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No1187『離婚』~主役はもちろん脇役が皆すてきで、ドラマが活きてる~

監督マキノ雅弘、脚本小國英雄の1952年の作品。
メロドラマですが、
これがまた脇役が皆すてきで、よかった。

映画は荒れる雪山で始まる。
木暮実千代は、従兄の田崎潤と一緒に遭難し、
なんとか山小屋にたどりつく。
凍えていると、
見知らぬスキーヤー(佐分利信)がやってきて、
一緒に山小屋で避難する、
仏頂面で、つっけんどんだけど、食べ物をくれたり、
根は優しい。

木暮は、山小屋で、凍死寸前になるが、
佐分利のアドバイスで、田崎にあたためてもらい、
一命をとりとめる。
しかし、そのことが、スキャンダルとなり
離婚の危機に。
というのも、木暮の嫁ぎ先は、
名門女子学院の経営者。
不貞がなかったことを証明してもらうため、
木暮は、佐分利の行方を探すが・・。

江川宇禮雄が、木暮の兄で医者を演じる。
温厚でしっかり者のすてきなお兄さん。
遭難した妹の救援に山へ向かおうと
嫁ぎ先の家に行くと、
家族が誰も行かないのに、
親戚が行くのかと、止められる。
「では、親戚なので、行くのは諦めますが、
私は医者だから、医者として患者を助けにいくのなら、
あなた方にも、止められないでしょう。
医者は、もし死んでいたとしても、行くんですよ」
とたんかを切る。

兄が山へ行こうと列車に乗り込むと、
斎藤達雄 に会う。

斎藤達雄は、田崎潤が住む下宿屋の親父。
田崎が遭難したと聞いて、
下宿中が騒動になり、
「このリュックは、
下宿のばあやも仲間も、
皆からの心のこもった差し入れの品で
いっぱいなんです」と、
嬉しそうにパンパンに詰めこまれたリュックを見せる。

下宿のあったかい空気と、
木暮の嫁ぎ先の
嫁が遭難したというのに家の名に傷がつくのを心配するかのような冷たい空気とが
対照的に描かれる。

木暮が、山から無事で帰った時も、
夫の田中春男をはじめ、
義母の英百合子も誰も何も言わない。
むしろ、山小屋で、従兄と不貞をしたとして
離縁を言い渡される。
嫁ぎ先を追い出された木暮は、田崎の下宿屋に
厄介になる。

斎藤達雄が、下宿屋の連中をあつめて、
田崎の無事を祝う宴席を設ける。
「おめでとう」と言うと、同席していた木暮が涙ぐむ。
「私、遭難して、こちらに戻ってから
おめでとうと言われたのは初めてです・・」
木暮が、いかに嫁ぎ先でつらい日々を送ってきたかが伝わる。
田崎が、遭難した山から下宿屋に帰るなり、
「おめでとう」の言葉で、下宿中の皆に囲まれ、
もみくちゃにされたのとは大違い。

湿っぽくなった座を盛り上げようとするのが斎藤。
「さあ、皆、食べよう」と声をかける。
とてもすてきな存在。
斎藤の妻を演じるのが飯田蝶子さんで、
またまた味があってよい。

佐分利信はといえば、牧場を営んでいる。
使用人のおばちゃんが、
「いつか白い白いきれいなお嫁さんを山から連れて帰るんだ」と
佐分利が言っていた、と語る。

今回、山から帰った佐分利が、おばちゃんに
「見つけたよ。
でも、他の奴に連れ帰られちゃった」と耳打ちする。
佐分利が歩き去っていくなり、
牧場で働く他の若者たちが、
皆、佐分利の嫁の来手を心配してか、
興味深そうに、おばちゃんのまわりに
聴き集まってくるあたりもいい。

このおばちゃんも、とてもすてきな存在。

離婚が決定的になり、独り身になって、
沼津の兄夫婦にお世話になっていた木暮が、
兄に薦められて
牧場に佐分利を訪ねていくと
「あいにく、お留守です」
「牧場主は、ちょっと変わった、人嫌いな人なので、
何かあると、
山と話に行ってくると言って、山に行ってしまうんです」と言う。
「そうなの、私も山と話したい、山に行ってみようかしら」と
木暮も山に行くことになる。

このおばちゃんが、2人を結びつけることになる。

映画がどう終わるか、
牧場で会うのかと思いきや、
二人が再会するのは、遭難したあの山。

実は、兄と佐分利は友達で、
木暮は、嫁ぐ前にも、
兄に紹介されて、この牧場を訪ねていて、
その時も、佐分利が留守だったということが語られる。

留守、つまり、すれ違いは、2回繰り返されたという妙。
だからこそ、雪山での再会がまぶしく、心に迫る。

雪山にかっこよく、スキー姿で現れた木暮さん。
男の叫ぶ声が遠くで聞こえ、それが佐分利。

「『山よ』と呼べば、山は『山よ』と答える。
でも、俺は、『大介』と誰かに呼んでほしいんだ」と、
山相手にひとり言を言う佐分利。(役名は佐久間大介)
連れ合いを求める孤独な男、とでもいおうか。

