大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

永遠女子高生・27《塔子の場合・2》

2019-12-13 07:08:19 | 時かける少女
永遠女子高生・27
塔子の場合・2》        

 
 
 廊下側から2列目一番後ろの机が、やっと片づけられた。

 プールの授業の後、あたしがぶつかって怪我をしたので、ナオタンがグッスンに抗議。
 無精者のグッスンも、生徒が怪我したとあっては放ってもおけず、やっと片づけたのだ。
 ナオタンは、面倒なことが嫌いで、たいていのことはケラケラと笑って済ます子だけど、ここは言っておかなきゃというところではキチンと言う子だ。あたしがボンヤリして体育の授業に遅れそうになった時もそうだったし、今度の机のこともそうだ。

 そんなナオタンが嬉しくって、お礼をすることにした。これもナオタンがきっかけを作ってくれたことなんだけどね。

「マック、上げ潮だね」
 スマホでなにやら見ていたナオタンが言う。
「ああ、ポケモンGOとタイアップしたんでしょ?」
「それ、もう古いよ。セットメニューをチョー安くしてさ、薄利多売で売り上げ伸びてるみたい」
 ナオタンのスマホを覗き込むと、バリューランチと銘打ってビッグマックとドリンクのセットで400円になっていた!

「悪いわね、なんだかオネダリしたみたいで」
 
 そう言いながら、ナオタンはビッグマックにかぶりついた。
「ううん、ナオタンがいろいろ言ってくれたことで助けられてるもん」
「あ、それって性分なのよ。あとでお節介だったなって反省することの方が多いもん……ハムハム……あの机だってさ、もうちょい早ければ、塔子怪我しなくてすんだでしょ」
「でもね、こんな怪我よりも、ナオタンがグッサンに掛け合ってくれたこと、とっても嬉しかったから」
「ハハ、そっか。怪我してなきゃ有難みも薄いってことだね……でも、そのすねの傷残ったりしない?」
「モデルさんとかになるわけじゃなし、どーってことないわよ」
「そーだ、せめてさ……」
 ナオタンは通学カバンをガサゴソすると、かわいい絆創膏を出して貼ってくれた。
「ハハ、救急車になってる(^^♪」
「うん、塔子って、こういう可愛いのもお似合いだし……そーだ!」
 ナオタンは、閃いて、自分のすねにも同じように貼った。
 なんだか、とても仲良し同士って感じで嬉しくなった。

 嬉しさのまま外に出ると、シャッター音が聞こえた。

「ごめんなさい、勝手に撮ったりして」
 Tシャツにカメラを2台もぶら下げたオネーサンが、恐縮していた。
「あ、あの……」
「わたし、ポッペティーンのカメラマンで……」
 出された名刺には『ポッペティーン専属カメラマン瀬戸内美晴』とあった。
「なんだか、お2人、とってもいい感じにフレンドリーだから。よかったら、この続き撮らせてもらえるかなあ?」
「え、あ……」
「いいですよ、いい記念になるじゃん!」
 あたしは尻込みしたけど、ナオタンはちょうどいい友情記念に思った。
 で、2人とそれぞれの1人撮りを数十枚やってもらって、自分たちのスマホでも撮ってもらった。

 ほんとうにいい記念になった。そして、記念は次への大きなステップになっていく……。
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Regenerate・9≪鈴木先生との再会・1≫

2019-12-13 07:00:58 | 小説・2
Regenerate・9
≪鈴木先生との再会・1≫ 


 
 
 
 アキバでの偶発ライブは1000人を超えたあたりで訳が分からなくなった。

 もともとマユユとタカミナに擬態した詩織とドロシーがノッテしまって始まったのである。最初のうちこそ「キャーAKBだ!」「タカミナだ!」「マユユだぜ!」で騒いでいたが、ステージもマイクも無いので、後から来るものは何が何だか分からずに、ただただ騒いでいる。
「そろそろ潮時」
「了解」
 で、詩織とドロシーは帽子を目深に被って熱狂の中から抜け出した。警察の規制が入るのと入れ替わりのタイミングだった。

 都立秋葉原高校。

 詩織は幸子の感性で、その看板を見た。
「じゃ、行ってくる。できるだけ短時間で済ませてくるから、このへんうろついて待ってて」
「散歩には、ちこっと暑いけど、いいだす。んだども、詩織の視覚とシンクロすどぐね」
 シンクロ、すなわち詩織が見聞きしたことがドロシーの頭脳でも感じられることで、人間業ではないが、もう、この程度のことは不思議に思わなくなっている詩織である。

 校舎に入るまではマユユの擬態でいたが、廊下を歩いているころには幸子に擬態し終えていた。擬態の能力は向上して、着ている服も変形させて、学校の制服になっている。
「よし、上出来」
 階段の踊り場の鏡で姿を確認して、職員室を目指した。

「幸子、どうしたのよ。渋谷で何か事件に巻き込まれたみたいだけど、三日も音沙汰が無いんで先生心配してたのよ!」
 抱き付きそうな勢いで鈴木先生。
「すみません。渋谷じゃ巻き込まれかけましたけど、運よくかわせました。新聞が書きたててるような大立ち回りなんかじゃないんです、安心してください。あれ、脱法ドラッグやってた人たちが暴れちゃって」
「ああ、そんな解説もあったわね」
「そんなこんなで、直ぐに先生にもお話しできなくて」
「でも、無事でなによりだったわ」
「ちょっと事情があって、寮にも戻れなくって、先生にもご心配かけました」
「事情はゆっくり聴くとして、とにかく無事で何よりよ。ここじゃなんだから、相談室にでも行こうか?」
 言い終わる頃には職員室のドアを開けていた。冷房の効いた職員室から廊下に出るとムッとするような暑気が襲ってきた。
「まあ、短縮中だから、勉強にはあんまり影響でないけど。これからは、ちゃんと来られるんでしょ?」

