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令和3年 海上自衛隊東京音楽隊第61回定期演奏会@サントリーホール

2022-02-23 | 自衛隊

去る令和3年2月20日に東京赤坂のサントリーホールで行われた
海上自衛隊東京音楽隊第61回定例演奏会に参加させていただきました。

前日の雨は止みましたが、予報は一日曇りを告げる日曜です。
わたしは会員となっている商業施設の駐車場に早めに車を停め、
日曜で森閑としているビル内のスターバックスで開演を待ちました。

コロナ前であれば、オフィスは休業でももう少し人で賑わっていた場所です。
サントリーホールの前まで行ってみると、なんと向かいのビルは
カラヤン広場に面したカフェこそ営業していたものの、
ビル内部に続く扉はオフィス休業日ということで鍵がかかっていました。

サントリーホールには開館以来何度となく足を運びましたが、
こんな寒々しい開演前のカラヤン広場を見るのは初めてです。

昔・・・・・といってもまだバブルの尻尾的名残が残っていた頃、
当時の全日空ホテルに行くために広場前を横切ったら、
サントリーホールの前に、日本ではついぞ見たことがないような
ロングドレスにブラックタイの観客が、おそらくオペラの幕間だったのか、
外に出てきてなんとシャンパングラスを手に笑いさざめく光景を目撃しました。
(シャンパンはおそらくロビーカウンターから持ってきたもの)

流石にそんな光景を見たのはその時だけでしたが、
今にして思えばあれは日本が華やかな時代を享受し尽し終わる前の
最後の残光のようなものだったような気がします。

あれからいろんなことが起こり、今ではそんなことがあったのが
夢ではないかと思えるそのまさに同じ場所で、わたしは一瞬感慨に耽りました。


今回は届いた座席番号の書かれたハガキ状の入場券を見せると
係はそれを手に取って確認することなく、プロブラムを自分で取って、
席に着くという「非接触型」の開場になっていました。

ロビーに人が出てソーシャルになるのを防ぐため、
休憩時間を設けずに短めのプログラムを一気に行うのも以前と同じです。

わたし自身もコンサートというものにはしばらく足を向けていませんでした。
自衛隊以外では非常事態宣言前のペンタトニックス以来行っていないのですが、
これがコロナ禍下でのコンサートの新しい常識というものなんでしょうか。

席は前回と同じく一席ごと空席を設け、ステージ前数列も空席です。

ホール内では写真撮影禁止というアナウンスはありませんでしたが、
前回のように何が変わったかわからなかったので、
カラヤンが助言して設置されたというサントリーホールの流麗な
オーストリアのリーガー社製パイプオルガンの写真も我慢しました。

「サントリーホール オルガン プロムナード コンサート」
お昼休みの無料コンサート/演奏:坂戸真美(2017年11月2日)

ちなみに、サントリーホールは定期的にパイプオルガンの
無料コンサートを行なっています。

パイプオルガンは使用していないと、最悪ネズミ一家が住み着いたり、
埃などでいろんなところに不具合ができるので、料金が発生しない集客で、
演奏者にもボランティア的に出演してもらってでも稼働させないといけないのです。


今回は、会場内での会話を禁止するアナウンスはありませんでしたが、
演奏中の写真撮影、演奏後の時差退出などを告知するアナウンスの、最後に
「ブラボー」という掛け声などもご遠慮ください、というのには苦笑しました。

余談ですが、クラシック鑑賞業界?には「ブラボーマン」というのがいます。
それは、演奏終了後ブラボー!と叫ぶのを我が使命とし、あわよくば
有名演奏家の来日公演ライブレコードに我がブラボーを永久に残そうと、
演奏内容より終わりの瞬間を待ち受けることに全神経を傾けて
コンサート会場に通う、「自称クラシック通」のおじさんのことです。
(女性にはいない。見たことがないし聴いたこともない)

このブラボーマン、静かな曲の終演後にやったり、チャイコフスキーの交響曲6番で
3楽章の終わりについフライングしてしまったりするので、一般に評判が悪く、
演奏家にとってもあまり歓迎されていない(と思う)存在なので、
このようにホール側が堂々と「ブラボー禁止令」を出すことができたのは、
ある意味コロナ禍下における「奇貨」と言ってもいいんじゃないかと思いました。