佐分利が、昭和30年代の山スキースタイルなので、
少しもたっとしたスキー服で
あまりかっこよくはないけど、逆にそれがいい。

木暮がいきなり目前に現れても、佐分利の仏頂面は変わらない。
「ここは君のような人が来るところではない」と
強がりを言ったものの、
木暮が去ると、その後をしっかり追いかけていく。

天候が悪くなり、再び、冒頭と同じ山小屋に二人・・。

かつて、雨の降る日の喫茶店で偶然再会し、
木暮は、佐分利に、自分の不貞を証言してもらうべく、
佐分利を義母の下に連れていく。
(喫茶店で木暮が証言を懇願するシーンは、
店の外からガラス越しにとらえられていて
会話を描かないところが、心憎い演出)

ところが、佐分利は、証言するどころか、
夫の田中春男に対し、
妻を愛しているなら、君は妻を信じ、守るべきだったのに
そうしなかった理由は、まったく理解できないと言って、
帰ってしまう。滔々と述べる佐分利の説教も見事。

このとき証言しなかったことについて、
山小屋で、木暮に問いつめられ、
佐分利は、
「僕は君をあの家からひっぺがしたかったんだ」
と告白する。

木暮は兄から預かった佐分利への手紙を持ってきていて、
佐分利が読み始める。
一枚読むと、木暮に、無造作に渡し、順に読みおわるごとに手渡す。
妹を、友達の佐分利に託したいという文面が読まれる。
3枚目まで読み終わって、佐分利が、うれしそうに笑う。
この笑うという演出が、またなんとも意外だけれど、
どこかすてきで、たまらない。

映画は、山小屋の外にそっと出て、
外に立てかけた、スキーが2脚あるのをうつして
「終」

その後、佐分利が木暮を連れて牧場に帰って、
皆にあたたかく迎えられる光景は、
観客の心の中で、それぞれに想像されるというわけ。

映画はこうでなきゃ、と思う。

映画の最後の方で、
木暮の兄が、佐分利にあてて手紙を書くシーンもいい。
まず、便箋の上を走る万年筆を映し、
続いて書斎で机に向かう兄の姿が映る。
この手紙の文面が、2度繰り返されるが、
離縁された妹を親友に託そうとする兄の真摯な思いが伝わって
とてもいい手紙。

憎まれ役の、木暮の義母の英は、
学園の存続のために、資産家の娘を新しく嫁にもらう。
その娘が生意気で、偉そうで、
その様子を壁越しに聞いて
「私は、まったく憎くもない者をこの家から追い出しました。
それも、この学園の存続のために」
と淡々と弟の杉狂児に言う。
この一言で、
義母が木暮の不貞を本気で信じていたわけでないことがわかる。
義母は義母なりに抱えていた事情・・。

離婚した木暮が田崎と一緒に、凍てついた木々の間を散歩するシーンもいい。
木暮が、結婚したいと打ち明ける。
もともと、田崎とは、小さい頃からのつきあいで
海で溺れかけたところを救ってもらい、
今回の雪山でも助けられた。

田崎は、
「凍死しそうな木暮を自分の肌であたためながら、
僕は、君の代わりに死んでもいいくらいに
君のことが好きだ、愛してる、と思った。
でも、それと同時に、
僕は、男性としての気持ちが君に対して、
まるでわいてこなかった」と打ち明ける。
君とは結婚できない、
男女ではなく、友情だと告白する。
このときの、木暮さんのとてもきれいな横顔。

もう一人書きたかった人は、
木暮の兄、江川宇禮雄の妻。
朝方、木暮がなかなか起きてこないと心配する二人。
ちゃぶ台で、朝ごはんを用意する奥さんのすてきなこと。
私も、こういう優しくてすてきな奥さんと
ちゃぶ台がほしいと思った!?

名台詞がいっぱい、名脇役がいっぱい。

感想は以上です。
いい映画を観ると爆走してしまう。
ひたすら、好きなシーンについて、書かずにはいられなくなる。

映画の帰り道、ゲリラ豪雨にあった。
駅でぽつぽつ降り出した雨は、
3分も歩かないうちに、大粒の豪雨となり、
道は、たちまち水たまりだらけというか、濁流となり、
今日、おろしたばかりの夏のスカートはずぶぬれに、
日傘は、たちまち、雨漏りしてきた。
本当に、数分の出来事。

あまりの急変は怖いぐらいで、びっくりした。
仕方なく、途中の団地の下で、雨宿り。
そういう人が結構、何人かいて、
あと5分早かったら、時間が無駄だと、
おっちゃんがぼやいていた。

でも、雨というのが、こんなにも一瞬で表情を変えて、
激しく降るのを見たのは、初めてで、貴重な体験になった。
天気予報の大雨警報も、たかをくくって見ていたけれど、納得。

マキノの映画の中の猛吹雪とともに、
忘れられない思い出として、しまっておこう。

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