~Agiato で Agitato に~

再開後約20年になるピアノを通して、地域やほかの世代とつながっていきたいと考えています。

メンコンの歌心とは?

2007年07月16日 11時34分41秒 | その他音楽
昨日の深夜に放映された、神尾真由子さんのメンデルスゾーンのバイオリンコンチェルトの録画をさっき見てみました。

これはもうビックリでした、ほんと。

メンコンというと、「流麗」とか「清澄」とかいうイメージがあるのですけど、この演奏を聴いて、「もしかするとこれまで自分はなにかメンデルスゾーンについて誤解していたのではないか?」・・・・とまで考えてしまいました。

第一楽章は少しテンポ遅めで始まります。
たしかにメンデルスゾーンでよく言われるように「歌」であるには違いないのですが、「歌」は歌でも、「鼻歌」ではない。ポップな感じでもない。あえていうと「アリア」のように、一音一音を大事大事に、表情豊かに歌う。
スケールやアルペジオでも次の音へ移る一瞬一瞬に喜びや哀しみや怒りが宿る。音の出し方にしても、歌の発声のように、腹からのものもあれば喉付近のものもあり、口腔内で生み出されたものもある・・・という感じで、バイオリンという楽器から発生しているというより、身体のなかに宿っている音が一音一音外界に解き放たれていくという印象でした。

つい先日チャイコフスキーコンクールで優勝されたばかりですが、この録画は2004年11月のものですので、まだ10代の頃の演奏ということになります。

このころ、彼女が師事していたのかどうかはよくわからないのですが、現在の神尾さんの師匠は、ザハール・ブロン氏と公表されています。
ブロン氏といえば、ヴァディム・レーピン、マキシム・ヴェンゲーロフ、樫本大進、庄司紗矢香、川久保賜紀などのお師匠さんでもあるという、ほんもののスーパーティーチャーなのですが、ずっと以前に「樫山大進~~炎のレッスン~~」なる番組が放映されたことがあり、その録画を急に見たくなり、これも続けて見てみました。

ほんとに「炎のレッスン」なんですよ、これが(レッスンではシベリウスのコンチェルトをやってました)。

樫山さんが17歳か18歳くらいの時の映像なんですけど(ちなみに彼は10歳くらいからブロン氏に師事)、技術的なことはもちろん細かく細かく指導されるのですけど、歌う、弓を振り回す、弾きながら生徒に歩み寄ってぐっと顔を近づける。叱ることはないですけど、ほめるときは「私の愛する大進、すばらしい!!」と抱きしめる。できてないところは、「できてない」とただ言うのではなくて、なぜそう弾かなければならないかを説明したうえで、自分ですばらしいお手本を弾いてみせる。
もちろん、生徒がただならぬ優秀さだからこそ成り立つレッスンだと思うのですけど、まさに「魂を吹き込む」というレッスンで、やっぱり門下に綺羅星のごとくに名プレイヤーが並んでいるのは、これは生徒の天分だけに由来するわけではないよな~と納得です。

そのレッスンの中で、言われていたことはどれもどれも「なるほど」なんですけど、ひとつあげるとすると、「常に発見する」(訳してあるのでちょっとニュアンスは違ってくるかもしれませんが)ということ。どんなに弾きこんだ曲でも、瞬間瞬間に新鮮な発見というか感動を持つ・・ということだと思います。
先の神尾さんの演奏はまさにそんな感じで、彼女は「今このステージで、この音に初めて感動したのでは?」と思わせるような、鮮度のいい音が綴られていました。
そういう音を聴くと、「では彼女のバッハは?ベートーベンは?チャイコフスキーは?」と次々と聴きたくなるわけで、これは聴衆にとっては大変な引力です。


今日午前は自分は弾きもしないで、こんなことやってましたけど、また新たな力をもらったような気がします。