「……今日は、お別れに来たんです」

 詩織は、幸子として事情を説明した。むろん鈴木先生を安心させるための嘘である。詩織は幸子が東北の方で養女ななると言った。ほとんど出任せであるが、頭の中では、これを正当化するだけの段取りを組み立てながらである。詩織は自分のことをバカだとは思っていなかったが、こんなに頭の回転がいいとは思っていなかった。M機関の人材養成は大したものだと思った。
 相談室は、あいにく使用中だったので、鈴木先生は食事をごちそうしようと言ってくれた。
「アキバの近くに、美味しいお蕎麦屋さんができたの。ちょっと歩くけどいいよね?」
「はい。歩きながらでもお話はできますから」

 200メートルほど歩いたころ、ドロシーの思念が飛び込んできた。

――気を付けて、37度もあるのに鈴木先生汗一つかいてねえだす――
 
 詩織は、CTモードで、鈴木先生をスキャンした。しかし結果は人間そのものだった。念のため数十秒後のビジョンも見てみたが、鈴木先生は転校の手続きなどについて話している姿しか浮かんでこなかった。
「ああ、さすがに暑いわね……」
 汗もかかずに鈴木先生が言った。少し目が虚ろな気がした。
「先生、冷房の効いた職員室にずっと居たからじゃないですか?」
「かもしれない。でも、大丈夫よ……」
 そう言いながら、鈴木先生は詩織に倒れこんできた……人間とは思えない圧力で。車道に押し出されそうになった。
 
 車道はちょうど10トントレーラーが驀進してくるところだった!
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乃木坂学院高校演劇部物語・64『我が家』

2019-12-13 06:37:22 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・64   
『我が家』  


 

 七年ぶりの「我が家」が見えてきた。

 遠くから見ると林のように見える。
 やや近づくと、木の間隠れに地味な三州瓦の屋根が見えてくる。
 側によると、幅二十センチ、高さ三メートルぐらいのコンクリートの板が二センチ程の間隔を開けて並べられ、それが塀になっている。
 コンクリートといっても、長年の年月に苔むし、二センチの間隔が開いているので威圧感はない。
 二センチの隙間から見える「我が家」は適度に植えられた木々によって、二階の一部を除いて見えないようになっている。
 わたしが生まれる、ずっと前に建てられた「我が家」は、なるべく小さく、なるべく目立たないことをコンセプトに、ひっそりと周りの景観に溶け込んでいる。
 ガキンチョのころに、関西から著名な歴史小説家が、出版社の企画でお祖父ちゃんと対談しにきたことがある。
「まるで蹲踞(そんきょ=偉い人の前で、しゃがんでする礼)した古武士のようですなあ……」
 そう言われたことが、ひどく嬉しかったみたい。
 何にでも興味のある少女であったわたしは、偶然を装ってその人に挨拶をした。
「お孫さんですか?」
 一発で正体がバレてしまった。
「おちゃっぴいですわ」
 お祖父ちゃんは、一言で片づけようとした。でも、その人はわたしの顔を見てしみじみと、こう言った。
「おちゃっぴいでけっこう。いろんなことに興味をお持ちなさいな。お嬢ちゃんは、とても賢そうな目をしていらっしゃる。賢い人というのは一つのことに囚われすぎることが多い。せいぜい、お喋りしまくって、多少抜けた大人におなりなさい」
 その後ろで、お祖父ちゃんが大笑いしていた。
 おおよその意味は分かったけど、できたら、その人に会って、もう一度話してみたかった。
 でも、その人は十数年前に亡くなられた。

 そんな思いに耽っていると、入り口の前についた。
「我が家」は、その規模の割に門が無い。
 間口二メーターほどの入り口。その上に申し訳程度の屋根がついているところ門と言えなくもないけど。小学生十人ほどを集めて質問したとする。
「これは何ですか?」
「はーい、出入り口でーす!」
 その程度のもの。
 車は専用の入り口がある。五メートルほどの塀が電動で動く仕掛けになっている。
 ここから家の中にも入れるが、「我が家」は、入り口から出入りすることがシキタリになっている。

「あ、まだこんなの掛けてんの!?」

「はい、無頓着なようにも思えますが、旦那さまのこだわりと心得ております」
 西田さんが、入り口を開けてくれた。
 こんなものとは、表札のこと。わたしが小学校の図工の時間に作った木彫りの表札。
 その表札は「貴崎」とはなっていない。
「木崎」……となっている。


「やあ、お邪魔しております」
 教室二つ分ほどのリビングには意外な人たちが揃っていた。今の声が理事長。
「そ、その節は……」
「ま、ま、まことに申し訳なく……」
 最初のが、校長先生。
 後の方が、バー……教頭先生。むろん乃木坂学院高校のね。
「直立不動にならないでください。どうぞお掛けになって……」
「いえ、先生のお許しを得るまでは……」
「いやあ、このお二人がどうしてもと、おっしゃるんでご同道いただきました。ま、お二人ともお掛けになって」
「いえ、いえ、やはり貴崎先生の……ね、校長先生」
「そんな、目上の方を立たせたままじゃ、わたしが座れません」
「いや……しかし」
「度の過ぎた謙譲は追従と同じですよ。いや、それ以下だ。ご両人はまだ自分でなさった事の意味が分かっておられん!」
 珍しく、理事長が色をなした。
「まあ、落ち着けよ彦君」
「やあ、すまん。俺としたことが」
 そこで、わたしが座り、やっと二人も座ってくれた。
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