航空機に興味を持ち出したのがここ三年で、おそらくこれを見ておられる方々の誰より
航空機の知識にかけては未熟者であるエリス中尉ですが、
アメリカでこうやって歴史的な飛行機を生で見ることができる、という強みだけはございます。
自衛隊機についてはとりあえず一通りは実際に観たかな、というところでアメリカに来て、
いちどきに大量の米軍機、自衛隊で運用されているもの以外もかなりの数見ることができました。
自衛隊機はほとんどがアメリカ製なので知っている機体も多かったのですが、
日本では決して見ることのできない、かつて日本軍と戦った航空機などを見ると
ひとしおならぬ感慨を持ちます。
いや、本当に平和っていいですね。
さて、USS「ホーネット」には、空母ですから各種艦載機が展示されています。
U.S.S. ホーネット CVS-12 航空隊
これらの航空機は、かつてそれらが製造されたような方法で復元されているが、
それはパイロットがそれらを飛ばし、整備士がそれらを整備し、
かれらクルーがひび一つないまでにしており、
並はずれて優秀な作業であったとしかとしか言いようがない。
それはかつての乗員が残したままである。
純粋にこれは尊敬に値し、これらを顕彰するものである。
って感じでしょうかね。ちょっとこの翻訳自信ないんですけど。
まあ、意味は間違ってないと思うので細かいところは見逃してください。
母艦乗りの日高盛康少佐が戦後残した手記では、自分が事故を免れたり
戦後まで生き残ったことを幾度となく
「天佑神助と整備員のおかげ」
と言い切っていましたが、飛行機乗りは自分の命を乗せて飛ぶ飛行機を
整備してくれる整備員に常に感謝し、畏敬せずにはいられないものです。
整備員が自分の整備した飛行機にかなしいまでに責任を感じるのは今も昔も同じで、
たとえばその機が整備不良で事故を起こしパイロットが死亡した場合には、
自殺してしまう者すらいるものだそうです。
T-33の入間での墜落事故の際も、射出高度が足りないのにもかかわらず
乗員の二人が最後にベイルアウトしたのは、整備員に気を遣ってのことだったのではないか、
(故障で射出できなかったからではないかと彼らが気に病むから)という話もあるくらいです。
この大きな垂れ幕は、ここに展示するための飛行機を整備したクルーを
改めてねぎらっているのですね。
UH-34 SEA HORSE
おにぎりのようなシェイプがかわいらしいシーホースですが、
ベトナム戦争時代に活躍した飛行機です。
シコルスキーのS-8のアメリカでの運用名の一つで、もともと
「チョクトー」という名前だとか。
チョクトーはチヌークやアパッチ、シャイアン、イロコイと同じく、
ネイティブアメリカンの部族の名前です。
「菅直人」が「カンチョクト」と呼ばれていたのを思い出してしまいましたわ。
どうでもいい話ですが。
アメリカ軍がネイティブ・アメリカンにまつわる単語を機種や部隊名にするのは
かつて殺戮した種族でもこのころは彼らもアメリカ国民として戦争に貢献しており
また、航空機産業の発祥の地がたまたまネイティブアメリカンの居住地に囲まれていた、
という経緯も若干は関係しているようです。
「ブラックホーク」というのも実は有名なソーク族の酋長の名前だそうです。
ホーネットにエントランスから入っていくと、そこはハンガーデッキです。
かつてのように航空機が並べられて展示してあります。
展示飛行機はレストアされたり増えたりしていつも同じではない、ということでした。
管制室には黄色い制服を着た乗員のマネキンがいます。
ホーネットでは乗員の持ち場に応じてユニフォームの色を変えていました。
赤、黄色、白、青、緑、茶色、紫で、黄色は「ハンドリング」つまり飛行機の誘導をする部門です。
これが全部ホーネットの搭載機?
あまりにも多くて驚いてしまうのですが、
左上から縦に(面倒なので愛称だけ)
ヘルダイバー、トムキャット、ドーントレス、ディバステイター、ミッチェル。
コルセア、ベアキャット、ヘルキャット、ヘルダイバー、アベンジャー、スカイレイダー。
スカイホーク、フューリー、バンシー、パンサー、サベージ。
トラッカー(E1B)、トラッカー(S2F)、シースプライト、シーキング、シーホース。
浜松の航空博物館などに比べると、実に素朴というか、プロにはない
この何とも言えない手作り感が微笑ましく感じます。
絵の得意な関係者がボランティアで描いたという感じですね。
米軍艦船のマークもこのように。
このドナルドダックはきっと軍需産業ウォルトディズニーの篤志でもらったデザインに違いない。
だからディズニー、てめーは(略)
レキシントンは、昔ボストンに住んでいた時に近かったので何度か立ち寄りました。
あ、レキシントンという町のことですね。
ここは独立戦争の時に大きな戦闘があったところなんですよ。
だからマークも、独立戦争時の兵士がモチーフでしょ?
