花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「兎文様」について~その2~

2011-01-18 | 文様について

presented by hanamura


1月も半ばを過ぎ、
1年のうちでもっとも寒さが厳しい時期になりました。
それでも、東京では梅の木に薄紅色のつぼみが付きはじめています。
この寒さを越えれば、春もすぐそこまでですね。

さて今日は、前回にひきつづき今年の干支である
「兎」の文様についてお話ししましょう。

古今東西を問わず、
愛され、親しまれてきた兎。

日本において、
その兎が着物や帯、調度品などの
意匠のモチーフとして
盛んに用いられるようになったのは、
桃山時代の頃です。

当時、京の豪商として有名だった
角倉了以(すみのくらりょうい)は、
草花の下に兎が座る
「花兎金襴」(かときんらん)と呼ばれる文様を
愛用しました。

角倉了以は、豊臣秀吉の朱印船に加わり、
安南国(ベトナム)との貿易を行って富を得て、
私財を投じ京都の高瀬川を開削した功績が称えられ、
名を残した人物です。
その角倉了以が愛用した「花兎金襴」(かときんらん)は、
のちに「角倉金襴」(すみのくらきんらん)とも呼ばれ、
名物裂の文様となりました。



江戸時代のはじめには、
波の上を跳ねる兎の図を意匠化した
「波兎」(なみうさぎ)という文様が大流行しました。

波に兎が跳ねているという不思議な組み合わせは、
琵琶湖から眺める竹生島(ちくぶしま)の
神秘的な美しさを歌い上げた
「竹生島」という謡曲(能)に由来しています。

謡曲「竹生島」の中には、
『月海上に浮かんでハ 
   兎も波を奔(カケ)るか』
(月が湖面に映えて浮かんでいるときは
   月の兎も湖面の波の上を駆け跳ねているのですね)
というとても美しい詩があります。

「波兎」はその詩にあらわされた情景を
簡略して意匠化したもので、
狂言装束の肩衣(かたぎぬ)の文様としても用いられました。

また波に兎とは、月に兎という意味合いをも含むことから、
月の神秘な力をあらわす吉祥文様として
庶民の間にも広まり、人気となりました。

江戸時代中期になると、
兎に植物や人物を組み合わせて意匠化したものが
多くつくられるようになります。
その中でも、兎が好物とする木賊(とくさ)を組み合わせて
意匠化した着物や帯は人気を博しました。

また、しゃがみこんでいる兎の姿を
3方向から捉えて組み合わせた「三つ兎」と呼ばれる文様もつくられました。
日本では古来より数字の「三」は縁起の良いものとされていたので、
こちらも吉祥文様として現在でも多く用いられています。

さて、偶然ですが今日1月18日は、
満月(望月)ということなので、
寒空の中、月を眺めれば、
月で餅をつく兎の姿をみることができるかもしれません。

※上の写真は花邑 銀座店にてご紹介している名古屋帯の文様です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は1月25日(火)予定です。


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