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 壁画は、キャンバスなどに描かれる絵画とは異なり、壁に直接描かれるので、移動することはできません。壁から外すことができないのですから、どのような絵画展でも、壁画の貸し出しを受けることはできません。そのため、この壁画という美術品を鑑賞するには、その壁画のあるところに足を運ばなければなりません。画集によって鑑賞することができないわけではありませんが、壁画はそのある環境とともに鑑賞しなくては充分とはいえないのです。建物の装飾の一部という意味も持っているのです。

 壁画には注文主がいます。注文主は壁画が描かれる建物の「主」でもあります。その注文主の意向に沿って壁画は制作され、ヨーロッパの中世での注文主の多くはキリスト教の教会でした。そのため、壁画の多くは「宗教画」です。宗教画を充分に鑑賞するには、その宗教に対する理解を深めなくてはなりません。壁画が描かれた当時、想定された鑑賞者はキリスト教の信者でしたから、聖書の理解を助けたことでしょう。しかし、キリスト教徒ではない私(日本において、キリスト教徒は100万人ほど、そのうち、カトリック教徒は40万人ほど)には、西欧の文化を理解する手段の一つとして学ばなければならないのです。



 壁画の題材として扱うもので、最も多いのは「キリストの生涯」でしょう。そのキリストの生涯を壁画で一度に見ることができるのが、ヴェネツィアの西40kmほどのところにある都市「パドヴァ(Padova)」の「スクロヴェーニ礼拝堂(Cappella degli Scrovegni)」です。礼拝堂の壁は4段に分けられており、キリストの生涯がまるで紙芝居を見るが如く、時計回りに展開していきます。ジョット・ディ・ボンドーネ(Giotto di Bondone)の手になるフレスコ画で、38の場面から構成されます。

 長方形をした礼拝堂に入って右側の長辺の壁の最上段から物語は始まります。「ヤコブの原福音書(Protovangelo di Giacomo、Protoevangelium of James)」(「原」とは「聖書」を構成する「正典福音書」に先行する物語を意味し、成立は「正典福音書」よりも半世紀ほど後の時代であると考えられている)に従って、まず、「イエス」を産む「マリア」の誕生の経緯が語られます。

 ヨアキム(Gioacchino、Joachim)とアンナ(Anna、Anne)はユダヤ教の信心深い夫婦でしたが、結婚して20年になるというのに、子供ができませんでした。2人は毎年エルサレム神殿への参拝を欠かしませんでしたが、「子孫を残す神への義務を怠っている、子供がないのは神の怒りの顕れであるから、捧げ物は許されない」と司祭に神殿を追い返されます。ヨアキムとアンナは深く悲しみ、夫ヨアキムは荒野で40日の断食をして、子供を授かることを祈り、授かった子供は神に捧げることを誓います。家に残された妻アンナも子が授かるよう祈ります。すると、それぞれに天使が現れて、祈りが聞き届けられたことを告げます。2人は黄金門という場所で再会し、子が授かったことを喜びます。



 神殿から困惑した表情で追い払われるヨアキムの頭上には、聖性などを表す「光輪(ニンブス、Nimbus、Halo)が描かれています。天使、使徒、聖人などの頭上に描かれるのは一時期の宗教画には「約束事」でした。制作された当時の鑑賞者(信者)は、これを見て「聖人」などであることを識別できたことでしょう。

 (1)神殿から逐われるヨアキム、(2)羊飼いのもとに赴くヨアキム、(3)アンナへのお告げ、(4)ヨアキムへのお告げ、(5)ヨアキムの夢、(6)黄金門の再会(Incontro fra Gioacchino e Anna alla Porta d'Oro)、という6つの場面が右側の壁の最上段に左から右へと描かれます。



