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 ユダヤ教の宗教的指導者「ラビ」の一人であったナザレのイエスは、信仰から外れ形骸化したユダヤ教の「律法主義」に異を唱え、弱者の救済を図る宗教活動を展開していきます。その活動が進むにしたがって、その使命に共感した人々が集まって来ました。そして、その中にはイエスと行動を共にする者たちが現れました。それが弟子たちです。イエスの最初の弟子たちは「漁師」であったようです。

 イエスは、ガリラヤ湖のほとりを歩いておられたとき、二人の兄弟、ペトロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレが、湖で網を打っているのを御覧になった。彼らは漁師だった。イエスは、「私について来なさい。人間をとる漁師にしよう」と言われた。二人はすぐに網を捨てて従った。そこから進んで、別の二人の兄弟、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネが、父親のゼベダイと一緒に、舟の中で網の手入れをしているのを御覧になると、彼らをお呼びになった。この二人もすぐに、舟と父親とを残してイエスに従った。 (マタイによる福音書4章18節~22節)

 キリスト教の聖典は、「旧約聖書(ヘブライ語聖書)」と「新約聖書(ギリシャ語聖書)」からなります。「旧約」、「新約」の「約」とは、「訳」ではなく、「神との契約」を指します。「旧約聖書」はユダヤ教の聖典でもあり、ユダヤ教では「タナハ(Tanakh)」と呼び、それは聖典を構成する「モーセ五書(Torah、トーラー)」、「預言書(Nevim、ネイビーム)」、「諸書(Ketubim、クトビーム)」の頭文字を繋いだものから来ています。「新約聖書」では「イエス」が「メシア(救世主、キリスト)」として登場します。それゆえ、イエスをメシアとは認めず、いまだメシアの出現を待ち続けるユダヤ教徒にとって、「新約聖書」は聖典ではありえません。

 その「新約聖書」には27の書が含まれ、イエスの生涯と言葉が書かれている「福音書」、初代キリスト教会の歴史が語られている「使徒言行録」、初代教会の指導者たちによって書かれた手紙である「書簡」、死者の復活、最後の審判、天国と地獄などを扱う「ヨハネの黙示録」からなっています。「福音書」は数ある福音書の中から「マタイによる福音書 (マタイ書、マタイ伝)」、「マルコによる福音書 (マルコ書、マルコ伝)」、「ルカによる福音書 (ルカ書、ルカ伝)」、「ヨハネによる福音書 (ヨハネ伝)」の4つが「正典」として選ばれています。その中でもっとも遅く成立したと考えられている「ヨハネによる福音書」によれば、ペテロが弟子になった経緯は他の3福音書(「共観福音書」)とは異なっています。イエスに洗礼を行った洗礼者ヨハネの弟子だったペテロの弟アンデレがペテロをイエスに会わせたことになっています。

 ヨハネは二人の弟子たちと一緒に立っていたが、イエスが歩いておられるのに目をとめて言った、「見よ、神の小羊」。そのふたりの弟子は、ヨハネがそう言うのを聞いて、イエスについて行った。イエスはふり向き、彼らがついてくるのを見て言われた、「なにか願いがあるのか」。彼らは言った、「ラビ、どこにお泊りなのですか」。イエスは彼らに言われた、「来てごらんなさい。そうしたらわかるだろう」。そこで彼らはついて行って、イエスの泊まっておられるところを見た。そして、その日はイエスのところに泊まった。時は午後四時ごろであった。ヨハネから聞いて、イエスについて行った二人のうち一人は、シモン・ペテロの兄弟アンデレであった。彼はまず自分の兄弟シモンにに出会って言った、「私たちはメシヤにいま出会った」。そしてシモンをイエスのもとに連れてきた。イエスは彼に目をとめて言われた、「あなたはヨハネの子シモンである。あなたをペテロと呼ぶことにする」。 (ヨハネによる福音書1章35節~42節)

 弱者の救済を目指すイエスにつき従った人たちの中には女性も多くいました。女性も社会的弱者だったのです。当時の農村社会では女性は家を離れて自由に動くことができなかったはずですが、宗教活動で多くの女性を引き連れて歩く集団はどのように見られたことでしょう。難が自分に降りかかるのを恐れて逃げ出した男性の弟子に代わって、イエスの磔刑、埋葬、復活のときにイエスのそばにいたのは、マグダラのマリア、ヤコブの母マリア、サロメなどでした。

 イタリアで宗教画をより深く鑑賞しようとすると、この女性たちに対する理解を深めておく必要があります。しかし、いまはまず「十二使徒」です。イエスにつき従った弟子のうち、イエスの宗教活動の志を継いで活動したことにより福音書に名を残すことになった十二人の高弟を「使徒(apostolo、apostle)」と呼びます。「アポストロ(apostolo)には「遣わされし者」という意味があるようです。

