映画の感想をざっくばらんに、パラパラ読めるよう綴っています。最近は映画だけでなく音楽などなど、心に印象に残ったことも。
パラパラ映画手帖
No957『チェチェンへ』~限りなくあたたかで、やわらかな男性性~
ソクーロフ監督の映画といえば、難解でついていけないのが常だったが、
これは違った。
孫を訪ねにおばあちゃんが、チェチェンのロシア軍基地に、
赴任中の孫に会いにいく。
軍用列車のような、貨物のコンテナに乗り込む。
踏み台の階段もなく、大柄なおばあちゃんの身体を
若い兵士たちが何人かで持ち上げる。
おばあちゃんが、列車を降りたり、乗り物に乗ったりするたびに
まわり中の青年たちが助ける。
この感じがとてもすてきだった。
おばあちゃんが、やがて会う孫を想いながら
駅のあちこちにいる青年兵士たちの姿を眺める感じがいい。
そして、今度、若い兵士ばかりがいる基地に着いた時
おばあちゃんは、どの青年たちからも、
何かと気遣われ、心配されるおばあちゃんでありつつ、
母でもあり、少女のようでもある、そんな魅力的な存在となる。
夜、やっとのことで、着いた基地。
小さなベッド。
目覚めると、うるさいエンジン音。まぶしいばかりの光。
太陽の光で明るすぎる部屋で、ばあちゃんは、同じ部屋のベッドに
寝ている孫の青年を見つける。
腕にはタトゥー、足は傷だらけ、ごつい身体の青年が、
起き上がるなり、「おばあちゃん」と言って
うれしそうにひしと抱き合う。この笑顔がいい。
なんといってもすばらしいのが、
この孫の青年とおばあちゃんとが一緒に過ごした最後の晩。
おばあちゃんの長い髪を三つあみにあんであげる青年。
おばあちゃんが「男性って、時々、いい香りがする時があるのよ」と言う。
観ていて、こんなにやさしくて、あたたかみのある男性っているのだろうかと思った。
同じくらい、こんなにあったかくて、やさしい女性っているのだろうかとも。
青年の、あたたかく包み込むような包容力のある男性性と
おばあちゃんの、まるで少女のような、やさしく、素直な女性性とが
淡い画面の中で、溶け合うようにみえて、
本当にすばらしく、いつまでも見つめていたいような場面。
映画の中で、こんなにすてきな男性性をもった若者のシーンを観たのは
一体、いつ以来だろう。
ラスト、軍服に身を固めた孫を見送るおばあちゃんの
「嫁を見つけてあげるよ」という言葉に、「頼りにしてるよ」とにっこり見せる笑顔と
隊長として、部下の兵隊たちに見せるきりりとした厳しい顔つきとの違い。
おばあちゃんは列車に乗って帰途につく。
そのとき、やっぱりまわりの若者が手伝う。
カメラは、列車に乗ったおばあちゃん越しに、
加速していく風景を映す。
おばあちゃんの後姿は、なんだかとってもさびしく、
こちらまで涙がでてくる。
カメラはゆっくりばあちゃんの少し疲れた顔を映して終わる。
ほんとうにいい映画だった。
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