アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

学者の役割

2011-07-29 08:44:46 | インポート
6月16日blogにて山田伸一さんのことを書きましたが、間違っていたので訂正しました。「町史」は別の話で、旅先に持っていかれたのは内容も分量も手頃な吉川弘文館刊行の「街道の日本史」シリーズのうちの、その地域に関連する一冊を携えて行って読むようにしているとのこと。失礼しました。

いつも情報をくださるwakkaさんから、今回もメディア情報を頂きました。
霧の摩周湖に現れる滝霧の生まれるところは、なんとはるか500キロ離れた太平洋三陸沖だと!
NHKスペシャル「幻の霧~摩周湖 神秘の夏~」7月31日午後9時放送
http://www.nhk.or.jp/special/onair/110731.html



このblogでもよく紹介する小野有五さん(今年で北大大学院教授を辞されたと伺っている)の、「シレトコ世界自然遺産へのアイヌ民族の参画と研究者の役割-先住民族ガヴァナンスからみた世界遺産-」を読みました。

研究対象としての先住民族と研究者のあり方について小野さんは①研究者が「客観性」や「中立性」を重んじすぎていつも対象の外にいるため諸問題に関わることを避けてきたこと、②問題が一応解決してから「研究」を始めるという二点に批判的立場だと始めに述べています。

世界の先住民族は常に「研究」の対象で、研究者の素材とされることでさらに利用・搾取され続けている。研究者は分析力があるゆえに先住民族の権利回復のための運動に加わるべきで、「研究は運動を成功に導くためにある、というのが筆者の立場である」と述べます。
とても納得がいきます。

シレトコ世界自然遺産関連では何が問題なのかに関しては内容が複雑に絡まっている(図式を見たほうが早い)ので実際に論文をご覧下さい。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40015366239

北海道アイヌ協会のHPを見ると、北海道に居住しているアイヌ民族で組織し、「アイヌ民族の尊厳を確立するため、その社会的地位の向上と文化の保存・伝承及び発展を図ること」を目的とする団体として紹介されています。
また、全道の市町村に49支部あり、会員総数は3,234名(2011/3現在)。これを仮にAとします。
アイヌ協会とは別にアイヌ民族を代表とする小規模なNPO(法人格ではないのが普通)の会員がいます。その一部はアイヌ協会の会員を兼ねている方もいます。これを仮にBとします。
いっぽう、北海道が2006年に実施した「アイヌ生活実態調査」 によると、北海道に住むアイヌ民族の人口は、72の市町村に23,782人となっています(これを仮にC)。この「アイヌ生活実態調査」は、「道は、地域社会でアイヌの血を受け継いでいると思われる人、また、婚姻・養子縁組等によりそれらの方と同一の生計を営んでいる人と定義し、自らが表明する人のみを調査対象とした」と注意書きがありますし、調査範囲が北海道居住(注:2)のアイヌに限定されていますから、実際にははるかに多くのアイヌ人口が見積られます。
さらに、アイヌ協会入会の年齢制限(二十歳以上など)や、会費免除(家族割や未成年免除など)があるのか、「アイヌ生活実態調査」の年齢制限(15歳以上など)があるのかは未確認です。
Cというアイヌ・アイデンティティを持つ人々の中の約14%がアイヌ協会に入っています。それに加え、BのNPOも一部アイヌ協会と重なりながら加わります。
しかし、Cの他に、アイヌであることを隠すアイヌ(D)、さらには、アイヌであることを知らないアイヌ(E)の方たちがはるかに多いだろうと小野論文は書いています。理由は、アイヌであることを社会的に明らかにすると、様々な面で不利益や差別を受ける現状が今も続いているからだ、と。
これもその通りだと思います。
不利益・差別のない、むしろアイヌであることを誇れる日が一日も早く来ることを願います。

今日は今から札幌に行き、アイヌ奨学金事務と、なかなか行けなかった「アイヌ文化普及啓発セミナー」にイオル再生事業伝承者育成事業1期卒業生の木村多栄子さんの「私のなかのアイヌ文化」と道立文学館学芸員の新明英仁さんのアイヌ風俗画の世界」の講演を聞きに行ってきます。



留萌の海水浴場。この二週間、ゴールデンビーチはテントが一杯になるほどにぎわいます。