花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「桔梗文様」について

2011-07-13 | 文様について

presented by hanamura


連日、暑い日が続いていますね。
東京では先日、梅雨明け宣言が出され、
空にはもくもくとした夏雲が湧き出ていました。
木立ちのなかからは早くも蝉の鳴き声も
聞こえてきています。

夏季の着物や帯の意匠に用いられる文様には、
暑い季節に涼やかな秋に想いを馳せたような
秋草をモチーフしたものが多くあります。

今日はその中のひとつ、桔梗文様についてお話ししましょう。

桔梗は、日本各地の野山に自生する植物です。
青紫色や白色の花は、
小さな星型のかたちをしています。
つぼみはまるで紙風船のようでとても愛らしく、
うつむいたように咲くその姿には清楚な美しさが感じられます。

桔梗は「秋の七草」の 1 つとされていますが、
実際の開花時期は6月から9月までと、
比較的長くその姿を愛でることができます。

桔梗の根は解熱や鎮痛作用があるとされ、
古来より薬用にも用いられてきました。

桔梗という名前の由来は、
薬用になる根が硬いという意味合いから付けられ、
後に音読みされて
「キチコウ(キチカウ)」となり、
現代のようなキキョウになりました。

このキキョウのほかにも、
桔梗にはいくつかの名前が付けられています。

奈良時代には歌人の山上憶良(やまのうえのおくら)が
万葉集の中で秋の七草を詠み、
桔梗を朝貌(あさがお)とよんでいます。

この朝貌(あさがお)とは、
現代と同じ「朝顔」を
指すのではないかという説もありますが、
朝顔は中国からもたらされた植物であり、
この時代にはまだ日本には存在せず、
平安時代の漢和字書『新撰字鏡』においても
「桔梗、阿佐加保」と記されていることから、
万葉集の朝貌(あさがお)は桔梗であるという説が
有力視されています。

平安時代になると、和歌や絵画の題材として、
桔梗は多く用いられるようになりました。
美しいだけではなく、前述のように薬用効果も高いことから、
「吉更=さらに吉」の植物ともされ、
桔梗の文様は吉祥文様として扱われていました。



上の写真は檜垣に桔梗文様が配された名古屋帯です。
大正~昭和初期につくられた布地をお仕立て替えしたものですが、
桔梗文様の清楚な美しさが見事にあらわされています。

また、桔梗は「オカトトキ」とも呼ばれました。
「岡に咲くトトキ」というのが語源とされていますが、
「トトキ」とは釣鐘人参のことで、
釣鐘人参は朝鮮では「トドック」とよばれていたため、
それが訛ったものとされています。

この桔梗=オカトトキがたくさん咲いていた美濃の地には
「土岐」という地名が名づけられ、
また、そこで栄えた一族が後に「土岐家」となり、
その土岐家は桔梗を家紋に定めていました。

土岐家は鎌倉時代から江戸時代まで活躍した武家で、
土岐家をゆかりとする家の家紋にも
同じく桔梗紋が用いられている場合が多くあります。
しかしながら、桔梗文様の縁起の良さから、
土岐家以外でも用いられるようになり、
しだいに広まっていきました。
明智光秀や坂本龍馬もこの桔梗紋を使用しています。

江戸時代なると、桔梗文様は
能装束や小袖の意匠にも用いられました。
また、当時活躍した絵師の尾形光琳や、
その弟で陶工の尾形乾山(けんざん)は、
桔梗を好んで題材にしました。

桔梗の名所は日本各地にあるようですが、
なかでも静岡県の周智郡森町草ケ谷にある「ききょう寺」や、
明智光秀ゆかりの京都府亀岡市の谷性寺(こくしょうじ)、
京都府京都市にある廬山寺(ろさんじ)の桔梗は、
たいへん美しいと評判です。
桔梗の見ごろは6月下旬ぐらいから8月下旬なので、
夏休みに秋の七草を眺めに行くのも
風流で良いのではないでしょうか。

※写真は花邑 銀座店にてご紹介している名古屋帯です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は7月20日(水)予定です。

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