大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想:東野圭吾「疾風ロンド」

2017-01-14 06:20:32 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
東野圭吾「疾風ロンド」



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


この書評は、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流しているものですが、もったいないので転載したものです。


相変わらず一気に読ませる力量は「敬服」の一言です。

 東野圭吾は大学工学部の出身です。論理構成能力は当然お持ちでしょうが、それは論文構成のそれであって、散文のそれはまた違うテクニックです。散文の構成にも数学的論理は必要なのですが、通常、感動的な文章構成にはマイナスに働くと言われています。
 しかし、世の中には天が二物も三物も与える人がいるんですねぇ……散文構成に数学的センスで磨きをかけるのは天才の技です。
 本作もこれまでの作品に負けず劣らず、読者をドンドン引っ張って行くのですが……最近作に感じる不満も現れます。
 すなわち、謎の解明者として湯川学か加賀恭一郎を探してしまうのです。この二人のキャラクターは言わずと知れた東野圭吾ワールドの二大主人公です。この二人が登場しないとなると、彼らに匹敵する魅力的な主人公が必要になります。
 当然、全く市井の一個人が主人公になるストーリーだってある訳ですが、読者が東野圭吾に求めるストーリーには物語の真ん中に主人公が屹立していなくてはなりません。だからと言って、そんなマーケットリサーチに従うがごとき作品を作る義理は作者に無いのは自明の事。ただし、読む者を問答無用に飲み込んでしまうような作品に仕上げないと、どこか「食い足りない」と言われてしまいます。
 全く読者のワガママではありますが、それが流行作家たる人の義務(……は、言い過ぎかな? さすがに)っちゅうもんです。
 まぁ、そこまで言わないとしても本作には多少不満が残りました。登場人物が全員小粒(全体に一人一人の掘り下げが浅い)なのが最大の欠点で、読者が感情移入する存在がいない。この点、同じ問題を抱えた「夢幻花」と共通しますが、「夢幻花」にはまだ話の中心になるキャラクターが存在しています。
 本作ではスキー場に隠された「ある品物」をいかに見つけるかに意識が注がれ過ぎ、人物の掘り下げがしきれていないと言えます。流行作家である以上、多作を強いられるのは仕方がないでしょう、ダン・ブラウンのように数年に一作ってな訳には行かんでしょうが、しかし、もうちょい落ち着いた創作環境を与えてあげる事が出来ないもんなんですかねぇ……。
 他にも、結末に至るストーリーになんとなく「やっつけ」臭が漂います。これも、主人公に力があれば、無理苦理押さえがきくのですが、その主人公の存在がありません。なぁんて、ほんまに一個人のワガママですが、東野圭吾の大ファンとしては、あまり書き飛ばして消耗してほしくないのです。

コメント
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