そういえば、わたしの知り合いの演奏家の父上は、息子専門のブラボーマンで、
息子の演奏後、朗々たる美声で「ブラボー」はもちろん、
「マエストロ!」などとアレンジして叫ぶのを楽しみにしている方でしたが、
この楽しみがなくなってさぞがっかりしておられると思います。

っていうか、そもそも演奏会自体もできなくなっているかも・・。




■ 前半・イタリアオペラの世界

さて、前回、定例演奏会で海上自衛隊初の男性歌手が「お披露目」をした、
とご報告し、さらに今回の定期演奏会での曲目に
プッチーニの「誰も寝てはならぬ」があったことから、
今回のコンサートはこの男性歌手の正式なデビューになるだろうと予想しました。

プログラムは、どうやらそこに焦点を当てたらしく、1番から4番までは
イタリアオペラから、序曲、女性アリア、男性アリア、間奏曲という構成です。

1、歌劇「ウィリアム・テル」序曲より スイス軍隊の行進
ジョアッキーノ・ロッシーニ


演奏者の髪型と画質からかなり前の演奏?

イタリアオペラの序曲といえば、知らない人のいないこの曲。
もしかしたら、この部分が正確には序曲の4部であり、
「スイス軍の行進」という題がついているということを
知らずに聴いている人も多いかも知れませんね。

吹奏楽のアレンジが合うのでよくこのような編成で演奏されます。

案内なしで一曲目が終わると、おなじみ、ハープ奏者の荒木美佳2等海曹
(幕僚監部総務課広報部と自己紹介された)の司会により、
今回の定期演奏会はいよいよ始まりました。

曲と作曲者紹介の際、ロッシーニが美食家だったこと、それゆえ
世には「ロッシーニ風」料理がたくさん残されている、
という楽しい話題を取り上げて、掴みは万全のMCです。

ロッシーニ風はステーキとかカツレツとか、とにかく肉系の料理に多いようですね。
特にロッシーニ風ステーキとくれば、フィレ肉とフォアグラに、
マディラワインに黒トリュフソースという成人病一直線みたいな一皿でございます。

そんな贅沢料理を愛したロッシーニの死因は直腸癌だったとか。
自業自得とはいえ、本人も以て瞑すべしだった・・・と思いたい。

わたしは、料理についての彼の箴言?のうち、

「女が作る料理は、バターをケチるからいけない」

とか、自分の銅像が生きているうちに建つと聞いた彼が、その建造費を聴いて、

「それだけくれたら私がずっと立っていてあげるのに」

と言ったという話が好きです。


2、歌劇「ランメルモールのルチーア」より 辺りは沈黙に閉ざされ
ガエタノ・ドニゼッティ


まず、先輩歌手?の中川麻梨子三等海曹がオペラの大アリアを歌いました。

コアなオペラファンでもない限りご存じないオペラだと思いますが、
ヒロイン、ルチアの「狂乱のアリア」とこの曲は大変有名です。

この日中川三曹が選んだのは、好きでもない男と結婚させられそうになるルチアが
泉のほとりで、恋人を刺されて泉に沈められた女の幽霊話のついでに?
自分が本当に愛している男を思って歌うシーンのアリアでした。

ちなみにメトで歌い終わった後、12分間拍手が鳴り止まなかったという、
伝説の歌手ジョーン・サザーランドの歌唱はこちら。(アリアは5:00から)



お聴きになれば、いかに技巧の難しい曲かはお分かりいただけるでしょう。
中川三曹は声楽コンクールにも入賞している本格的なソプラノ歌手で、
歌いこなすだけでも大変なこの曲を見事に仕上げておられました。

ただ一つ残念だったのは、吹奏楽団の伴奏とのバランスの関係で、
ところどころ声が伴奏に埋没してしまったことでしょうか。

しかしこれは、自衛隊音楽隊における宿命のジレンマみたいなもので、
オケの曲を吹奏楽に編曲する限り、作曲者の意図とは乖離する部分が出てきます。

特にクラシック声楽曲と吹奏楽の相性は難しいと考えます。
一般にオペラ歌手は増幅装置一切なしでフルオケバックに声を響かせられますし、
今回は足元に目立たないマイクを置いて調整していたように見えましたが・・。