いちばん右の「Bon Homme Richard」ですが、なぜかフランス語で、
「ボノム・リシャール」と読みます。
直訳すれば「善人リシャール」ですが、実は「お人よしのリシャール」ってとこですかね。
超余談ですが大学時代音楽学(そんなもんがあるんですよ音大というところは)の授業で
フランスの古典の民族的歌謡の講義を受けたんですね。
その時に教授が使った資料に確か
「うちの亭主はお人よし」(Mon mari es bon homme)という戯れ歌がありましてね。
もちろんフランス語の歌詞なんですが、最後に
「うちのニワトリが鳴いている、コキュ、コキュ、コキュ(COCUE)」という一文。
そこで教授、
「フランス語専攻している学生、手を挙げて・・・はい君COCUEとは何か」
「知りません」
「それでは君」(エリス中尉に)
「はい、それは妻を寝取られた夫のことです!」(きっぱり)
ええ、高校時代にフランソワーズ・サガンをとりあえず全部読んだわたしですもの、こんなの即答ですわ。
教室は静まりかえり、ややあって教授、(この教授の専攻はドイツ語だった)
「・・・・・・・・・・・よう知っとる・・・・・・・・・・」
知っていると思って聞いたんじゃないのかよ。
ともかくこの「ボノミ」にはどちらかというと「お人良し・間抜け」という揶揄が含まれています。
閑話休題。
モットーの「I Have Not Yet To Fight」、これは単にわたしの想像ですが、
「You ain't heard nothin' yet!」から来ているのではないかと思います。
つまり、「お楽しみはこれからだ」ならぬ、
「戦いはこれからだ!」
「Don't Tread On Me」は「私を踏みつけるな」ですから、おそらく
「わたしをあんまり怒らせない方がいい」(AA省略)
でしょうか。
艦名はお人よしだが、なめてもらっちゃ困るぜ!みたいな言い訳感満載のシンボルです。
下段真ん中の「キアサージ」にご注目。
もともと「キアサージ」だったCV-12を、日本に沈められた「ホーネット」の名に変え、
その後新しく生まれたCVS33を「キアサージ」にした、という話をしましたが、
そのキアサージの観光地の看板風の艦章があります。
IN OMNIBUS PINNACULUM
この意味はよくわかりませんでしたが、艦の後ろに三つそびえる「ピーク」が、
オムニバス、つまり連なっていて「連山」ということだと勝手に理解しました。
キアサージとはカリフォルニアのシエラネバダ山脈にある山の名前なので、
このように連なっているのでしょう。
上真ん中のWASPもこのHORNETと同じく、ハチさんですね。
ワスプはスズメバチで、ホーネットもなぜかスズメバチです。
よく見ると、ハチが敵艦船を刺している。
ハチは一刺しするとその後死んでしまうんだけどそれはいいんだろうか。
US-2B TRACKER
2000年からこのホーネットに展示されているトラッカーです。
うーん・・翼のたたみ方が、雑だ(笑)
トラッカーは読んで字の通り「追跡者」。
しかし、この「無理やり機体をたたんでいる感」はすさまじいですね。
と思ったら案の定、空母艦載機として運用することを大前提にしすぎて、
装備を小さな機体になんでもかんでも詰め込んで居住性を犠牲にしたため、
搭乗員たちからは不満続出だったということです。
ん?お尻に見えている突起はMADブームかな?
これが伸びるんだろうか・・・・・・。
そういえば、ニコラス・ケイジの映画に「コンエアー」ってありましたけど、
あれ、囚人が飛行機で搬送中反乱を起こして、って話でしたよね。
「コンエアー」って、もしかしてこの機種の派生型「コンエアー」のことだったんだろうか。
それにしても、作業が途中のような雑然とした感じでしょう。
これは、しょっちゅうどれかの飛行機に手を入れてメンテナンスを続けているからなんですよ。
こちらもメンテ中でございます。
航空博物館といっても裏手に持っていくわけでに行かないので、展示スペースで
すべてをやってしまおうとすると、どうしてもこういうお見苦しいところを
見学者に見せてしまうことになるのですねわかります。
こういうのも興味のある人間にはありがたい眺めなので歓迎ですが、
日本の施設ならもう少しこぎれいにして展示すると思うんですけどね。
いずれにしてもアメリカ人というのは良くも悪くも雑駁な国民性であるなあと思います。
このコブラさん、鼻の下にバンソウコウを貼っています。
あれ?もしかして、ローターありませんか?
FJ-2 FURY
この「フューリー」って、
激怒, 猛威, 激情, 憤激, 怒気, 鬱憤, 腹立ち, 加害, 立腹, 余憤, 欝憤
っていう意味なんですよね。
なんだってこんなネガティブな名前を付けたんだろうノースアメリカン、いやアメリカ海軍。
だから本日のタイトルは単に語呂がいいからちょっとやってみました。
意味はありません。反省してます。
同じフューリーでも、FJ-1とこのFJ-2は翼の角度からして全く別物で、
というのもこちらはF-86セイバーの派生形なんですね。
なんですかね、ご予算的に新型飛行機じゃなくて改良型ですよ、と言い訳する必要があったのかしら。
そしてこの製造の影にも実はアメリカ海軍の悪い癖、
「空軍が持ってるならおいらも」
があったのだった(笑)
実はこの前にF-86が空軍において素晴らしい性能を発揮したのを見て、
海軍も艦載機としてこれが欲しい!空軍が持ってるんだからうちも欲しい!
というわけでセイバーに改造を施しさらに機銃を搭載したものを採用したんですね。
後退翼になっていることからしてFJ-2とは全く別系統の飛行機を作らせたのです。
ところがこの型は離着艦性能に難があるということがわかってしまいました。
アメリカ海軍、人と同じものを欲しがる前にちゃんと自分とこで運用できるかどうか調べろよっていう。
それで海軍はこれを全て海兵隊で使用することに決めたというわけ。
この機体に「マリーンズ」と大きく書いてありますね。
インテークの穴は展示の時だけふさぐのだと思いますが、この「蓋」、
ちゃんとカラーコーディネートがされていておしゃれです。
このように翼をたたんだ状態で展示してくれる方が、特性がよくわかっていいですね。
さきほどのトラッカーの無理無理感とは違って、実にスマートに羽をたたんで(立てて)います。
このフューリーが海兵隊の所属でどのように実戦に投入されたのか、今回はわかりませんでした。
というわけで、またもや寄り道が多くて冒頭のトム猫さんの話にたどり着けませんでした。
次回に続く。