 イタリアは長靴のような形をしており、そのつま先にあたるのが「カラブリア州(Regione Calabria)」です。この州は西はティレニア海(Mar Tirreno)、東はイオニア海(Mar Ionio)に面していますが、長靴の裏にあたり、イオニア海に面したコムーネ(ここでは「村」)に「サンタンドレーア・アポストロ・デッロ・イオーニオ (Sant'Andrea Apostolo dello Ionio)」があります。「イオニアの使徒聖アンドレ」というような意味でしょうか。ペテロの弟アンデレ(イタリア語ではアンドレーア(Andrea)」はイオニア地方のあるギリシアと関係が深く、ギリシャ人がイエスに会いにきたときに、その間を仲介しています(ヨハネによる福音書12章22節)。また、ギリシアのアカイア地方でX字型の十字架で処刑され、殉教したと言われています。

 宗教画においてX字型の十字架(「聖アンデレ十字(croce di sant'Andrea、Saint Andrew's Cross)」)と共に描かれている聖人は「聖アンドレ」ということになります。青地に白のソールタイア(Saltire、斜め十字帯)を用いたセント・アンドリュー・クロスの国旗があります。聖アンデレを守護聖人(その地域を守っている聖人)とするスコットランドの国旗です。

 大阪府和泉市に「桃山学院大学」があります。英国聖公会宣教協会 (CMS) の宣教師「チャールズ・F・ワレン(Charles Frederick Warren)」が「神学教育」のために設立した教育施設が発展したものです。谷村新司、塚地武雅、なだぎ武、森脇健児などの出身校で、英名を“St. Andrew's University”と言います。この「桃山学院大学」の校章にも「セント・アンドリュー・クロス」を見ることができます。

 イエスは十二弟子を任命された。それは、彼らを身近に置き、また彼らを遣わして福音を宣べさせ、悪霊を追い出す権威を持たせるためであった。こうして、イエスは十二弟子を任命された。そして、シモンにはペテロという名をつけ、ゼベダイの子ヤコブとヤコブの兄弟ヨハネ、この二人にはボアネルゲ、すなわち、雷の子という名をつけられた。次に、アンデレ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの子ヤコブ、タダイ、熱心党員シモン、イスカリオテ・ユダ。このユダが、イエスを裏切ったのである。 (マルコによる福音書3章14節~19節)



 イタリア北部の「ヴェネト州(regione Veneto)」の都市「パドヴァ(Padova、Padua)」にはイエスの母マリアとイエスの生涯を扱ったジョットの描く連作壁画があります。「スクロヴェーニ礼拝堂」の四方の壁は壁画で埋まっています。右側の壁上部から始め、時計回りに3周して、背面の「聖霊降臨」で終わる全部で38場面から構成されています。場面27から場面30は、「ユダの裏切り」、「最後の晩餐」、「弟子の足を洗うイエス」、「ユダの接吻」と続きます。



 ユダはその動機がどこにあったかは分かりませんが、イエスを裏切って、イエスと弟子たちの秘密の祈りの場を密告します。正統ユダヤ教の祭司長や律法学者はこの異端のラビの布教活動に不快感を抱いており、ユダの密告を受けたとき、民衆を扇動しローマの支配を転覆させようとしている危険人物として逮捕するようローマ軍のエルサレム守備軍に要請します。

 「マタイによる福音書」によると、ユダは銀貨30枚の金目当てで祭司長たちにイエスの引き渡しを持ちかけたことになっています。「ヨハネによる福音書」によると、ユダが高価な香油をイエスに注いだベタニアのマリア(マルタの妹)を非難した(「なぜこの香油を300デナリオンで売って、貧しい人たちに施さなかったのか」)ところ、イエスに咎められた(「彼女のしたいようにさせなさい。彼女はそれをわたしの葬りの日のために取っておいたのだ。貧しい人たちはいつもあなたがたと一緒にいるが、わたしはいつも一緒にいるわけではない」)ことがきっかけであったします。

 グノーシス主義の異端の書とされた「ユダの福音書」によれば、「裏切り」はイエスが主導した(イエスは、「しようとしていることを、今すぐしなさい」と彼に言われた)ものであって、イエスを裏切ったはずのイスカリオテのユダが実はイエスの弟子の中の誰よりも真理を授かっていたとします。ジョットの「ユダの裏切り」はユダの背後にサタンが描かれています。



 ジョットの描く「最後の晩餐」です。最後の晩餐をレオナルド・ダ・ヴィンチで知った私たちにとって、ジョットの絵は平板に見えてしまいます。ダ・ヴィンチの絵には弟子それぞれにドラマが感じられますが、ジョットではイエスが中央に据えられてはいず、弟子それぞれの表情に大きな違いが感じられません。

