統一は遠く

昨年は独裁者の末路の年でもあった。

リビアのカダフィ大佐が撃ち殺された年でもあり、エジプトをはじめ幾つものイスラム国家で長年独裁者として君臨し続けた政治家たちが、不本意な退陣を余儀なくされた年でもある。

そんな年の瀬に飛び込んできたのが、北朝鮮の金正日の死亡であった。

日本人拉致の首謀者とも噂された人でもあり、猜疑心の強そうな陰険な目つきで、不摂生が見た目にも分る孤独な人であったと思う。率直に言って天寿を全うして欲しくない人物でもあったが、どうも病死であるらしい。

既に金王朝の三代目を定めての死であったから、今しばらくはこのまま現状でいくと思われる。混乱と統一を期待する向きもあろうが、私はこのままズルズルと金王朝は続くとみている。

なぜなら韓国以外、どの国も統一なんざ望んでいないからだ。

まず初代の金日成を工作員として送り込み、後に離反されながらも支援する羽目に陥ったロシアだが、この国も統一コリアなんぞ望ましいとは思っていない。アメリカの影響下にある南コリアとの緩衝地帯としてのみ北朝鮮を認めている。国防上、国境を接する国が強大になることを望むようなお人よしでは断じてない。

アメリカもまた統一コリアを望んではいない。太平洋の端に非友好国あるいは対立国家が存在する以上、その緩衝地帯としての北朝鮮の存在が韓国への牽制となると認識しているようだ。過剰な自尊心を振り回すコリアには辟易しているようだが、軍事産業の輸出先としての価値は捨てがたい。そして、口には出さないが北朝鮮の存在が、日本の対米依存の必要性を高めている現実も、しっかりと認識している。

そして共産シナだが、この国が一番野心満々だ。本音はコリア半島全体を手中に収めることだろう。その手始めとして、北朝鮮に深くコミットしてコントロールしたいと望んでいるはずだ。金正日はシナを嫌っていたようだが、シナしか頼りになる国がない現実も認識していた。現在、シナは多額の設備投資をして北の地の地下資源の開発に力を入れている。この利権を安定的に確保する重要性を強く認識しているが故に、韓国との統一なんぞ望んでいない。

最後に我が日本だが、一番及び腰であり、拉致問題さえなければ関りたくないと思っているようだ。だから積極的に動くことはなく、現状が維持されることが最も無難であると、事なかれ主義の願望丸出しで知らん顔を決め込んでいる。万が一、統一でもされたら再建資金の拠出を求められるのは必然だが、韓国とのバランスを理由に多額の出費を拒否するつもりであるようだ。その結果、コリアの民の反日感情は更に高まることは分っている。ならば、現状維持が最も望ましい。

これらの関係国以外で、北朝鮮問題は真剣に関心を持つ国は、ほとんどないのが実情だ。統一を切望する韓国の民にとっては誰も支援してくれない孤立感が苛立ちをいや増すばかり。

実のところ、韓国の内部にさえ統一に否定的な意見は存在する。旧・東ドイツと西ドイツの統合を見て、民族は同じでも育った環境が異なると、まるで違う民族となる現実に気がついている。ただ、それを大きな声で言えないところが、この国の言論の自由の不徹底ぶりを示している。

ところで肝心の北朝鮮は統一を望んでいるのか。実はこれが一番怪しい。おそらく国民の９割を占める貧民層は、今よりよくなるはずなので、当然統一を切望している。しかし、残り一割といわれる富裕層は嫌がるはずだ。あくまで世界最貧国のなかでの富裕層だが、韓国と統一すれば自分たちの立場が相対的に弱くなることは分っている。

いくら北朝鮮の民が困窮して餓死しようと、自分たちさえ豊かならばそれでいい。これは北朝鮮に限らず、世界的にも、また歴史的にも普遍的な考え方だ。富めるものが貧者の幸福を願って、自らが困窮することを実行したりはしない。

三代目となる金正恩は富裕層のボンボン息子だ。自分の権力基盤は、これまでは親の権威、今後は高級軍人を中心とした富裕層の支持あってのものであることは分っていると思う。だからこそ統一は望まない。

ただ、自分の権勢を示すために、核実験か局地的な戦闘行為をする可能性は高い。だが、決して国家の存亡を賭けるような戦争はやらない。負ける可能性よりも、自分たちの豊かな生活が失われる可能性がある戦争は忌避するだろう。

貧しい北朝鮮には、単独で戦争を行う力はない。戦争をするのに絶対必要な物資、金銭、食糧が絶対的に不足しているからだ。戦争を行うには大国の支援が欠かせない。ロシアもシナも、半島での戦争は望んでいない。北が負けようと、統一がなされようと、自国にメリットがない以上、支援などするわけがない。

そんな訳で、当分コリア半島は現状のまま推移すると私は考えています。もちろん、局地的短期的な危機は創出されるでしょう。これは北朝鮮が自らを誇示する伝統的手法ですから。

私が予測する一番の可能性は、北朝鮮内部にシナの意向を汲む傀儡政権が樹立することです。既に内部に浸透しているとみられるシナの工作員が、富裕層の不満分子と結合してのクーデター。その結果としてのシナの衛星国の誕生は、決して夢物語だとは思いません。

いずれにせよ、日本にとって大陸の勢力との間に中立な勢力が存在するほうが、国防上好ましいのは確かでしょう。その意味でも、韓国が民主主義国側の一員であることを支援（金融スワップ等）することは理に適うと私は考えています。

そして、北の富裕層が困窮しない程度の支援をしてやることは、むしろ半島の安定に寄与するとさえ考えています。本当に困窮し、餓死さえ珍しくない一般市民には悲劇なのでしょうが、これが国際政治の現実だと思います。