ヌマンタの書斎

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みのり伝説 尾瀬あきら

2011-08-02 12:14:00 | 

これはヒドイ。

漫画でも小説でも、事実を描く、書き記すだけではツマラナイ。やはり誇張や飛躍があってもいいと、私は考えている。だから、表題の作品もありだと言いたいところだが、やっぱりこれは認めがたい。

ただし、漫画としては立派に完成している。サラリーマン層を中心に人気があったのも確かだと思う。

それでもだ。フリーランスの世界で生きている人なら、この漫画を読んで怒らない人はいないだろう。何故なら仕事の基本を無視しているからだ。

資格を持つ私とて、基本はフリーランス、自由業だ。簡単に契約を打ち切られる自由であり、失業保険もなければ、退職金の保証もない。

だから、仕事をしていく上で、一番大切なのは信用となる。

信用を得るには、どうしたら良いか。資格なんて手段にすぎない。頭の良さ、多彩な知人、卓越した技術、豊富な知識でさえ手段に過ぎない。

顧客からの要望に応え、地道に実績を積み重ねて、信用を築き上げる。これしかない。

ところが、表題の漫画は、この基本をことごとく破る。困ったことに、かなり綿密な取材に基づいて描かれた漫画であることは分る。分るが、おそらくその取材は編集部の人間が主体ではないのだろうか。

大企業のサラリーマンは恵まれている。雇用は安定しているし、福利厚生も充実している。労働基準法もある程度は守られているはずだ。そんなサラリーマン編集者の甘い視点で取材がされているのではないか。

これは私の偏見なのかもしれないが、そうとしか思えない。作者の尾瀬あきらは、今でこそ、そこそこ知名度がある漫画家だが、それほどのビックネイムではない。下積みの苦労も知っているはずだ。

簡単に連載を打ち切られる絶望も、フリーランスの悲哀も知っているはずの人だ。にもかかわらず、このような作品を描いていることが信じがたい。

もしかしたら、潜在的願望なのだろうか。

実を言えば、これほど滅茶苦茶なフリーの仕事ぶりが許される職種がないわけではない。それは主に作家と芸人の世界だ。巨匠と称されるほどの大物芸術家や、超売れっ子の芸能人ならば、たしかに信用を踏み潰す、いい加減な人もいるにはいる。

しかし、フリーライターでは在り得ない。どんなビックネイムでも、守るべき契約、遵守すべきモラルはある。それを破れば業界から相手にされない。

当然にそれを知っているはずの作者が、このような漫画を描いたことは、自分が超大物漫画家に憧れているのか、それとも、出来もしない夢を描いてみせたのか。

もし、後者だとしたら、かなり性質が悪いと思う。なにしろ、この作品も上手にまとめてしまっている。いわば、確信犯的なやり口だ。

この作品を読んで、これが現実だと誤解する若い人が出ない事を祈らずにはいられません。まァ、業界で実際に仕事をしてみれば、否が応でも分らされますがね。


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