花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「冊子(そうし、さっし)文様」について

2010-10-19 | 文様について

presented by hanamura


10月も、もう半ばを過ぎました。
風はだいぶ冷たくなり、
日が暮れるのもずいぶんと早くなりました。

暑くも寒くもなく、夜が長い秋には、
読書もすすみますね。
今日は「読書の秋」にちなみ、
書物の文様といえる、
「冊子(そうし、さっし)」文様について
お話ししましょう。

「冊子」というと、
現代では書物全般を指します。
しかし、文様としてあらわされる「冊子」は、
草紙とも書き、和紙を糸で綴じたものを指します。

冊子文様は、1 冊で意匠化されることはなく、
表紙だけのものや頁が開かれたものなど、
さまざまな状態の冊子が散らされて意匠化されていることが
多い点が特徴です。

また、四季の草花などの風景文様をともなったものや
絵や文字が冊子の中に配されたものなども多くあります。

このような冊子文様が着物や帯の文様として、
用いられるようになったのは、江戸時代の頃です。

こうした冊子は、
蔡倫(さいりん)によって紙が発明された中国から
飛鳥時代にもたらされました。
その後、日本でも製紙方法が考案され、
優れた紙の本が多く作られました。

平安時代になると、
経文や文学作品を書いた冊子が
貴族たちの間で広まるなど、
和紙を用いた多くの冊子がつくられました。

美しい和紙を用いてつくられた冊子は、
平安時代の貴族たちにとって、
身近な美術品でもあったことでしょう。

やがて、江戸時代になると、
典雅で華麗な平安時代の文化に対する憧れが高まり、
着物の意匠にも当時の文化の象徴である古典文様が
多用されるようになりました。
そのなかで平安時代に端を発する冊子の文様も
多く用いられるようになりました。

豊かな時代への羨望から
縁起が良いとされた古典文様ですが、
冊子文様ももともと「知恵がつく」ものとして
縁起が良いとされていました。
源氏物語などの古典を題材にしたものも多く、
いわば冊子文様は、平安時代の雅びの
シンボルともいえる文様なのです。

江戸時代には木版の技術が発達し、
印刷が行われるようになったことで
「絵草紙(えぞうし)」とよばれる
絵と文字が一体になった冊子がつくられるようになります。
現代でいえば「絵本」や「雑誌」のようなものです。

絵草紙は、庶民の間でも広く読まれるようになり、
絵草紙において扱われる内容も
当時の世相や流行を反映したものが多くなりました。
それにともなって、冊子文様のなかに配される題材も
古典の文学だけではなく、
当時人気を集めた歌舞伎の役者絵などもあらわされるようになり、
そうした意匠からは、
現代でも当時の文化の一端が垣間見ることができます。



上の写真は、
能を題材にした冊子文が配された絹布です。
表紙のほかに、開いた頁には
文字と絵が細かくあらわされています。

冊子のなかに配されたモチーフを眺めていると、
物語のくわしい中身まではわからないものの、
冊子というモノに対して
当時の人たちが感じていたであろう
ワクワク感やドキドキ感が伝わってくるように感じます。
それは、まるで私たちが買ってきたばかりの
真新しい雑誌や書籍の頁をめくるときのような
楽しみな気持ちと同じだったかもしれませんね。

※写真は花邑銀座店でご紹介している帯の文様です。

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次回の更新は10月26日(火)予定です。


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