大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

大阪放送劇団小劇場Vol,38『幸せ最高ありがとうマジで!』

2013-06-15 20:55:58 | 評論
大阪放送劇団小劇場Vol,38
『幸せ最高ありがとうマジで!』


   作:本谷 有希子     演出:端田 宏三 

 90%ラッキーでした。だって、ほとんど雨に遭うことがありませんでしたから!

 帰り、駅から家まで6分ほど傘をさしました。残念、明日乾かさなきゃ。

 このお芝居も、そんな感じでした。
 役者さんが、舞台で成長している姿を見るのはいいもんですね。平口さん、白樫さん、舞台に存在するだけで見せてくれる役者になりかけておられました。泉さんは、わたしが知る限りの初の水かぶり、性格異常の役に体当たりされて好感でした。
 他の役者さんも良かったのですが、物覚えの悪いわたしは、以前の記憶がありませんので、ごめんなさい。

 さて、お芝居ですが、舞台は、とある新聞配達店。そこへ明里(泉)が店の主人の愛人であるとインネンをふっかけてきます。もう7年続いた関係で「どうしてくれるんだ!」オーラをまき散らせ、家族や店員を脅します。
 その中でいろんなことが分かってきます。店主の29歳の息子が19歳の妹を「チャン付け」で呼んだり、ふとした時に妹のスカートの中のパンツガ見えて、兄とは思えないうろたえ方をします。
 これは、明里と妻の会話で分かります。
「あなたは、7年だけど、わたしは1年なの」
「え……?」
 という下りで、妻に出て行かれた店主のところに娘といっしょに再婚してきた後添えということが分かり、兄妹の微妙な(主に兄の)気持ちが分かる入り口になっていたりします。
 また、店員のえいみが、ここに就職したときテゴメにされ、えいみのトラウマになっていることが分かったり、そういうことを明里は次々に暴露していきます。
 ドラマは、いたるところでどんでん返しがあり、笑いの要素があります。主人が集金から帰ってきて「こんな女知らないよ」から始まり、店員のえいみはテゴメではなく、同意のうえであったようなことも臭わせます。取りようによっては、かなり陰惨なドラマになりそうなところを、明るく観客をクスグリながら持っていったところは、本と演出の腕でしょう。

 大事な台詞があります。明里がこう言います。

「どこの家でも良かったのよ。家庭崩壊させてやりたかった」
 非常に不条理な台詞です。これが昔の不条理劇ならば、理由は明示しません。わたしは、オールビーの『動物園物語』を思いだしました。
 公園で静かに新聞を読んでいる男に、見覚えのない男が執拗に、いろんな話題を投げかけ、新聞男を困らせます。全編コントのように観客を笑わせてくれます。最後に男はナイフを出して新聞男に体当たりします。
 そして、ナイフが深々と刺さりくずおれていくのは……観客の予想を裏切って、ナイフ男の方です。
「ありがとう……」
 そう言って、ナイフ男は、安らかに死んでいきます。
 ナイフ男が、新聞男に絡みまくる動機は書かれてはいません。ナイフ男は、本当に心が通じ合える相手が欲しかったのです。現代人の孤独の権化のような役割で、ハメられたとは言え、新聞男は、初めてナイフ男に「どうして?」という人間的な言葉を残し、観客は、一見不条理に見えていた二人の男に共感します。ショックとカタルシスが同時にくる見事な作品です。

 ところが、この『幸せ最高』は、リアリズム演劇のような描写が多く、明里の不条理さが浮いてしまいます。ドラマの中でも、明里の「どこでも、だれでも良かった」気持ちは、ただ本人の口から「性格異常」と言われるだけで、具体的な背景がありません。ただ、飼っていた猫が死んだという言葉はでてきますが、明里の異常な行動の説明にはなっていません。ひたすら明里はムチャクチャなのですが、誰とも親しくなれず、誰の人生も変えません。ポリタンで石油をブチ撒き、自分も石油まみれになりながら、なにも変わらず、ただ屋根の上で狂ったように笑っておしまいです。
 作者は、若者の絶望感にこだわって本を書いたようですが、明里には、感情移入できません。泉さんの演技が真面目であるために、観客はどこかで、明里にシンパシーを持とうとしますが、できません。
 わたしは、劇団往来がよくやるような、スラプスチックに徹すれば、違う道を通って、観客をカタルシスに導けたかもしれないなあと思いました。

