アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

民法学から

2011-07-23 21:36:35 | インポート
手元に今年4月3日、釧路アイヌ文化懇談会で吉田邦彦さん(北大大学院法学研究科〔民法〕教授)の話された
「アイヌ民族の補償問題と所有権・知的所有権―民法学からの有識者懇談会報告書の批判的考察」があります。
民法専門の立場からアイヌ民族の諸権利に関して記述されており、多くを教えられます。最初のほうでアイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会報告書(2009/7)の問題点として以下を挙げています。

(1)文化復興という文化面への限定が問題。土地利用の再検討として博物館類似の公共工事が考えられているが、現実のアイヌの人々の貧困対策とは「無縁であり、眉唾」。
(2)アイヌ民族の歴史の根幹は、所有権侵害ないし広義の財産権侵害でることが看過され、それに対する補償問題が伏在することへの理解が欠落している。その結果として謝罪がないし、補償問題があつかわれていないため、「逆差別になる」等の論理を滑り込ませている。
(3)アイヌ民族の集団的アイデンティティと言いながら、個人権的補償をベースにしていて限界がある。なぜ民族の集団的権利を認めようとしないのか。

☆結論として「1996年のウタリ懇報告書との連続性が大きく、先住民族性ないしそれに対するこれまでの侵略・搾取に対する救済の政策的展開としての踏み出し方は、限定的であり、「妥協の産物」的なお役所文書的側面が強い。」と記述。
吉田さんの言われるとおり、アイヌ地の土地侵略・征服に関わる補償の問題と具体的対策の検討が大事なのに、先の有識者懇談会の報告書だけでなく、この度のアイヌ政策推進会議でも触れられず、「共生象徴空間」のみを推進しているのは、実に問題だと言えるでしょう。

世界各国の先住民族に対する補償論を今後、調べて比較してみたいと思いますが、吉田さんはアメリカにおける黒人・先住民族・ハワイ原住民に対する差別・虐待に関する補償を参考に、以下を述べています(注・いつもながらわたしが理解したところで大胆に短く要点を書きます)。
(1)過去の不正義に鑑みて、加害者側でその歴史的事実を認め、その歴史的責任を認めつつ、まずは、謝罪を行うべき(報告書に謝罪がないのは理解に苦しむ)。
(2)所有権返還に関し、①共有財産は再施すべき。補償的に増額すべき(謝罪も)。②土地返還は、一部を象徴的にアイヌ協会に返還する。③埋葬品・遺骨盗掘問題は、返還(ないしは北大の追悼施設に収める)、慰謝料賠償がなされるべき。象徴空間に持っていくという考えは責任主体との関連性が希薄になるため慎重にすべき。
(3)金銭授受されるべき。従来の福祉施策ないし生活向上施策は、実質補償的性格があるが、「補償」の明示がないために削減されたり、あまり意味のない使われ方をされている。
(4)(広義の)知的所有権関連の補償(損害賠償)問題についても、慎重な検討が必要。刺繍などの意匠権の侵害事案は伝統的な知的所有権保護をつくり、補償がなされていい。薬草文化などの伝統的知識の特許権弊害については(聞いてはいないが)、打開に向けた取り組みが必要。
(5)観光物に関してはアイヌ民族のアイデンティティ侵害に関わるような商品化には慎重な扱いを要し、差別的行為に対しては、人格権的保護の充実をはかり、効果として差止め的なものを認める。

法的なことなので、理解し切れているとは言えませんが、うなずけます。ただ、(2)②の「アイヌ協会に返還する」には意義あり。北海道アイヌ協会はアイヌ民族の代表ではありませんから。

北大アイヌ人骨の問題の真相を究明し、適切な対応を求めている「北大開示文書研究会」のblog「さまよえる遺骨たち」に、英語版の概要がUPされました。北大や国の問題を国外の先住民族の団体に知って頂き、協力をお願いするためです。すでに、いくつかのグループから協力の呼びかけを頂いています。キリスト教関係のつながりも含めて点が線に、線が、網のようになっていきます。
http://hokudai-monjyo.cocolog-nifty.com/blog/



初山別の岬公園から稚内を望む