日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“ジョブズ後”到来を伝える新iPhoneとわずかに残るソニー逆転の目

2014-09-26 | マーケティング
iPhone6と6plusが出されて一週間、私もようやく実物を手にとって見てまいりました。いろいろなところで書かれているので今更ですが、サイズと操作性の問題、カメラレンズ突出の美観問題、薄さに関連した折れ曲がり問題等々、ジョブズだったらやらなかっただろうと思わせる部分が多く、個人的には現時点では「すぐに欲しい端末ではない」という結論に達しています。

iPhoneに関しては、その内部部品を作っていた会社様をお手伝いしていた関係で、古くからその発展の過程を1ユーザーとして以上に濃い目の情報と共に見てきていただけに、この違和感はなおさらです。実はiPhone5が出た時にも、確かに画面は見やすくなったけど美的にどうなのかという違和感はありました。少なくともiPhoneに関し、美的感覚において違和感を感じたのは5が初めてだったかなと。ジョブズ休職後の初企画です。企画時点では存命ではありましたが、関わり方の違いが形に現れたと私には感じられました。

逆にその前の4が出た時には感動が大きかったので、その反動はなおさらだったのです。4の感動は機能ではなくそのスタイリッシュな外観でした。3GSに比べた薄さと、単に薄くなっただけでないエッヂの立ったソリッドな横顔の美しさも衝撃でした(このソリッドな横顔も、今回捨てられてしまいました)。この外観を嬉しそうにリリースしたジョブズの顔を見た時に、3GSまでのiPod touchと比べボテっとしてややスマートさに欠ける外観を、ジョブズは気に入らなかったのだなと確信しました。

私がお手伝いをしていたiPhone部品メーカーに対して出されていたオーダーも、とにかくスマートにするため、内部も含めて美しくするため、こうしろああしろという無理難題の連続で、毎度社長が頭を抱えていたのを思い出します。アップル社に対して、「要求が高すぎるのでもう少しなんとかならないか」と折衝しようものなら、二言目には「トップ意向なので我々にはなんともできない」「ダメなら降りてもらう」という、まさにジョブズの美的感覚にもとずく理想追求を第一とした製品規格を貫いていたという印象でした。

その意味から言えば、iPhoneの最高傑作は4ではないのかと。ジョブズが直接指揮を執りスタイル、美観を彼の価値感に沿って2010年時点の技術力で追求し続けた結実がそこにあったと言えるでしょう。それに対して5がリリースされた時の違和感は、「画面が大きくなって便利かもしれないけど、美的にどうよ」というものだったと思います。その意味では、今回の6や6plusは言わずもがな、です。

衰えることのないiPhone人気の理由が、登場当初の“元祖”としての技術的驚きがその根底にあることは確かですが、その後の他の追随を許さぬ人気ぶりとブランド力を守ってきているものは、間違いなくジョブズの人並み外れた美的感覚に裏打ちされた製品デザインにあると思っています。なぜなら、後発のスマートフォンが操作性や技術面で見劣りしているかと言えば、決してそうではないからです(他にない機能がiPhoneにあるから、iPhoneを選んだと言う声はほとんど聞かれないのです)。むしろ、金融決済機能(いわゆるお財布携帯)やテレビ受信機能などは日本製が先行していたぐらいですから。

こういった流れの背景にあるのは、スマホの技術的飽和状態による製品の嗜好品化です。製品が嗜好品化すれば、消費者の製品選択軸は価格選好とデザイン選好に二極化し、ジョブズはデザイン軸を制したわけです。

このような流れで考えiPhone人気の大半はジョブズの美的感覚に負っているとの前程の下、いよいよアップルは本当に曲がり角に来たなと、今回のiPhone6と6plusを見て実感しました。iPhoneが他社製品に比べて、小さい画面で来たのにはそれなり理由があったはず。だからこそジョブズは、大きな画面で見たい人用にiPadを用意したのではなかったのでしょうか。

今回の大型化やカメラレンズ突出や折れ曲がりリスクを負ってまでの薄型化には、ジョブズが作り上げた人々をひきつけるマジカルな製品コンセプが消え去っていくのを感じざるを得ないのです。

アップルが曲がり角に来ているなら、高級機分野は他社にも逆転の目はあるかもしれません。デザイン力で圧倒的に劣るサムスンはともかく、ソニーにはわずかな希望の灯が見えたかもしれません。最近話題になっているスマホ事業におけるソニーの大苦戦は、もともとジョブズのマジックに太刀打ちできなかったことに最大の理由があると見ているからです。

今のソニースマホ事業は、デザイン選好の高級機で勝てず、発展途上国向けの価格選好の廉価版スマホではアジア勢力にしてやられるあり様。しかしiPhone6、6plusの登場で、ソニーがデザイン選好の高級機にスマホ事業の全精力をつぎ込んでデザイン開発に特化するなら、“ジョブス後”アップル相手ならば撃破するチャンスが巡ってきたかもしれない、と淡い期待を抱かせます。ソニーは、ジョブズが手本にした技術をベースにデザインでブランドを構築してきた企業です。出井時代に廃止されたあのデザイン会議を復活させ、ジョブズの製品コンセプトを研究し尽くすなら復活の目もあるのではないか。今のソニーでは難しいかもしれませんが、個人的には密かに期待したいところです。

“ジョブズ後”を明確に感じさせるiPhone6と6plusの登場により、嗜好品になりつつあるスマホ分野は、今後どこがデザイン面で優位に立ちブランド力を高め新たな勝ち組に名乗りを上げるのか。スマホ戦争は今後、新たな局面を迎えるのではないかと見ています。