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厭戦ビラと情報戦

2012-07-21 | 日本のこと

呉、入船山にあった呉史跡資料館に展示されていたものです。
本土空襲のついでに、このようなビラを米軍飛行機が落としていったのでしょう。
当時、このようなビラを拾ったら、必ず警察に届けること、というおふれが出ていたそうです。

言いたいことはよくわかるのですが、少し気になったので一言。
この手は「陸軍」「海軍」を表わしているわけですが、右側の海軍らしき袖。
どう見ても二種軍装の白なのに階級章がついています。
おまけにやたら線が細くてたくさんあり、まるで「記憶スケッチ」の海軍軍装のようです。


いきなり余談ですが、「ミツカン」という会社、ありますね。
ここの社章についての話なのですが、最初に海軍兵学校跡見学をしたとき、案内の方が、
「もともと海軍の袖章をモチーフにしている」とおっしゃったのです。
なるほど、ミツカン酢の瓶に書かれた意匠は、言われてみれば少佐の袖章と同じ。
そのときに「創業者の親戚が海軍少佐でどうの」と、詳しいところを聞いたようにも思うのですが、
帰ってきてあらためて調べてみると、ミツカンのHPにもウィキにも、海軍の「か」の字もない。
おまけに、社章の意味は、

酢の命でもある「味」「利き」「香り」の意味も持っており、下の丸○は「天下一円」を意味する

意味はそうなんでしょうけど・・。
モチーフはもともと創業者が自分の家紋から取って考案した、と言うことになっていますが、
商標登録をすることが商法で定められたのが明治17年と言いますから、
創業者が親戚の海軍士官の海軍袖章からモチーフを得たとしても、不思議ではありません。
しかし、戦後、軍にかかわる物事が「悪いこと」になってしまった後もそのまま商標を使い続けるため、
この起源を黒歴史として、公式には消してしまったのでは?
(本当に言ってたんですよ。解説の方・・・・)

さて、閑話休題。

なぜ、このビラが微妙に間違っているかと言うと、それはこれを作ったのがアメリカ人だからです。
米軍機によって撒かれたビラは、人心に「厭戦感」を与えるとともに、
「今あなた方が我々に爆弾を落とされているのは、日本の軍部のせいなんですよ。
我々だってやりたくてこんなことやっているんじゃない。皆で戦争をやめましょう」
という、啓蒙をするという目的があり、これもまた米軍の「情報戦」でした。

以前「白バラの祈り」というドイツ映画について感想を書いたことがあります。
大学でビラを撒いた学生三人がナチス法廷で断罪され、処刑された事件を描いた映画ですが、
この「白バラ事件」で、学生たちが撒いたビラも、ナチスを糾弾し、
「皆は騙されている」と訴えることで人民の自覚を呼び起こそうとするものでした。

映画評に「ビラをまくだけで世界が変えられると思っているソフィーたちの認識は甘すぎる」
という厳しい(笑)ものがあり、それについてもツッコませていただいた次第ですが、
この「ビラによって人心を扇動する」というのは、歴史も認める有効な情報戦なのです。
「たかがビラで処刑にするとは」
と、全ての人々はソフィーら学生たちに同情するわけですが、考えてみれば、ビラを配られる方
(この場合ナチ)が、情報戦を重く見、そういった活動の影響を恐れていたからこそ、
彼らをあのように急いで極刑にしたとも言えます。

「太平洋の奇跡―フォックスと呼ばれた男」、御覧になりました?
せっかく痛快な題材を元にしながら、超のつく大根役者を主役に据えてしまったため、
いまいち映画として画竜点睛を欠くと言った感のある映画でした。
(男前であることは認めますが)
この映画中、サイパンで山中に潜む日本人に対し、命の安全の保障と引き換えに
降伏を勧告するビラがまかれ、皆がそれを見るシーンがありました。

さらに先日感想を書いた「ひめゆりの塔」では、落ちてきたビラを見る少女たちに軍医(藤田進)が、
「敵のかく乱作戦だ。
我が軍は義烈空挺隊が敵の陣地を壊滅したという発表があったのだから」
と叱咤します。

あるいは「日輪の遺産」でも、終戦を知らせるビラが米軍機から撒かれ、
それを拾う少女たちに向かって陸軍少佐(堺雅人)が
「読むな!」と取り上げるシーンもありました。

日本人が終戦時の雰囲気を語れば、必ずそこに「ビラ」の存在があると言ってもいいでしょう。
厭戦気分をあおるとともに、ビラにはもう一つ、軍民の離間を謀る目的がありました。

