アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

「『民族共生の象徴となる空間」作業部会報告書」

2011-07-07 13:14:13 | インポート
北海道新聞の社説:アイヌ政策 「象徴空間」に知恵集めて(6月28日)に、「象徴空間」に触れている記事が出ました。しかし、慰霊施設と研究施設を兼ね備える問題については触れていません。そればかりではなく、気になる一文があります。
「(象徴空間の)具体的な内容や工程には触れず今後の課題として、新たな部会を設けて作業に当たる」
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/301925.html


この作業部会はどこまでをどのような審議をしたのか知りたくて、早く部会まとめを読みたいと思っていましたら、第3回アイヌ政策推進会議(2011/6/24開催)の配布資料がUPされました。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainusuishin/dai3/haifu_siryou.pdf

80ページを超える資料なのでエコモードでA4に2頁分を縮小し、それを表裏でプリント。
その中に「『民族共生の象徴となる空間」作業部会報告書」(以下、「報告書」)が入っていましたが、確かに具体的な内容や工程には触れていません。
そして、この「象徴空間」は、
「国際的にも追求されている将来の豊かな共生社会を構築し、将来の世代により良い社会を残していくための象徴として重要な意義を有する国家的なプロジェクト」(P.1)であると述べています。

が、疑問が沸いてきます。

第11回作業部会会合(2011/2/23)の議事概要には、
「各大学等に存在するアイヌの人骨の状況、それらの人骨が各大学等に存在するに至った経緯等の詳細について不明な点があることから、まず、各大学等における保管状況、存在するに至った経緯、個々の取組等に関する調査・整理が必要である。」(P.3)
とありますが、その後の会合では、「存在するに至った経緯、個々の取り扱い等に関する調査・整理」を行ったかは述べられておりません。行ったのであれば調査結果が出るはずですが、ないのを見ると調査はしていないのか?

そして、この度の「報告書」には、
「各大学等に保管されているアイヌの人骨について、遺族等への返還が可能なものについては、各大学等において返還するとともに、遺族等への返還の目途が立たないものについては、国が主導して、アイヌの人々のよりどころとなる象徴空間に集約し、尊厳ある慰霊が可能となるように配慮する。」(P.8)
「集約の対象となる人骨を特定し、人骨の返還や集約の進め方に関する検討を行うため、各大学等の協力を得て、アイヌの人骨の保管状況を把握する」(同頁)
とあり、「存在するに至った経緯、個々の取り扱い等に関する調査・整理」は抜け落ち、「保管状況」についてのみの把握に留まります。

ごまかしておりますな!

「国が主導」するべきは、各大学の遺骨収集の実態調査を迅速かつ詳細に大学に行わせることであり、どのような差別的な研究がなされたかを明確化し、謝罪することではないでしょうか。
北海道大学に対し、北大開示文書研究会は
「自らの責任において過去と現在のすべてを調査し、その結果をアイヌ民族に説明し、反省と謝罪とともに遺骨奉還と副葬品返還のための積極的な手立てをとって下さい。」と要望を出し続けていますが、全く無視されたままです。
(さまよえる遺骨たちblog参照= http://hokudai-monjyo.cocolog-nifty.com/blog/ )

このような不誠実な対応をしている大学に、主体的に返還させようとする「報告書」は問題であると考えます。
かつての北大のアイヌ遺骨・副葬品「発掘」は「盗掘」だったという疑いがかけられている中、北大の関係者がこの作業部会メンバーの中で重要なポストとしておられるのですから、率先して北大の調査から始めるべきではないでしょうか。


また、「過去に発掘・収集されたアイヌの人骨等について尊厳ある慰霊が可能となるような施設が必要とされ」(報告書P.2)ると言いながら、この文脈の後半には「集約した人骨については、アイヌの人々の理解を得つつ、青布歴史を解明するための研究に寄与することを可能とする」(同)とあります。研究材料にすることと「尊厳ある慰霊」とが同時に出来ると考えていることにわたしは疑問を感じます。

そして、「尊厳ある慰霊」はアイヌ人骨「盗掘」の経緯と検証という、遺族への返還のための努力なくしては出来ないと考えます。北大においてはその努力が全く見られないばかりか、安易に「返還」の名による研究対象化という意図さえ感じます。そして、この作業部会も。
これでは何が「重要な意義を有する国家的なプロジェクト」(報告書1頁)なのでしょう。


富良野のニングル


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