大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい・49〔ちょっとシビア〕

2022-01-22 05:47:09 | 小説6

49〔ちょっとシビア〕 

     


「おーい、明日香の学校、校長クビになったぞ!」

 お父さんのシビアな声で目が覚めた。

 パジャマ代わりのジャージで二階に下りると、お父さんが新聞を広げている。

「この校長さん、たいがいだなあ……」

―― またも民間人校長の不祥事! ――

 見出しが三面で踊っていた。

 読んでみると、人事差別と人事権の恣意的な乱用。事故死した生徒・保護者への心ない対応。
 そんな副題のあとに、実名は伏せながら、関係者が読んだら、事細かに分かるようなことが書いてあった。

 再任用教諭の理由無き任用停止。元教諭、校長を提訴。

 あ、これは光元先生のことだ。

 始業式で、光元先生は一身上の都合で退職したと聞いた。

 光元先生は、TGH高校の前身都立瓦町高校の時代からの先生。学校の生き字引みたいな先生で、卒業生やら保護者からの信任の厚い先生だった。佐渡君が亡くなったときも校長室で、なにか話してる様子だったけど、中身までは分からなかった。

 新聞には「校長先生は、うちの子が亡くなったことを真剣に受け止めてもらえなかった」と、母親の言葉が書いてあった。

 佐渡君は交通事故で、あたしが救急車の中で見守ってるうちに死んでしまった。純然たる事故死。

 佐渡君は遺書を残していた。

 交通事故で遺書いうのは、なんか変……読み進んでいくと分かった。

 佐渡君は、生きる気力を無くしていた。で、なにが原因かは分からないけど死を予感して、遺書めいたものを書いていたらしい。
 お母さんは、それを生徒に公開して欲しいと頼んだらしいけど。校長は断った。で、全校集会で、ありきたりの「命の大切さ」「交通事故には気を付けよう」で、お茶を濁しよったのは記憶にも新しい。

 で、肝心の遺書は、新聞にも載っていなかった。教育委員会も内容を精査した上で、公開を検討……あほくさ。個人名が書いてあったら、そこ伏せて公表したらいいだけのこと。

 それから、佐渡君が死んで間もない日に、音楽鑑賞でオーケストラの演奏を聞きにいくはずだったのが、急に取りやめになった。「生徒が命を落として間もない日に、かかる行事はいかがなものかと思った」と校長は言ってるらしい。

 お母さんは、あとになって、そのことを知った。

「あの子は音楽の好きな子でした。実施されていたら、遺影を持って、わたしが参加するところでした。なんで、相談してもらえなかったんでしょう」

 こんなことは、何にも知らなかった。火葬場で会った佐渡君の幻も、そういうことは言わなかった。佐渡君は気の優しい子だから、たとえ校長先生でも、人が傷つくことは言いたくなかったんだろうと思った。

 で、光元先生は再任用の先生で、契約は一年。

「だけど、65歳までは現場に置いておくのが常識だ」

 お父さんは、そう言う。

 新聞には3月29日の最終発表で「次年度の採用はありません」と言われたらしい。

 29日って、どこの学校でも人事は決まってしまって、TGHで再任用されなかったら、事実上のクビといっしょなのは、あたしの頭でも分かる。

 校内でも、恣意的な人事が……ここを読んでピンときた。

 ガンダムが急に生活指導部長降りて、うちらの担任になったこと。

「ガンダム先生って、どこの分掌?」

 お父さんが聞いてきた。

「どこって、平の生指の先生」
「担任しながら生指か、そらムチャだ」
「なんで?」
「担任だったら大目に見られることでも、生指だったら見逃せないことがいっぱいある。まして、前の生指部長だろ。ダブルスタンダードでしんどいだろうなあ」

 お父さんは、ため息をついて新聞をたたんだ。

 気がついたら、お父さんと頭くっつけるみたいにして新聞読んでいた。

 お父さんと30センチ以内に近寄ったのは、保育所以来。ちょっと気恥ずかしいような、落ち着かないような気持ちになった。

 校長先生は、教育研究センターいうところに転勤いうことになっていたけど、これは事実上の退職勧告だろうなと思った。

 こんなことが自分の学校でおこるなんて、ちょっと意外。

 それと、佐渡君のお母さんが佐渡君のこと思っていたのも意外。

 切ないなあ……。

 


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