SH-3 シーキング(SH-3 Sea King)
艦載することを重視しすぎて極限まで翼を折りたたみ、居住性を無視したため
搭乗員にはめっぽう評判の悪かった「チョクトー」
(しつこいようだが菅直人ではなく、ネイティブインディアンの部族の名前)
の後継機で、対潜哨戒の役割を持ち、米海軍が配備したいちばん最初の全天候型ヘリコプター。
戦闘機に「全天候型」があるという話が少しばかりこのブログ的に話題になったところですが、
ヘリは戦闘機以上に天候に左右されるので、これは画期的な機種だったわけですね。
シーキングはアウトリガータイプ
(船舶用語で安定性をまし転覆を防止するために舷外に突き出して固定される浮き)
のスポンソン(燃料やギアを収納する空間)を持ち、安定性が確保されています。
そして後続距離の長さもこのヘリの大きな特徴です。
1965年、シーキングはサンディエゴに停泊中のこのUSSホーネットから飛び立ち、
15時間52分で3400キロ離れたフロリダ・ジャクソンビルのUSSルーズベルトに到達し、
初めてこれだけの長距離を一挙に飛んだヘリコプターとなりました。
日本のウィキペディアで検索してもスペック程度の説明しか出てきませんが、
実はこのシーキングは、アメリカのヘリコプター史においてもっとも成功したヘリと言われています。
その性能を買われて対艦攻撃、捜索救難、兵員輸送、通信、要人輸送、そして早期警戒など、
実に様々な用途に活躍をしてきました。
「ファイヤーキング」という名前で民間爆撃機として任務を負っていたこともあります。
しかしその中でも最もシーキングが有名になったのは、何と言ってもアメリカ宇宙計画の
ジェミニ、アポロ、スカイラブのミッションに参加したクルーを揚収したことでしょう。
1969年、アポロ12号の揚収でゴムボートの上に載っているのがこのカプセル。
次々とパーツを切り離していき、最後にこの部分だけが大気圏に突入し、
海面にパラシュートで到達、彼らを揚収し移送するのがヘリコプターです。
このとき揚収の任務を負ったNo.66の機体は、1975年、サンディエゴ沖数百マイルの高度から
墜落し四散したため、この歴史的に貴重なシーキングは永遠に失われてしまいました。(-人-)
「この写真のヘリが墜落したって?
ここにある機体も同じ66をつけているんだが」
と気づいた方、あなたの洞察力はすばらしい。
しかし、写真のヘリとここにあるヘリは全く別物なのです。
その理由をお話ししましょう。
ここにある機体はNo.148999で、1965年のジェミニの揚収などで活躍したのち引退が決まり、
1995年、彼女にラストミッションが与えられました。
それが、モーションピクチャー制作の映画「アポロ13」への出演で、
帰還してきた飛行士たちを揚収する今は亡きヘリコプター「No.66」としての「演技」だったのです。
そこで、この機体、冒頭写真をもう一度見ていただきのですが、
機種にカプセルのマークが5つ描いてありますね。
これはどうやら揚収したカプセルの数だと思われます。
ちょいと余談ですが、今回アメリカで遭遇したたくさんの飛行機の中で
たとえば古い軍用機の機体に撃墜した敵機の数が誇らしげに描かれていると
この国と戦争した国民としては、何とも言えない複雑な気持ちになったものですが、
こういうマークならいいですね。
何のわだかまりもなく見られるといいますか。
それはともかく、この機体No.148999は5基ものカプセルを揚収しておりません。
さらにこれ。
USSイオー・ジマ。
もちろん硫黄島のことですが、アメリカ人が「いおうとう」と言えないもので、
勝手にイオージマ呼ばわりした結果、あそこは英語ではイオージマになってしまいました。
それはともかく、このウィキの写真をご覧ください。
アポロ13のジム・ラヴェル船長始め三人を揚収したのは揚陸艦イオー・ジマだったんですね。
No.66がもしこの時に健在であれば出演したのでしょうが、それがならなかったため、
引退予定のNo.148999に白羽の矢が立ったというわけです。
この機体はほかのものに比べて妙に塗装がきれいです。
つまり映画の出演時にイオージマ搭載のシーキングNo.66に扮するために塗り替えられて、
その塗装のまま展示されているというわけです。
ちょうど映画の計画があった時に引退が決まっていた、というのでこの機に白羽の矢が立ったのでしょう。
こういう部隊のマークもしっかりと描いてあります。
おそらく、というか絶対に画面には映らないと思うのですが、細かいですね。
映画「火垂るの墓」では、戦艦「摩耶」の舷窓やラッタルの数まで本物通りに作画したのに、
実際は黒く塗りつぶされていてこだわりの部分は全く見えなかった、という話を思い出します。
ちなみにこの映画、船長のジム・ラベルがトム・ハンクス、メンバーにケヴィン・ベーコン、
病気が疑われて直前にメンバーから降ろされた飛行士にゲイリー・シニースが出ております。
管制室長のエド・ハリスやビル・パクストンなど、良い俳優がたくさん出ているので
その内容もあってわたしの好きな映画の一つで、DVDも持っているのですが、
今度はこの揚収シーンのシーキングに気を付けて観てみようと思います。