 う~ん、まとまりませんね。

 コムツカシイ表現になりますが、リアリズム演劇と、不条理演劇のドラマツルギーの両方を持ってしまった結果だと思います。

 放送劇団は、関西では珍しく、きちんとしたリアリズム演劇ができる劇団です。もう前世紀の遺物なのかもしれませんが、インジの『ピクニック』や、ルナールの『にんじん』なんかを大真面目にやってもらいたいという、個人的な希望はあります。泉さんは、この両方に適役があるように思います。『欲望という名の電車』のステラの役も。そうなると、ブランチを誰が演るかという楽しい悩みも出てきます。

 まあ、放送劇団ファンの勝手な妄想ではあります。   


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』        

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大人ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『華麗なるギャッツビー』

2013-06-15 07:58:55 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『華麗なるギャッツビー』
       

これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです


まずお断り、私 バズ・ラーマンを全く信用していません…ちゅか 嫌いです。

ラーマンが一番評価された「ムーラン・ルージュ」は見ていませんが、これ以外は全部見ています。その結果、一切信用出来なく成りました。でも、ラーマンファンがいる事も確か。
 本作はアメリカで大ヒット、これまでギャッツビーが映画になったのが2回、いずれも興行収入はボロボロで「ギャッツビーに当たり無し」と言われていたので、当たりを取っただけで評価してもええんですかねぇ。
 兎に角派手な映画です。ギャッツビーのハチャメチャパーティーはようできてます……とは言え、音楽に難有り。原作はフィッツジェラルドが23~4年にパリで書き上げた。1920年台のパリは“黄金時代”と呼ばれ、アメリカは“ジャズエイジ”と呼ばれた。
 ジャズとは言え、トリオ、カルテットのフリージャズなどまだ影も形も無い。ビッグバンドスウィングか、まだ“ジャス”と呼ばれた時代。ところが映画で流れたのは明らかにフリージャズ、チャールストンを踊り狂うシーンに流れたのがテクノ風な演奏、すれ違う黒人ドライバーの車から聞こえてくるのは明らかにラップ……こりゃ無いよなぁ。
 この映画にはデッカイ取りこぼしがいくつかある。フィッツジェラルドの原作は“嵐が丘”の1920年バージョンです。当時、パリ在住のアメリカ人芸術家の中でアメリカを胡散臭く感じていたのかフィッツジェラルド、一切関係無く、自らのロマンに走ったのがヘミングウェイ。そんな事、考えもしなかったのがピカソです。
 作中、語り部となるニックはフィッツジェラルドその人、デイジーとトムは20年台のアメリカのカリカチュア、ギャッツビーは時代の告発者という位置付け。ならばこそ、ニック一人がギャッツビーを理解し、デイジーはギャッツビーに全て押し付けてトムと逃げてしまう。“嵐が丘”とは逆転して、この20世紀のヒースクリフは自分を捨てた恋人に復讐するために戻るのではなく、純愛を全うするために戻ってくる。結果、1920年のヒースクリフは命を失い、永遠の恋人はあっさり逃げてしまう。……この構造が本作では判りにくい。
 ニックがただ一人ギャッツビーを理解できた、その過程が見えてこない。デイジーの内実がマルッキリ“実の無い女”でしかない。アメリカという国の“危うさ”“いい加減さ”が曖昧になっている。
 レオもトビーもキャリー・マリガンも三者三様に巧いのだが、微妙に噛み合わない…このままだとミスキャストと言われる、これは監督の責任以外の何物でもない。私の年代はギャッツビーと言えばR・レッドフォード、ディカプリオは巧いのだが、やっぱり「トッチャン坊や」にしか見えない。ある意味、レッドフォードより難しい芝居をこなしてはいるが…どれだけこなしても「見た目」に支配されている。同一の伝でトビーもキャリーもイメージじゃない。ピストルを脇に下げたロミオに感じた違和感と同じ違和感を抱く。
 ギャッツビーのパーティーの絵(音は全くダメ)以外は例によって一人よがり、勘違い。私としては、見る前から心配していたラーマンの失敗がそのまま画像になっている…と思える。
 これじゃ、何の為にギャッツビーが死なねばならなかったのか、中途半端に投げ出されるだけで、映画の意味が浮かばない。
 時代を切り取れていないわ、感情移入できないわ。2時間22分…正直キツかった。あんまり オススメいたしません。……とは言え、結構 圧倒的な画作り(私には虚仮威しにしか見えないが) これのファンがいらっしゃるのも確か。その意味からしたら裏切ってはいません…念のため〓


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