花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

犬筥(いぬばこ)について

2011-11-23 | 文様について

presented by hanamura ginza


11月も半ばを過ぎ、
朝晩の冷え込みが一層厳しくなってきました。
日が暮れるのも早いため、
お日さまの陽射しが恋しくなりますね。

そのお日さまの温もりを気持ちよさそうに受けて、
軒下などで猫がひなたぼっこをしている姿をみかけると、
冬の訪れを感じます。

そういった猫や人間の姿に比べ、
犬は寒さの中でも元気いっぱいにはしゃぎ、
寒さに身を縮めた飼い主を引っ張るように
散歩しています。

「犬はよろこび庭駆け回り、
猫はこたつで丸くなる」
という童謡の歌詞のように、
猫に比べ、犬は比較的寒さに強いようです。

犬は、猫と同じように昔から人間のそばで生活してきた動物ですが、
かわいいだけではなく、
飼い主に従順で素直なことや、
寒さの中でも元気で丈夫な様子が縁起が良いとされ、
着物の文様や調度品、玩具などのモチーフとして
昔から変わらぬ人気があります。

今日、お話しする犬筥(いぬばこ)も
犬をモチーフにしたもののひとつです。

犬筥とは、犬の形をした張り子の置き物です。
幼い子供の顔を模した顔に、
犬の寝そべったり、伏せたときの
体が付いています。
この体の部分には松竹梅や鶴亀などの吉祥文様が彩色され、
上下に分かれる箱の形になっています。

平安時代の頃、宮中では災いから身を守るお守りとして、
狛犬の像が置かれていました。
犬筥は、室町時代の頃にこの狛犬がもとになって考案されたようです。
そのため犬筥にも、狛犬と同じように
雄雌の対があります。
雄には守り札を収め、
雌には白粉などの化粧道具を入れました。

貴族たちは犬筥を産室に飾り、
安産でたくさんの子どもを産む犬の姿にあやかりました。
また、子どもが誕生したあとも、
子どもを災いから守り、
犬のようにたくましく育つようにとの願いを込めて
子どもの枕元には犬筥が置かれました。

やがて、江戸時代になると
上流階級では、
犬筥はお雛様の飾り物にもなり、
嫁入り道具のひとつともなりました。

そして、犬筥をもとにして、
犬張子がつくられるようになりました。
この犬張子は庶民の間で大人気となり、
犬筥同様に子どものお守りとして用いられました。

華やかな彩色に、可愛らしいお顔のつけた犬筥は、
飾り物として、コレクションされている方も多いようです。

また現在でも、皇室では出産のときに、
犬筥を送る習慣が残されているそうです。



上の写真の名古屋帯は、
犬筥をモチーフにした絹布からお仕立て替えしたものです。
平安時代の雅な文化を思わせる扇子などの道具に、
犬筥が配されためずらしい意匠です。
和の情緒が犬筥のかわいらしいさを引き立てています。

さまざまな技術の発達で目まぐるしい昨今の状況を
犬の成長の早さにたとえて
「ドッグイヤー」などといったりしますね。
日本のことわざにも「犬の一年は三日」というものがあります。

あっという間に、今年も残すところ 1 か月あまりです。
元気な犬の姿にあやかって、
寒さに負けず冬を乗り越えたいですね。

※上の写真の「犬筥文様 型染め 名古屋帯」は12月3日(土)から花邑銀座店で
開催する「動物の帯展」でご紹介予定の商品です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は11月30日(水)予定です。

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