3、歌劇「トゥーランドット」より 誰も寝てはならぬ
ジャコモ・プッチーニ


Luciano Pavarotti's Last Public Performance - Torino 2006 Opening Ceremony | Music Monday

せっかくなので、トリノオリンピックでのルチアノ・パヴァロッティの演奏を。
トリノの時には、閉会式でアンドレア・ボッチェリも歌っていましたっけ。

つくづく、世界一の歌手がゴロゴロいる国は、いざオリンピックとなっても
アトラクションの方向性に一切迷いがなくていいですね(ため息)

今回大注目の男性歌手、ハシモト・コウサク二等海曹のデビューです。
自衛隊のポリシーとして隊員個人をクローズアップしないので、
バックグラウンドどころか名前の漢字すらいまだにわからんのですが、
音楽大学でオーソドックスな声楽の勉強をされた方のように思われました。

この曲は幸いオーケストレーションが元々そのようにできているので、
バックとのバランスはさほど気にならなかったです。


思うに、オペラのアリアは、その数分間で登場人物とその世界を演じ切る芸術です。

この「ネッスン・ドルマ」(誰も寝てはならぬ)という曲は、
何かの理由で結婚したくないがため、求婚者に謎解きをさせて(かぐや姫?)
解けない者を斬首させてきた紫禁城のトゥーランドット姫の元に現れた王子が、
謎をいとも簡単に解いてしまったにもかかわらず、往生際悪くゴネる姫に向かって、
今晩中に私の名前(カラフ)を当てたら私を殺すが良い、
私は朝には必ず勝利しあなたを手に入れる、と力強く宣言する歌です。

ハシモト二曹が「ビンチェロー!」(勝利する)の後の後奏の間、
カラフがそうであったように、勝利を確信した風に拳を握りしめて
炯々とした眼を宙に据えた立ち姿は、その長身もあって姿勢が実に美しく、
(この辺りは自衛官としての任務の賜物かも)この様子には心底感動しました。

まだお若いので、これからいろんな経験値を加えて身体作りを含め、
音楽家としての幅を広げていかれることを期待します。


4、歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より 間奏曲
ピエトロ・マスカーニ


前半のイタリアオペラパートの最後に選ばれたのは、マスカーニの
翻訳すると「田舎の騎士道」というタイトルの歌劇の間奏曲でした。

イタリアンパートとしては最後の曲ですが、コンサート全体としては
この曲が中間点となる、という意味で選ばれたようです。

有名なこのオペラの中で最も人口に膾炙したと思われる間奏曲で、
誰もが一度は聞いたことくらいあるのではないでしょうか。

ただ、この曲に関しては吹奏楽のアレンジに物足りなさを感じました。

前奏部分が終わって主旋律となった時に、オケ版では弦楽器がメロディを奏で、
ハープ2台とコントラバスのピッチカートがそれを支えるのですが、
このアレンジだと、吹奏楽をハープ1台とコンバスだけで支えることになり、
このピチカートのメロディが埋もれて全く聴こえてこなかったのです。

マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲
[吉田裕史指揮]


僭越ながら、原曲のスタイルにこだわらず、
いっそポップス風にアレンジしてしまった方がよかったのでは、と思いました。



■中間・海上自衛隊紹介(艦Tubeのことなど)

本来ならここで休憩というところで、改めて海自の宣伝が入りました。
海上自衛隊の「艦tube」(かんつべと読みます)の紹介などですね。

制服系公務員ユーチューバーとして、中の人が紹介しています。

【艦Tube】輸送艦「おおすみ」に潜入してみた!


【艦Tube】P-3Cで離陸してみた!


東京音楽隊の内部潜入バージョンも!(おすすめ!)

【艦Tube】東京音楽隊で演奏してみた!


