RE.乃木坂学院高校演劇部物語
「はるか先輩、テレビに出てたんですか……!」
忠クンが、やっと声をあげた。
「ハーーもともと綺麗な子だったけど、こんなになっちゃったのね……」
奥さんが、ため息ついた。
「ほんとにキレイだ……」
忠クンも正直にため息。チラっと顔を見てやる。
「で、でも、スタジオで撮るとこんな感じになっちゃうんですよね」
と、自分で自分をフォロー。いいのよ気をつかわなくっても。だれが見ても、このはるかちゃんはイケテルもん。
「はるかのやつ、大阪に行っていろいろあったんだろうなあ……これは、スタジオの小細工なんかで出るもんじゃないよ」
そこでサプライズ。スタジオにスモップのメンバーが現れた。
―― うそ…… ――
はるかちゃんは口を押さえて、立ちすくんでいる。
それから、二三分スモップに取り囲まれて会話。
―― 今日のNOZOMIスタジオでした ――
ナレーションが入り、熟女のアイドルと言われる司会のオジサンの顔になって録画が切れた。
「二人とも、冬休みになって朝寝坊だろうから見てないだろう」
「うちは、朝はラジオだから……」
と、我が家の習慣を持ちだして生返事。
「うちは婆さんが、毎朝観てるもんでなあ」
「いつもは、ノゾミプロの役者の出てる映画とかドラマ紹介のコーナーなんだけどね、昨日は『ノゾミのお客さん』て、タイトルで、特別だったの。最初は、どこかで見た子だなあって思ってたんだけど、『坂東はるかさん』て、テロップが出て、わたし魂げて録画したの。ね、あなたも歯ブラシくわえて見てたもんね」
「ああ、最初プロデュサーのおっさんと二人だけの対談だったんだけどな。頬笑み絶やさずホンワカと包み込むような受け答え。それで目の底には、しっかりした自我が感じられた。あれはいい女優になるよ」
―― 本人にその気があればね ――
わたしは、クリスマスイブのはるかちゃんとの会話を思い出した。
はるかちゃんは高校演劇が楽しくなってきたところ。プロの道へ行くことにはためらいがあった。
ただ、白羽さんてプロデュ-サーが、とてもいい人で。この人の期待をありがたく感じながらも持て余している。
で、一度里帰りを兼ねてプロダクションを訪れたら、いきなりスタジオ見学……かと思ったら、しっかりカメラに撮られている。
そして、クリスマスの夜、工場でみかん剥きながらの女子会。
あの時のスマホの電話。
きっとこの収録をオンエアーするための確認だったに違いない。
どうしようかなあ……というのが、はるかちゃんの話しのテーマだった。
でも、オンエアーのことも、スモップに会ったことも、はるかちゃんは言わなかった。そこが、はるかちゃんのオクユカシイとこでもあるんだけど、幼なじみのまどかとしては、チョッチ寂しい……それにスモップに会うんだったら、サインとかも欲しかったしね(^_^;)。
ヨウカンを一ついただいて、お茶を一口飲んだところで思い出した。
「なんで、忠クンここに居るのよ!?」
「それは、こっちが聞きたいよ。まどかのお兄さんから電話があって、ここに来てくれって」
「二人でいるの嫌か?」
先生が、右のお尻を上げながら言った。で、一発カマされました。
「そう言うわけじゃ……」
言いよどんで、お茶に手を伸ばす。
アチ
いつの間にか奥さんが淹れ替えてくれている。
「ほんとは、まどかの兄貴を彼女ごと呼ぶつもりだったんだけどな、なんかこじれとるのか、鬱陶しいのか、二人を代理に指名してきよった」
なるほどねぇ……分かった(^_^;)
☆ 主な登場人物
- 仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
- 坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
- 芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
- 芹沢 紀香 潤香の姉
- 貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
- 大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
- 武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
- 南 夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
- 山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
- 峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
- 高橋 誠司 城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
- 柚木先生 乃木坂学院高校 演劇部副顧問
- まどかの家族 父 母(恭子) 兄 祖父 祖母