ところで、外国人の製作するものですから、ビラにはなにかと突っ込みどころが満載です。

たとえば、ある米軍制作のビラですが、以下のような文章となっていました。

日本国民に告ぐ

あなたは自分や親兄弟や友達の命を助けようとは思ひませんか
助けたければこのビラをよく読んでください
数日のうちに裏面のとしてのうち四つか五つの都市を米空軍は爆撃します
(略)
兵器を米空軍は全部破壊しますけれども爆弾には眼がありませんから
どこに落ちるかわかりません
(略)
アメリカの考へてゐる平和といふのはたゞ軍部の厭迫からあなた方を解放することです
さうすればもっとよい新日本が出来上がるんです
戦争を止めるような新指導者を樹てて平和を回復したらどうですか

間違っていはいないけど、台湾の看板のように「文章にするには少し変」という文章です。
中でも「爆弾には眼がありませんから」には思わず「知ってる」と答えてしまいそうです。

さらに、冒頭の呉資料館で見たもう一つのビラ。




「恐怖からの自由」、これは、警官に誰何されているんですね。
何が恐怖なのかいまいちよくわかりません。
警官に行動を監視されている、ってことでしょうか。
それなら多分「特高」のことではないかと思われるのですが・・・。

「厭制からの自由」
この厭制という聞き慣れない言葉は、おそらく「戦時下に強制的に制定さるる法律」のことだと
思いますが、古い文献には使われていても、この頃も一般的な言葉だったとは思えません。
先ほどのビラの文言にも「厭迫」という言葉があり、これも日本語には無いような単語です。
言いたいことはわかりますが、この厭と言う言葉を使うのがアメリカ的には流行っていたのか?

「言語の自由」
おそらく「言論の自由」と言いたかったのでしょう。

「欲望の自由」
欲しがりません勝つまでは、なんて言わされているあなた方、騙されてるんですよ!
と訴えたい、これもわかりますが、挿絵がよくわからない。
ここに描かれているのは尾頭付きの乗った膳。
他の三枚の絵が「今のあなたがたの置かれているBADな状況」であることから考えると、
「こんな貧しい食事に耐えられるんですか?」と言う意味で描かれている気もするのですが、
これ、当時の日本の基準から考えると、すごい豪華なご馳走じゃないですか?
さすが米軍、日本が日頃から粗食であるということを全く理解していない。



このように、情報戦が有効であるからこそ、このようにせっせと米軍もビラを撒いたわけですが、
我が日本も負けてはいません。
主に南方で、米軍兵に向けて日本軍もビラまきをしました。

悪魔の姿をしたルーズベルトに、戦地に追いやられている米兵の姿を描いたビラ。
あるいは、フカの大きな口に迫られながら、恋人とのキスを思い出す米兵。セリフは
「同じ口でも大違い」

うーん。
このセンスはいまいちだと思うのはエリス中尉だけであろうか。

米軍兵士の心をがっちりつかんだセクシーボイスの日系人女性が、甘い声で彼らに
「もう戦争なんてやめて、帰りましょう。あなたのアリゾナの奥さんは今頃浮気しているかもよ」
などと語りかけた「東京ローズ事件」はあまりにも有名です。

このようなプロパガンダ放送を流した、有名な例をいくつか挙げておきましょう。


【第二次世界大戦

ホーホー卿ことウィリアム・ジョイス(ナチス陣営からイギリスに向けて放送、イギリス人)

アクシス(枢軸)・サリー(ドイツ陣営から連合国に向けて放送、イギリス人)

【日中戦争

南京の鶯(中国陣営から日本に向けて抗日放送、日本人)

【朝鮮戦争

ソウルシティ・スー(北朝鮮陣営からアメリカに向けて放送、アメリカ人)

【ベトナム戦争

ハノイ・ハンナ(ベトナム陣営からアメリカに向けて放送、ベトナム人)


新しいところでは、アルカイダのビデオに登場して米軍のイラク進駐を弾劾し、
米兵による殺人やレイプ事件を非難した、アメリカ人のアダム・ガダ―ンがいます。

何かと突っ込みどころの多いビラより、もしかしたら耳で聞く情報の方が、
人心を動かす効果はあったのではないかと思われます。

そしてなんといっても、「ひめゆりの塔」にも「太平洋の奇跡」にも、
その他多くの戦争映画にも描かれていたように、投降勧告の際、最も皆の
「厭戦気分」を揺すぶったのが、スピーカーから流される童謡や日本の流行歌であったそうです。


ところで、あの「政権交代」の前に、自民党が「マニフェストの嘘」というビラを撒きました。
民主党にはマニフェストを実行することなど不可能であるとし、なぜそうなるかという理由、そして
「民主政権で、これだけ日本は悪くなる」という未来予想図を書いたものだったのですが、
某テレビ番組ではこの行為(ビラを撒いたこと自体)をあげつらい、出演者全員で非難したそうです。

これは、「このビラが有効である」ということを民主党(と民主党を支持するマスコミ)が
認めていたということなんでしょうねえ。

勿論、その後の結果を見る限り、マスコミあげてのあの偏向報道には、
ビラなどでは到底太刀打ちできなかったということなのですが。





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