アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

北大開示文書研究会より、アイヌ政策推進会議への要望書

2012-09-07 20:51:02 | インポート
吉田邦彦さん著『アイヌ民族の先住補償問題』(2012/08/04自由学校遊発行)の内容を、自分なりに解釈して少しずつ紹介させていただいていますが、その後は、

3.近時の民法的諸問題その1-とくに共有財産返還問題
4.近時の民法的諸問題その2-環境問題
5.近時の民法的諸問題その3-差別・観光アイヌの問題など
6.「補償」の観点からの再検討・再構成
7.終わりに-アイヌ政策の展開の立法プロセスの問題と将来の課題


と、続きます。その中で、わたしが印象に残った部分は以下のところ。

「博物館的箱モノづくり的なイオル建設には、補償的意味があるとも思われない。また保障的な土地返還ならば、返還先の自主的な利用方法の自己決定が重視されるから、それに関して、上からないし外から博物館的に「用途指定」するということも起こりえない。(P.54)
と指摘し、現在進行中のイオル構想については、榎森進教授の以下の言葉を引用しています。
「現在のアイヌ民族の生活に資する昨日を持たせなければならない」「これでは、アイヌ民族の伝統文化を伝承し、『再生』するための単なる『野外博物館』と言っても過言ではないだろう」「アイヌ民族にとって、どれだけ役に立つものなのか、大きな疑問を抱かざるを得ない」「この『イオル』の『再生』事業をよりアイヌ民族に有利で、アイヌ民族の生産・生活基盤を保障する性格を有したものへ変えていく」(P.54)
必要がある、と。

個人的に伺いたいアイヌ民族の遺骨・副葬品盗掘に関する件については、返還し、慰謝料賠償がなされるべきで、アメリカの「原住アメリカ人の墳墓保護及び遺骨帰還法」(Native American Graves Protection and Repatriation Act 1990年)を参考にすべきだ、と。同法律によると、各大学博物館等に収蔵されている全住民族の遺骨類については、遺族がわかる限りは返還するべきだというもので、その手続きを行わない研究機関などは、連邦政府の補助を受けられないという、間接的な圧力が課せられるとのこと。
この法でいけば、北大のやっていることは大問題ですね。


ソフトバンクCMお父さんはアイヌ犬であることを皆さんはご存知でしょう。その息子さん「空くん」は白老のポロト・コタンにいます。最近の報道でパートナーが見つかったとのこと。上手ではないですが写真をUP。


さて、北大開示文書研究会が本日、アイヌ政策推進会議へ二度目の要望書を送りました。
全文はブログ「さまよえる遺骨たち」に掲載されていますのでご覧ください。
http://hokudai-monjyo.cocolog-nifty.com/blog/
主要内容は以下です。

2.アイヌ民族の先住権に伴う法的措置へ向けて
この度は、第4回アイヌ政策推進会議、および、第8回「政策推進作業部会」議事概要より、今後の進行について要望いたします。
一年ぶりに開催された第4回アイヌ政策推進会議の議事概要にも記されている通り、「国会決議から4年が過ぎる中で、総理が替わり、官房長官が替わり、大臣が替わり、事務方が替わり、4年前の熱い思いが冷めたとは言わないが、心配している」(2頁)との思いをわたし達も抱いています。
2008年6月6日、衆参両議院にて「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が、全会一致をもって可決されました。この決議は、その前年の2007年9月に、国連において「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(以下、国連宣言)が、日本も賛成する中で採択されたことを受け、「その趣旨を体して具体的な行動をとることが、国連人権条約監視機関から我が国に求められている」(決議文)ことであり、政府が早急に講ずるべき施策として、国連宣言を踏まえ、「アイヌの人々を日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教や文化の独自性を有する先住民族として認めること」、および、国連宣言が採択されたことを機に、「同宣言における関連条項を参照しつつ、高いレベルで有識者の意見を聴きながら、これまでのアイヌ政策を更に推進し、総合的な施策の確立に取り組むこと」(決議文)を求めています。
また、「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」第2回会議(2008年9月17日)において、加藤 忠ウタリ協会(当時)理事長のヒアリングでは、権利回復のために立法処置による施策を行うこと、国連権利宣言に照らして権利回復を行なうことを国の責任で行なうよう要望したことが記録されています。
 しかし、その後のアイヌ政策推進会議、各作業部会の議事概要を読みながら、「アイヌ民族との共生象徴空間」構想のみがひとり歩きし、国連宣言に謳われている基本的な先住民族の権利である先住権に関しては一切話し合われてはいないことに疑問を感じざるを得ません。先住民族アイヌの先住権を回復するために、国は尽力するべきです。
 先住権に伴う法的措置をしっかりと論議し、実行へと結びつけることが「国連宣言の趣旨を体して具体的な行動をとること」になるのではないでしょうか。以上の件についてどのようにお考えかお答え下さい。 