■ 後半  ザ・吹奏楽曲

前半では歌手の歌声を堪能し、それはそれで大変満足しましたが、
その関係上、オーケストラ曲の吹奏楽編曲が続くことになったため、
後半最初のこの曲では、出だしのこれぞ吹奏楽!という響きに心が沸き立ちました。

遥かな海へ 川邊一彦

海上自衛隊 ~遥かな海へ~


ご存知、かつて東京音楽隊長でいらした川邊一彦氏の曲を、
海自の公式チャンネルが素晴らしい映像に被せた名作です。

海上自衛官にしか作れない音楽と海上自衛官ならではの素晴らしい編集、
海上自衛隊ファンなら1日に一度は必ず見たくなること請け合いです。

そして実際にネイビーであった人であれば、この、波の音や風の音まで再現し、
「出港用意」「入港用意」の声を配した曲に特別の感慨を持たれるでしょう。

わたしの一つ置いた隣にはアメリカ海軍らしき方が座っておられたのですが、
同じネイビーとしてこの曲をどう思っておられるかな、などとつい考えていました。

ところで、楽譜に書かれている「出航用意!」「入港用意!」の声を
このステージではどの楽器が担当しているんだろうと思っていたのですが、
最後に樋口隊長が、後ろに座っている歌手のハシモト二曹を紹介しました。

なるほど、男性歌手の「使い方」として何たる適材適所。

そして、予想通り、演奏が終わってから樋口隊長は客席を探す仕草をしてから、
観客の一人となって演奏を聴いておられた作曲者を紹介しました。

座っておられた席が近かったので、退場の時声をかけられる距離を歩いておられ、
わたしはこの曲が大好きであることと、川邊隊長が退官前の音楽まつりで
歌声を披露され、すっかりそれに魅了された記憶があったことを
お伝えするチャンスだったのですが、こういうとき極端に引っ込み思案のわたしは、
結局どうしても声が出ず、心の中で称賛を送るにとどまりました。



吹奏楽のための第一組曲 Suite for Military Band op.28
グスターブ・ホルスト

「吹奏楽のための第一組曲」イギリス式 金管五重奏 
海上自衛隊 横須賀音楽隊『按針フェスタ2017』


ホルストといえば「惑星」ですが、この曲は原題である
「For Military Band」の通り、元々は軍楽隊のために作曲されました。

この曲の解説では、吹奏楽が軍楽隊から発展したものであることなど、
その起源が紐解かれて、観客の興味を引きました。

説明の通り、吹奏楽=軍楽とはっきり記録に残されているのは
1557年に結成されたロイヤル・アーティラリーバンドだと言われます。

しかし、「ミリタリーバンド」というのは英語の解説によると、
必ずしも軍楽隊だけを意味するものではなく、20世紀以降は
地元の警察や消防団、さらには工業会社が組織する民間バンドなど、
木管、金管、打楽器を含むあらゆるアンサンブルに
「ミリタリーバンド」という言葉が適用されるようになったとあります。

この日の前半がたまたまそうであるように、当初イギリス軍楽隊では
演奏していた音楽の大半がポピュラー音楽やオーケストラの編曲だったそうです。


つまり、吹奏楽というメディアのために特別に作曲された本格的な音楽はまだなく、
従って楽器編成も標準化されていなかったということですね。

これは、管楽器群からなるアンサンブルは音色のまとまりに欠ける、
という管弦楽至上主義的な考え方が浸透していたことに加え、
決まった楽器編成がないことが作曲家にとって大きな障害だったようです。

ホルストがわざわざ「軍楽隊のために」と楽器構成を指定して作曲したのが、
この「変ホ長調組曲」で、吹奏楽というメディアを念頭に置いて作曲された
ほとんど初めての試みだったとする説もあります。

しかしながらわざわざそう断るだけあって、非常によく練られており、
響きも計算されていて、それというのもホルスト自身、
トロンボーン奏者としてバンド経験を重ねる中、従来の吹奏楽レパートリーに
大いに不満を抱いていたことが作曲のきっかけだったからだそうです。

ただし、この作品については詳しいことはほとんどわかっておらず、
委嘱作品であったという記録もないため、作曲の直接の動機は不明だそうです。


ともあれこの組曲は、吹奏楽のために書かれた本格的な作品であり、
軍楽隊特有の課題に対応するためのオーケストレーションで書かれています。

先ほども書いたように、当時は軍楽隊に標準的な楽器編成がなかったため、
ホルストは19の楽器のスコアを書いているものの、
残りの17のパートにはなんと、「ad lib.」と記されています。

ちなみに当時のイギリスの軍楽隊は20人から30人程度だったので、
19のパートをカバーした後、残りのパートは文字通り「アドリブ」で
作品の完成度を損なわずに追加したり削除したりできる仕組みでした。

