presented by hanamura
10月も、まもなく半ばになり
暦の上では寒露、
いよいよ秋も本番です。
山々では木の葉が色づきはじめるころですね。
街中でも紅葉した木々は、
見ることができますが、
大自然のなかで見る紅葉した山々の美しさには、
より心ひかれるものがありますね。
紅葉は、近くから眺めると、
1枚1枚の葉の色が違い、木の種類も様々です。
しかし、遠くから眺めると、
それぞれが響き合い、調和して
豊かな色彩となります。
今日お話しする「寄裂(よせぎれ)文様」も、
そうした意味では紅葉と似ているといえます。
ひとつひとつは異なる文様が、
お互いの趣きが響き合いながら調和した意匠なのです。
「寄裂」とは、文字通り、
さまざまな「裂(布)」を「寄」せて
1 枚の布地にしたものを指します。
こうした布地は、
現代では「パッチワーク」や「キルト」とよばれることもあり、
日本だけではなく、世界各地で昔からつくられてきました。
昔の日本では、
裂(きれ=布)は生活に欠かすことができないものでしたが、
庶民にとっては高価なものでした。
そのため、布地の一部が傷んでも、
捨てたりせずにその部分に異なる布を縫い合わせて、
用いることが多くありました。
また、傷んだ部分が多くなり、
それぞれが端切れとなっても
さらにその端切れを接(は)ぎあわせ、
1枚の布地として再利用をすることも
日常的に行われていました。
こうした慣習は、
いまでこそ「エコ」などともてはやされる文化ですが、
昔の人々は誰に言われずとも
モノをとてもだいじに扱い、
自然に無駄なく使っていたのですね。
しかし、江戸時代になると、
そうした「モッタイナイ精神」とは別に、
芸術的な意図から、
高価な裂を使用し、わざと繋ぎ合わせた布地が
つくられるようになります。
このような布地は「寄裂」とよばれ、
裕福な商人たちを中心に人気を集めました。
寄裂には、意匠が異なる複数の布地が用いられるため、
それらを、どのように、どんな形で組み合わせるか、
その布地のどの部分を使うと良いかといった部分において
つくり手には高いセンスが要求されます。
また、貴重な裂の良い部分を選び、
組み合わせていくわけで、
古来から慣習的に行われてきた、
エコロジーな布の接ぎはぎとは正反対に、
寄裂は無駄の多い、たいへん欲ばりで
贅沢なものといってもよいでしょう。
その寄裂のように異なる複数の裂を繋ぎあわせるのではなく、
寄裂をあくまでモチーフとして染めであらわした意匠を
寄裂文様とよびます。
複数の文様は 1 つの型紙で染め付けられるわけではなく、
それぞれ別の文様の型紙が存在し、
それを熟練の技ではめ込みながら染め付けていくのです。
高度な技術が必要とされることはもちろん、
寄裂文様をつくるうえで重要になってくるものは、
本来の寄裂と同様、センスです。
こうした複数の意匠が 1 つのスペースに混在するようなものは
一歩間違えれば、しつこく野暮ったいものになってしまいます。
しかし、それぞれの文様が調和し響きあうように計算され、
バランスがとられているような優れた意匠の寄裂文様は、
まるで交響曲のような重厚さや狂騒曲のようなおもしろみがあります。
上の写真は、丸文や唐花文、小花文などが寄せられた
寄裂文様の和更紗です。
数種の文様が単にあらわされているわけではなく、
文様と文様の間に仕切り線があるようにあらわされ、
異なる裂が寄せ集められているようなかたちで
意匠化されている点が寄裂文様の特徴です。
それぞれの文様が個性を放ちながらも
全体としてはとてもまとまりがあり、
「よく見ると、あれこんな文様が」と、
眺めるだけでも楽しい気持ちになってきそうですね。
「行楽の秋」で山々の紅葉というのも素敵ですが、
「芸術の秋」は「音楽の秋」…。
寄裂文様が奏でる響きに
耳を澄ませてみるのも良さそうです。
※写真は花邑銀座店でご紹介している帯の文様です。
花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は10月19日(火)予定です。
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