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空母ホーネット~F-8「ラスト・チャンス、ラスト・ザ・ガンファイター」

2013-09-24 | 航空機

生まれて初めて空母の甲板に立ったエリス中尉、何よりもまずその広さに驚きました。
空母らしきものとしては護衛艦「ひゅうが」に昨年乗ったわけですが、
それは観艦式で甲板には大勢の人が林立していたため広さがわからなかったんですね。

ホーネットはなんといっても現在ただの浮かぶ博物館。
平日ともなると人が少ないので、甲板上の視野に人っ子一人入らない、
という状態で、その広さを心行くまで実感した次第です。



どうよこの広さ。
甲板の一番端に立って撮ったものですが、あの大きな艦橋が・・・・小さいです・・・・。 
まるでアンテナのように見えますね。
しかし、これくらいでないと艦載機が甲板に着陸することはできないのだろうと思われます。

甲板には全部で4機の艦載機が展示されているのですが、どこにあるのかわからないくらいですね。



Vought F-8 Crusader

クルセイダーは艦上機としては世界初の超音速戦闘機で、
海兵隊と米海軍のためにヴォート社が製作しました。

「最後のガンファイター」"Last the Gunfighters"

まずこのような呼び名が与えられました。
しかし「最後の」というのは、逆翻訳すれば「The last Gunfighter」という意味ですね。
しかしよく見てください。
"Last the GunfighterS"
とは、
「多くのガンファイター(複数形)の最後」
となり、つまり

「ガンファイターの最終形」

という訳が最もふさわしいと思われます。


20ミリ機関銃を4丁搭載し、機動性に優れたクルセイダーは、ヴェトナム戦争に投入され、
ここでまたもや

「ミグ・マスター」(Mig Master)

というあだ名が与えられます。
日本のウィキだとどういうわけかこれが「ミグ・バスター」となっているのが可笑しいですね。
語呂だけ合っているって言う。

「マスター」ではたいていの日本人はぴんと来ないのですが、この「マスター」、
英語だと「He is master」(彼が勝者だ)というように、「相手に勝てる者」 の意味があります。
その名が表す通り、ヴェトナムでは機動性を生かしてミグ17を多く撃墜しています。

ratioというのは比率という意味で、さらにKill Ratioというと、軍事用語で
空戦の際の「勝率」、つまり「撃墜対比撃墜比率」となりますが、
このクルセイダーのキル・レシオはヴェトナム戦争において最も高く19:3。
19機のうち3機がミグ21、16機がミグ17ということです。

いや、よく言われることですが、アメリカンってこのあたり全くスポーツ感覚ですね。
撃墜した飛行機の数を挙げただけで、不謹慎だの人が死んでるだの、
はては戦争に行った方はそんなもの見るのもいやだからやめろの命懸けの戦いを語って欲しくないだの、
事象を事象として見られずヒステリックに大騒ぎする日本の「自称良識派」にもいい加減うんざりですが、
撃墜を「キル」として比率順位をやっちゃうアメリカというのもなかなか突き抜けてます。

(この一文、どうも説明っぽいな)

しかし、この際だから、ちょこっとこういうことについて話しておきますか。

たとえ「人を殺した」というとんでもない業績であっても、
彼らアメリカ軍のパイロットは、かつての旧日本軍のパイロットがそうであったように
敵機撃墜したことを称揚され、彼もまた軍人としてそれを生涯の誇りにするんですよ。

なぜなら彼らは軍人で、戦闘機パイロットなんですから。

広島に原子爆弾を落とした「エノラ・ゲイ」の機長が

「(あの結果を知っても)もしもう一度同じ命令を受けたら
わたしはもう一度原子爆弾を落とすだろう。
なぜならわたしは軍人だからだ」

と言ったのと同じことですね。

もちろんのこと原爆を落とされた日本人からすれば、とんでもなく許しがたい発言ですが、
東京空襲を敢行したドゥーリトルがいまだにアメリカ人にとっての英雄であるように、
あるい彼らが、日本の「撃墜王」、坂井三郎を「エース・サカイ」と呼んだように、
「なぜなら軍人だからだ」
というのがつまりこの問題における最終結論だと思います。

いったん戦争が始まってしまったら、ミグを一機でも多く「殺す」のも、
原子爆弾を投下するのも、すべて命令通りにするのが軍人というものです。

軍人として義務を果たすのは当然であり、その成果は称揚されるべきである。
さらに翻って、それでもし命を落としたものがいれば顕彰されるのは当然ではないですか。

戦争が間違っていたから、それを戦う軍人までもが間違っていた、などという理由で
戦死者の慰霊(たとえば靖国参拝)を反対する人種と、この
「戦果を称揚するなど不謹慎」とかいう人種って、ベクトルは同じですよね。
戦ったものたちの「遺志」や「業績」を認めようとしないという意味で。


こういうことを言うと「右寄り」なんていう人がいそうですけれども、

お断りしておきますがわたしは戦争は絶対に反対ですよ。絶対にね。
いかなる場合も、国際紛争の解決手段としての戦争は断じて選択するべきではありません。



さて、このF-8E、まだ「キャッチフレーズ」があります。
ヴォートという会社の営業戦略的観点からはこのように呼ばれていました。

"Vought's Last Chance"(ヴォート最後の頼みの綱)


ラストはラストでも、こちらは当初こんな背水の陣という意味のラストだったのです。
切羽詰まった感じを出すために「ラスト・チャンス」を「頼みの綱」としてみましたが、
このネーミングには、ヴォート社が先代のF7U「カットラス」(CUTLASS、長剣の意)
で、テスト飛行で4人、配備されてから21人もの殉職者をだし、安全性の点で
大失敗であったことが反映されているのです。

しかもF7Uはエンジンが弱く

「ヴォート社製のトースターの方がよっぽど熱が出せる」とか、

「カマキリ」(蟷螂の斧って感じですか)とか、

「CUTLASS(長剣)じゃなくてGUTSLESS (根性なし)」だとか、

特に最後の「誰がうまいこと言えと」感は半端ないのですが、
世界共通で口の悪いパイロットにはさんざんな評判だったので、ヴォート社としては文字通り
今回の新型機は「社運を賭けた戦闘機」だったというわけです。

社運を賭けた甲斐がありました。
この「クルセイダー」は、ヴォート社自身にとっても「救世軍」(誰がうま略)となったのですから。



実はハンガーデッキにも、「クレメンタイン」というネームのF8のノーズだけがありました。

これは、先日もお話しした「サンダウナーズ」ペイントを施されたレストアです。
フロリダのジャクソンビルで墜落したまま長年放置されていた機体を回収し、 
このホーネット上でボランティアの手によってこのように生まれ変わりました。

この機はサンダウナーとしてヴェトナム戦争に参加したものです。
ここにあった説明版にも誇らしげに

「ヴェトナム戦争では6機のミグ撃墜がクレジットされている」

「サンダウナーズのトニー・ナージ大尉は最後にミグを公式に撃墜した」

と書いてあります。
そして、



この星は、つまり撃墜したミグの数ですよね。
レストアしたボランティアが、ヴェトナム戦争でクルセイダーが公式に撃墜した18の星を
(実数は19機なので、もしかしたら最後の一機はなにか数のうちに入らない理由があるのかも)
わざわざ修復にあたって描きいれたというわけです。



F-8乗りのパイロット記章。

「F-8を降りた時が戦闘機を降りる時だ」
=「俺はF-8にしか乗らない」

かれらの気概と誇りが感じられます。