フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

4月9日(火) 雨

2024-04-10 11:52:17 | Weblog

8時半、起床。

チーズトースト、ソーセージ、サラダ、牛乳、紅茶の朝食。

昨日のブログを書いてアップする。

昼過ぎに家を出る。今日は朝から雨。風も強い。

すでに散り始めた桜だが、今日で一気に散るだろう。

落花の絨毯。

隣町、大森へ。

西友の5階に「キネカ大森」がある。今日はここで『パーフェクト・デイズ』を観るのだ。映画館で映画を観るのは久しぶりだ。2016年11月23日に「キネカ大森」で『オーバーフェンス』という作品を観たのが最後である。映画館で映画を観なくなったのは、コロナがきっかけというわけではない(それ以前からだ)。

スクリーンが3つのミニシネコンだ。

上映開始を待つラウンジも小綺麗だ。

上映中や近日上映の作品のポスターが貼られている。

小さなスクリーンではあるが、自宅でテレビやパソコンの画面で観るのとはやはり違う。上映が始まる前の時間のワクワク感がある。

主人公(役所広司)は公共トイレの清掃員で、日々の生活はシンプルである。自宅は古いアパート。朝早く起きて、歯を磨いて、鋏で口ひげを整えて、鉢植えの植物に霧吹きで水をやり、作業服に着替えて、駐車場の自販機で缶コーヒーを買って(朝食はとらないようである)、ワンボックスカーに乗って仕事場(公衆トイレ)に向かい、車の中でカセットテープの音楽を聴く(最初に流れたのはアニマルズの「朝日のあたる家」だった)。受け持ちの公衆トイレを回りつつ(仕事はとても丁寧だ)、昼食はいつも同じ神社の境内のベンチでコンビニで買ったサンドイッチと牛乳。ベンチの上の木漏れ日の写真を撮る。夕方、仕事を終えて、家の近所の銭湯でひと風呂浴びて(時間は短い)、地下鉄の浅草駅の構内にある居酒屋(元気な店主を演じるのは甲本雅裕)で食事をする。帰宅して古本屋で購入した文庫本を読み(最初に読んでいたのはフォークナー『野生の檸檬』だった)、時間が来たら寝る。自宅にはテレビはなく、スマホも持っていない(ガラケーのみ)。休みの日には、近所の写真屋に行ったり(寡黙な店主を演じるのは英文学者の柴田元幸)、古本屋に行ったり(読書家の店主を演じるのは犬山イヌコ)、歌の上手なママのいるスナックにいったりする(ママを演じるのは石川さゆりで、「朝日のあたる家」の日本語バージョン「朝日楼」を熱唱するのだ!)。

シンプルで寡黙な主人公の日々だが、その秩序を乱すのは外部からの侵入者たちだ。清掃員の同僚の若者が熱をあげている風俗で働く若い女は、主人公の聴くカセットテープの音楽に興味を覚え、それをくすねて持ち帰ってしまうが、あとから返しに来て、何か悩みを抱えている表情を見せながら主人公の頬にキスをして立ち去る。同僚の若者は主人公から金を借りたたまま、ある日突然、電話をしてきて仕事を辞めると告げた。シフトが狂ってしまった主人公は忙しくなる。いつもより遅く帰宅すると、アパートの前でもうしばらく会っていない妹の子ども(高校生くらいの女の子)が彼を待っていた。家出をして「おじさん」のところへ来たのだ。翌日はトイレの清掃の仕事に付き合い、夜、高級な自家用車で迎えに来た母親(主人公が電話で連絡したのだ)に連れられて帰っていく。スナックに顔を出すと、まだ開店しておらず、向かいのコインランドリーで本を読みながら待っていると、ママと見知らぬ男(演じるのは三浦友和)が店の中に入っていき、抱擁しているところを目撃してしまう。あわててその場を離れ、コンビニ買った缶ビールと煙草(久しぶりに吸ってむせてしまう)を川べりで飲んでいると、さきほどの男がやってきて、自分はママの元夫で、いまは再婚しているが、転移したガンを患っていて、先妻に会いたくなってやってきたのだと語る。彼女のことはどうかよろしくお願いしますと言われる。意気投合(?)した二人は影踏み遊びに興じる。いつものように朝が来て、最後は車を運転しながら、泣き笑いの表情を浮かべる主人公のアップ(けっこう長い時間)で終わる。

主人公のシンプルな日常を描くように見せて、けっこうドラマチックな日々である。主人公は寡黙だが、カセットテープから流れる60年代・70年代の音楽は饒舌だ。彼は肉体労働者だが、一日に摂取する食事の量は少ない。彼の仕事場は公衆トイレだがおしゃれできれいだ(彼がきれいにしているというよりも、元々、きれいに使われている)。彼の住まいは古い木造アパートだが、内階段があり、メゾネットタイプである(アパートの外観を見る限り、二階には外階段で上がるようになっているから、映画では、木造の一軒家を使って内部の撮影が行われたものと思われる)。・・・といろいろと違和感があるのだが、たぶんこの違和感は、この作品が外国人の観客を意識して作られた「東京観光」用のプロモーション作品のような印象から来るものだろうと思う。「いい作品」には違いないが、「いい作品」にしようという演出意図があからさまで、少々気恥しい。そのダメ押しともいえるものが、エンドロールでの「木漏れ日」(外国語にはこれに相当する単語はない)についての説明であった。

間違いなくいえることは、この映画を観終わった後は、公衆トイレはきれいに使おうという意識が高まることだ。

居酒屋の主人、写真屋の主人、古本屋の女主人、スナックのママ、彼らを主人公にした「アナザー・ストーリーズ」も観てみたい。大森駅のホームで電車を待ちながら、そなんことを思った。

蒲田に戻ってくる。ケバブ屋の店先に今日もセキレイが一羽いる。

たぶん店主さんからは何ももらえないのだろう。お客さんのおこぼれを待っているだの。餌を探し回るよりも、ここで粘っている方がよいのだろう。セキレイのシンプルな日々だ。

今日は寒さのぶり返した一日だった。

自宅のガレージ(車は持っていないのだが)の屋根に近所の桜の花びらが舞い落ちている。

玄関先のハナミズキがようやく葉を出し始めた。

耳鼻科に行っていつもの処方箋を出してもらう。

電話をしてから「きりん珈琲」に行く。

きりんブレンドを焙煎して、粉にしてもらった(電話で注文しておいたので、すぐに受け取ることができた)。お店は人出不足でなかなか大変なようである。

時刻は6時半ごろになっている。

高校時代の友人が住んでいた家の前を通る。いまは空き家のようである。

帰宅して、腕時計、カギ、スイカ、スマホ、財布を書斎のプリンターの上に並べる(これにカメラが加わる)。外出するときに携帯するものを一か所に置いておくのは、『パーフェクト・デイズ』の主人公もしていることである。

夕食は卵とベーコンと野菜炒め、シシャモ、柚子大根、つみれとキノコの汁、ごはん。

とくに録画してあるドラマはなかったので、日曜日に録った「NHK杯将棋トーナメント」の開幕戦(澤田真吾七段対上野裕寿四段戦)を観る。澤田が生きのいい新人に圧勝した。

ゼミ、演習、卒業研究の学生たちに春学期の始まりの連絡をする。

風呂から出て、今日の日記を付ける。

1時50分、就寝。