(参考) 「レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐と小説「ダ・ヴィンチ・コード」



 食事のときは、足が汚れたままではエチケットに反したので、足を洗う必要がありました。家人や客の足を洗う役目は、裕福な家では下僕が受け持っていました。ルカによる福音書には、イエスが「パリサイ派(ファリサイ派、farisei、pharisees、ユダヤ教には、ファリサイ派、サドカイ派、エッセネ派、熱心党の4派があった)」の人の家に食事に招かれた際の記事があります。福音書に表れるファリサイ派は、イエスの揚げ足を取って、宗教界からの失脚を狙っています。そこにその町で罪深いと思われている女がイエスが、パリサイ人の家に食事に来ていると聞いて、香油の入った石膏の壷を持って会いにやって来ます(香油は当時高価なものでしたから、町の人から蔑まれてはいても裕福ではあったのかも知れません)。イエスを招いたパリサイ人は、これを見て、「イエスがもし預言者なら、自分に触っている女が誰で、どんな女であるか知っているはずだ。」とイエスを非難する恰好の材料を得たと心ひそかに思います。

 ところが、それを口にしなかったのに、イエスは言います。「この女を見ましたか。私がこの家に入って来たとき、あなたは足を洗う水をくれなかったが、この女は、涙で私の足を濡らし、髪の毛でぬぐってくれました。」「あなたの罪は赦されています。」 客人であるはずのイエスの足を洗うように下僕に命じなかったパリサイ派の人の不手際が露見します。

 イエスは、他の共観福音書には記述がないのですが、ヨハネによる福音書では晩餐に招いた主人、そしてその下僕の役として自分で弟子たちの足を洗い始めます。

 食事の席から立ち上がり、上着を脱ぎ、手拭いを取って腰に巻きつけ、それから、たらいに水を入れ、弟子たちの足を洗い、巻きつけた手拭いで拭き始められた。イエスはシモン・ペトロのところに来られる。ペトロはイエスに言う、「主よ、あなたが私の足を洗われるのですか」。イエスは答えて言われた、「私がしていることは、今あなたには分からない。しかし、後で分かるようになる」。ペトロが言う、「私の足など、決して洗わないでください」。イエスは彼に答えられた、「もし私があなたを洗わないならば、あなたは私と何の関わりもないのだ」。シモン・ペトロがイエスに言う、「主よ、足だけでなく、手も頭も」。イエスは彼に言われる、「すでに沐浴した者は洗う必要はなく、全身が清いのだ。あなたたちは清いのだ。」 (ヨハネによる福音書13章4節~11節から)

 ジョットは、スクロヴェーニ礼拝堂の連作壁画にこの出来事を取り上げています。宗教的指導者の謙虚な姿を描き、誇りも見栄も乗り越え、「本当の愛とは、目の前の人物に対して心から仕えることにある。」と壁画を見るものに感じさせる意図があったのでしょうか。



 ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する画家「ティントレット(Tintoretto)」も「弟子の足を洗うキリスト」(210cm×533cm、非常に横長、画像は右半分)を描きます。スペインのマドリードにある「プラド美術館」所蔵です。



 ティントレットは「最後の晩餐」も2点ほど描き、その1点はヴェネツィアの潟にある島の一つ、サン・ジョルジョ・マッジョーレにある「サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会(San Giorgio Maggiore)」にあります。



 ユダはイエスに接吻することで、誰がイエスであるのかをローマの兵士に教えます。ヨハネによる福音書では、ユダの接吻はなく、イエスは自ら名乗り出て逮捕されます。画面の左側では、ペテロがローマ兵士の一人の耳を切り落としている様子が描かれています。

 イエスがまだ話しておられると、十二人の一人であるユダがやって来た。祭司長たちや民の長老たちの遣わした大勢の群衆も、剣や棒を持って一緒に来た。イエスを裏切ろうとしていたユダは、「私が接吻するのが、その人だ。それを捕まえろ」と、前もって合図を決めていた。ユダはすぐイエスに近寄り、「先生、こんばんは」と言って接吻した。イエスは、「友よ、しようとしていることをするがよい」と言われた。すると人々は進み寄り、イエスに手をかけて捕らえた。そのとき、イエスと一緒にいた者の一人が、手を伸ばして剣を抜き、大祭司の手下に打ちかかって、片方の耳を切り落とした。そこで、イエスは言われた。「剣を鞘に納めなさい。剣を取る者は皆、剣で滅びる。私が父にお願いできないとでも思うのか。お願いすれば、父は十二軍団以上の天使を今すぐ送ってくださるであろう。しかしそれでは、必ずこうなると書かれている聖書の言葉がどうして実現されよう。」 (マルコによる福音書26章47節~54節)

               (この項 健人のパパ)

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