この第1組曲は音楽史的、というか吹奏楽音楽史的に重要な意味を持ちます。

多くの著名な作曲家たちに、この曲以降、木管楽器、打楽器、金管楽器という
組み合わせを使って本格的な音楽が書ける確信を与えたのです。

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズの「イギリス民謡組曲」(1923年)、
ゴードン・ジェイコブの「ウィリアム・バード組曲」(1923年)
などがその代表的な例と言われています。

曲は3楽章から成り、どれも「スコッチ風」が色濃く匂いました。


「ハイランド讃歌」より フラワーデール
フィリップ・スパーク


フィリップ・アレン・スパーク(1951年生まれ)はロンドン生まれ。
コンサートバンドやブラスバンドの音楽で知られています。
ホルストに続いてスパークで、後半は川邊氏以降オールイギリスだったわけです。

初演は2002年で、テーマはスコットランドですが、民謡は使われていません。

組曲全体は7つの楽章からなり、すべてスコットランドの
ハイランド地方にちなんだ名前となっていますが、この日はその中から

フラワーデイルFlowerdale - ソプラノ・コルネット・ソロのための

が演奏されました。
この曲はその地名ごとにユーフォニウム、コルネット、フリューゲルホルン、
ホルン、バリトンにソロを与えるという形式がとられていたので、
この日はヒラタ・クンペイ三等海曹がこのソプラノコルネットを演奏しました。

ソプラノコルネットは普通の楽器より短く、吹奏楽の最高音域を出します。
ピッコロよりも高いってことですね。
どんな音が出るのかは下のよーつべでお確かめください。

Flowerdale-Soprano Cornet Solo-


宇宙の音楽Music of the Spheres
フィリップ・スパーク


作曲者自身が指揮をしているバージョンを見つけました。
最後に、選ばれたのは、同じスパークの吹奏楽の大曲です。

宇宙の音楽とは普遍音楽、musica universalisとも言います。
曲の題名にスフィアとあるのでお分かりかと思いますが、これをまた
球体の音楽、球体の調和とも呼ぶこともあります。

古代ギリシャで生まれ、ピタゴラス学派の教義となっていた理論で、
太陽、月、惑星などの天体の動きの比率を音楽として捉える哲学的な概念です。

16世紀になって、天文学者ヨハネス・ケプラーがこの理論を発展させました。
ケプラーは、この「音楽」が耳に聴こえるものではなく、
魂によって聴くことができると考えていたようです。

この思想はルネサンス末期まで学者たちを魅了し続け、
人文主義を含む多くの思想家たちに影響を与えました。

スパークもまたこの思想に着想を得て、宇宙の創生から未来を表しました。

1、「t=0」テナーホーンの独奏により宇宙の始まりを表す
2、激しい「ビッグバン」
3、「孤独な惑星」生まれたばかりの地球
4、「小惑星帯と流星群」地球に迫る危機
5、「天球の音楽」6、「ハルモニア」宇宙全体が奏でる音楽
7「未知なるもの」宇宙の未来

という7つのパートに分かれます。

演奏をお聞きいただくとわかりますが、打楽器パートの目覚ましい活躍をはじめ、
その音の洪水が織りなす「宇宙観」には飲み込まれずにはいられません。

最後に、「遥かな海」でも使われた風を表すための大きなローラーを演奏した
打楽器奏者を、樋口隊長がスタンドアップさせる時、
ぐるぐる手を回す動作をされていたのに個人的にウケました。

この曲、元々は管弦楽のための曲だったそうですが、
作曲者本人の手によって吹奏楽のスコアも書かれました。

ホルストの「軍楽隊のために」で音楽としての定型を得た吹奏楽が、
その後進化したその一つの最終形、という言葉が出てくるほどの完成度の高さ。
それを演奏した東京音楽隊の完成度と意欲の高さもまた素晴らしいものでした。


そして、海上自衛隊音楽隊の終演時には必ず演奏される行進曲「軍艦」の後、
時差退場が始まり、ステージの上の隊員の皆さんが、
演奏時の表情から一転破顔して両手で客席に手を振ってくれるのに
送られながらサントリーホールを後にしました。

そして、会場のロビーでアンケートの回収などの作業をおこなっている
自衛官の方々の応対も、丁寧で温かく、言葉を交わしただけで
心が癒されるようだったということもぜひ付け加えておきたいと思います。


素晴らしいひとときを本当にありがとうございました。