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No1119-2『天国の門』~今、駆け付けたい映画。30年前の評価を超えて~

 「空前の駄作・失敗作」とされたそうな。
1980年公開当時の評価によれば…。
「轟々たる非難のすえに息の根を止められた」とある。
つくづく、ひどいなあと思う。

キネマ旬報11月下旬号掲載の
渡部幻さんによる「マイケル・チミノ本」書評には、

「映画は『時代の子』であり『環境の子』でもあるが、
ときにその『試練に耐える』作品が出てくる。
『天国の門』はどうか?
いま、あらためて真価と運命の問い直しが進んでいる」
とある。
渡部さん自身、この映画をこどもの時、劇場で観たそうだ。

「とてつもなく巨大な映像に呑み込まれて恍惚となった。
まだ十一歳のころだった。
子供にとって『映像』は、
意味や理屈を超えた『超感覚の装置』である。
それは『禁断の劇薬』であり、一つの鮮烈な『経験』とも成り得る。
チミノの視覚的・空間的な造形力によってもたらされた、
あの陶酔感は大人になったいま、あらためて観ても変わらない。」

やっぱり、それぐらい凄い映画だったんです。
当時の評価がどうあろうと。

とはいえ、気になるので、当時の日本での映画評を一つ調べてみた。
古本屋で見つけた
「荻昌弘のシネマ・ライブラリー」(文芸春秋 1988年12月15日第1刷)。
これは、荻さんが「オール読物」に25年間連載しつづけた
「シネ・マンスリー」を集大成した本で
「映画の宣伝文を引用して、
しゃれのめしながら作品の本音に迫る独特の語り口」で書かれている。

以下は、同書からの引用です。
『』は、映画{配給)会社の宣伝文句。

「『映画史上空前の論争を呼んだモニュメント大作―――!』
トハ、その悪評を婉曲に中和。
『風と共に消えた愛と哀しみの叙事詩―――』
トハ、語るに落ちた率直な本音
『3600ドルで歴史がつくられた!?』
トハ、ややヤケのヤンパチな開き直り!?

そんなに評判わるければ、却って、観に行きたい気持起こすのも、
当然の御人情です。(略)
90年前、ワイオミングの金持ち牧場主が
貧乏移民をいじめた実話に大ゲサな色つけて、
人民大蹶起(決起)活劇を誇張膨張で脚色。
イイのは売笑婦と牛泥棒、
ワルいのは大統領と騎兵隊と大ブルジョワ、
みたいな金切声を張り上げたところ、
これが10年前、ヒッピー全盛時ならイザ知らず、
強いアメリカへ復古一途の御時世ときちゃァ、
見物は国民感情サカなで、
オールしらけでサヨナラサヨナラ。(略)
では全く酷評通りツマラン映画か。
イーヤ、これより箸にも棒にもかからず、
手もつけられん愚作の西部劇はゴマンとあったゾ。」

荻さんは、こう書いて、この作品に82点をつけておられました。
この点数は、他の作品と比べても、ほとんど遜色ないものでした。

悪評のゆえんについて、詳しくは、
「マイケル・チミノ読本」(遠山純生編・著)(2013年10月発売)を
読まないといけませんが、
当時、そこまで呪われた作品を
30年の歳月を経て、完全版として復活させた
監督、映画関係者たちの“熱き魂”を思います。

黒澤明監督が生きていたら、きっと狂喜したのでは、と思うような
ラストの、怒涛の大活劇。
庶民(移民)対 国家権力を味方につけた大牧場主(資本家)。
ローマの戦法か、と敵将をつぶやかせた、移民たちの丸太の荷車のすごさ。
四方八方から囲んで、攻め落とそうとする。

映画として、こんなにおもしろい仕掛けに満ちているのに、
どうして、ここまでこき下ろされたのか。
映画に誇張はつきものなのに。

この30年前の、呪いのような評価をうのみにして、
今、どうして映画館へ駆けつけないのか、
日本の映画関係マスコミの沈黙が、悲しい。

そうして、日本で上映がスルーされそうなのを危惧した
boid社代表の樋口さんが、
膨大な資金を投入して、この映画を買い付けた。
上映してくれる映画館にしても、
3時間半の大作となると、1日の上映回数も限られるし、
「駄作」とレッテルを貼られた作品で、
興業的にも厳しいことがわかっての、大英断。

動と静の、ひりひりするほどの対比。
冒頭、ハーバード大学の卒業式。
夢を抱いて巣立つ若者たち。
壮大な舞踏会の迫力。
くるくる回り踊り続けるカップルたち。
開巻からすごい迫力に圧倒される。

夢を抱いて旅だった前途有望な青年たち。
ひとりは、牧場主の中で孤立し、飲んだくれになる。
ひとりは、保安官として着任し、移民たちから信頼されながらも、
土壇場で、
町に残って移民たちとともに戦うか、町を去るか、決断に迫られる。

線路だけが、もともとあったところに、
線路を囲んで、街全体をセットとして、つくってしまったという凄さ。
エキストラの数は数千人、馬や牛も数百頭と
ただもうそのすごさに圧倒される。
この過剰さが、実際に映像のすごさとして
画面に結実していると、私は感じた。

ぜひ、この映画、多くの人に観てもらい、ご自分の眼で確かめてほしい。
空前絶後の駄作なのか、傑作なのか。
この映画に込められたつくり手たちの熱い魂に、ぜひスクリーンで触れてほしいと
心から願わずにはいられない。

前回まとめた感想です。よろしければ)

関西では、今週金曜までシネマート心斎橋にて。
12月には、神戸新開地のKAVC、京都では新春、京都シネマにて上映です。

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