壁画の題材として扱うもので、最も多いのは「キリストの生涯」でしょう。そのキリストの生涯を壁画で一度に見ることができるのが、ヴェネツィアの西40kmほどのところにある都市「パドヴァ(Padova)」の「スクロヴェーニ礼拝堂(Cappella degli Scrovegni)」です。礼拝堂の壁は4段に分けられており、キリストの生涯がまるで紙芝居を見るが如く、時計回りに展開していきます。ジョット・ディ・ボンドーネ(Giotto di Bondone)の手になるフレスコ画で、38の場面から構成されます。
長方形をした礼拝堂に入って右側の長辺の壁の最上段から物語は始まります。「ヤコブの原福音書(Protovangelo di Giacomo、Protoevangelium of James)」(「原」とは「聖書」を構成する「正典福音書」に先行する物語を意味し、成立は「正典福音書」よりも半世紀ほど後の時代であると考えられている)に従って、まず、「イエス」を産む「マリア」の誕生の経緯が語られます。
(1)神殿から逐われるヨアキム、(2)羊飼いのもとに赴くヨアキム、(3)アンナへのお告げ、(4)ヨアキムへのお告げ、(5)ヨアキムの夢、(6)黄金門の再会(Incontro fra Gioacchino e Anna alla Porta d'Oro)、という6つの場面が右側の壁の最上段に左から右へと描かれます。
娘マリアを神殿に奉献するヨアキムとアンナの頭上とマリアの頭上にも「ニンブス」が描かれています。(7)マリアの誕生、(8)マリアの神殿奉献(Presentazione della Madonna al tempio)、(9)マリアの婿選び、(10)求婚者の祈り(I pretendentia Maria in preghiera)、(11)マリアの婚約、(12)マリアの帰宅、という6つの場面が左側の壁の最上段に左から右へと描かれます。
ユダヤ地区を統治していた「ヘロデ王」が幼児イエスを捜し出して殺そうとしていることを夢の中で知らされたヨセフは、幼な子イエスとマリアを連れて安全なエジプトへと向かいます。自分に代わって「イスラエルの王」となる者を放ってはおけないヘロデ王は、ベツレヘムとその周辺にいた2歳以下の男の子を、一人残らす殺させますが、すでにイエスは難を逃れていました。(16)イエスの誕生、(17)東方三博士の礼拝(L'Adorazione dei Magi)、(18)幼児イエスの神殿奉献、(19)家族のエジプト逃避、(20)幼児虐殺 は左側の壁の上から2段目で描かれます。