりからメールが来ていた。
―― 美枝のことは、心配いりません。なんとかまとまりつつあります。アスカは自分のことに集中して ――
カーテンを開けると、台風一過の上天気、ちょっと寂しい心は押し殺して、AKRの鬼のレッスンに出かけた。