 ヨアキムとアンナとの間に生まれた女の子マリアは、天使に約束した通り、3歳の時に、神殿に預けられます。マリアが16歳になると、天使の命じるところに従い、婿選びが行われます。マリアは、ヨセフ(Giuseppe、Joseph)に神殿から引き取られることになります。ヨセフの杖から、鳩が飛び出し、ヨセフの頭上に舞い降りたためでした(ヨセフの杖だけに花が咲いたためとする場合もあります)。

 娘マリアを神殿に奉献するヨアキムとアンナの頭上とマリアの頭上にも「ニンブス」が描かれています。(7)マリアの誕生、(8)マリアの神殿奉献(Presentazione della Madonna al tempio)、(9)マリアの婿選び、(10)求婚者の祈り(I pretendentia Maria in preghiera)、(11)マリアの婚約、(12)マリアの帰宅、という6つの場面が左側の壁の最上段に左から右へと描かれます。



 ヨセフと婚約した(結婚は1年後が予定され、それまでは清くいなければならない)マリアは、結婚前にイエスを身籠ります。神の使者「大天使ガブリエル(Arcangelo Gabriele、Arcangelo Gabriele Gabriel)」は、聖母「マリア(Maria、Mary)」に、父なる「神」より、神の子「イエス」を宿す聖なる器として選定され、受胎したことを告げたのです。

 マタイによる福音書やルカによる福音書より先に成立し、後続の福音書の基礎になったとされる「マルコによる福音書」では、イエスが30歳頃に洗礼者ヨハネからヨルダン川で洗礼を受けるところから書き始めています。「受胎告知」は、マタイによる福音書やルカによる福音書になって記述されます。



 レオナルド・ダ・ヴィンチの描く「受胎告知」です。フィレンツェの「ウフィツィ美術館」にあります。油彩で、1m×2mほどの大きさがあります(0.98m×2.17m)。控えめですが、「ニンブス」が2人の頭上にあります。



 フラ・アンジェリコ(Fra Angelico)は多くの「受胎告知」を描いていますが、そのひとつがサンタ・マリア・デレ・グラツィエ修道院の所蔵になる2m×2mほど(1.94m×1.94m)の大きさのテンペラ画です。フラ・アンジェリコの「受胎告知」では、「処女懐胎」を表すために「鳩」が描かれます。マリアの頭上のニンブスの更に上に描かれています。父と子と聖霊の「聖霊(Spirito Santo、Holy Spirit)」が鳩のような目に見える姿で現れているわけです。ヨセフの杖から出たのも「聖霊」でした。



 東方の博士(賢人)たち(Re Magi、Three Wise Men、メルキオール(Melchior)、バルタザール(Balthasar)、カスパール(Casper)の3人)は不思議な輝きを放つ星を目撃します。イエスがベツレヘム(Betlemme)で生まれたのでした。星は彼らを先導し、ついにイエスのいる所まで進んで行き、その上に留まります。博士たちは家に入り、イエスを見てひれ伏し拝みます。

 見よ、彼らが東方で見た星が、彼らより先に進んで、幼な子のいる所まで行き、その上にとどまった。彼らはその星を見て、非常な喜びに溢れた。そして、家に入って、母マリヤのそばにいる幼子に会い、ひれ伏して拝み、また、宝の箱をあけて、黄金・乳香・没薬などの贈り物を捧げた。 (マタイによる福音書)

 ユダヤ地区を統治していた「ヘロデ王」が幼児イエスを捜し出して殺そうとしていることを夢の中で知らされたヨセフは、幼な子イエスとマリアを連れて安全なエジプトへと向かいます。自分に代わって「イスラエルの王」となる者を放ってはおけないヘロデ王は、ベツレヘムとその周辺にいた2歳以下の男の子を、一人残らす殺させますが、すでにイエスは難を逃れていました。(16)イエスの誕生、(17)東方三博士の礼拝(L'Adorazione dei Magi)、(18)幼児イエスの神殿奉献、(19)家族のエジプト逃避、(20)幼児虐殺 は左側の壁の上から2段目で描かれます。

 ここまででおよそ半分の20場面です。残りは次回にしたいと思います。

               (この項 健人のパパ) 

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