3.アイヌ人骨返還について
昨年の6月に出された 『「民族共生の象徴となる空間」作業部会報告書』において、「各大学等に保管されているアイヌの人骨について、遺族等への返還が可能なものについては、各大学等において返還する」(P.8)とあります。
また、第8回「政策推進作業部会」議事概要の議題2の「今後検討を深めなければならない課題」の中に「アイヌの人骨に係る検討」とあり、以下の記述があります。
「大学等における人骨の保管状況などの調査と並行して、政府において、調査後の人骨の返還に向けた進め方の検討を速やかに進めるとともに、尊厳ある慰霊が可能となるように、関係者の理解を得ながら、人骨の集約施設の在り方、慰霊への配慮の在り方、研究との関係などを検討・整理する必要があるとしている。」(6頁)
 これらの記述に関し、二つの疑問を感じます。
ひとつは、さる、2011年12月2日付で、国立大学法人北海道大学佐伯浩総長宛に、同大学によって発掘・収集し研究資料として活用した「アイヌ人骨及び副葬品」について、そのご遺族である三名が返還と謝罪の申入れをしました。しかし、北海道大学側はたいへん不誠実な態度をとり、その申入れを拒否しました。遺骨を返還すると述べているにも関わらず、具体的に返せという遺族に応じないのは大問題です。ご遺族は怒りと悲しみの中で、法的手段に訴えようと準備を進めています。
このような閉鎖的な対応をしている大学に、遺骨の返還をまかせようとするアイヌ政策推進会議の姿勢も問題であると考えます。この問題は北海道大学のみのものではありません。北海道大学以外の旧帝国大学などにも人骨が収蔵されてきました。アイヌ墓地発掘は明治政府の北海道「開拓」と植民地政策に伴うアイヌ民族へのレイシズムがもたらしたものであり、アイヌ民族の伝統的追悼儀礼を無視した非人道的な発掘の記憶は今日もアイヌの人々の深い傷となって残されております。日本政府は政府の責任においてアイヌ人骨問題の歴史的経緯を検証し、その歴史的責任を自覚し、遺骨の収集と今日までの処置に関して、アイヌの人々の意に反して収集した過去を反省し、アイヌ民族への謝罪がなされるべきです。そして、北海道大学のこのような不誠実に対し、早急な対応をするべきです。以上についてのお考えを聞かせて下さい。

4.研究優先への疑問
第二点に、上の記述にもあるように、ご遺骨の慰霊と共に、常に研究がついていることに疑問を感じます。過去の歴史が示すように、アイヌ民族は研究対象とされ、屈辱を受け続けてきました。今後もさらなる研究対象として屈辱を受けることに危惧を覚え、わたしたちは反対します。遺骨はご遺体の一部であり、故人の特定がなされようがなされまいが、ご遺族が特定しようがされまいが、ご遺体であり続けるものです。それを「物」あつかいにし、一方的に研究対象にすることは問題だと考えます。北海道大学を含め、現在、文科省において、大学等におけるアイヌ民族の人骨の保管状況等の調査を進めていますが、保管されているすべての遺骨の研究の中止を求めます。過去の反省と謝罪がなされ、和解があって、はじめて合意のもとで研究が再開されるべきです。アイヌ政策推進会議としてどのようにお考えかを聞かせて下さい。

5.副葬品の調査と返還について
さらに、アイヌ墓地発掘に伴って膨大な副葬品が出土しました。しかし、それらの多くが行方不明になっていることは周知の事実です。しかし、今までこのことは、他はもちろん、アイヌ政策推進会議においてさえ、何の議論にもなっていません。これらは大学の管理責任にとどまらず、アイヌ民族の財産を散逸させた責任が具体的に問われることになりましょう。人骨問題の解決には副葬品問題の解決も不可欠であると考えます。遺骨返還に伴い、早急な調査と返還を望みます。
以上、先住民族であるアイヌ民族への日本政府およびアイヌ政策推進会議の真摯な対応を強く要請し、応答を求めます。   




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