ヌマンタの書斎

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「デューン 砂の惑星」 フランク・ハーバード

2006-05-22 11:46:53 | 
砂の惑星という副題の方が有名かもしれない。刊行当初は、環境問題を取り入れた初めてのSF小説と銘打っていたが、それはいかがなものかと思う。当時は公害問題をはじめとして、環境問題がクローズアップされていた時代なので、それにおもねったコピーだと思う。

むしろ印象的なのは、イスラム教をモチーフとしたと考えられる宗教に大きな役割を演じさせているところでした。作者はキリスト教徒の白人なので、イスラム教に敬意を表しているかのごとき本作に、不思議な印象を受けたものです。欧米の小説は、キリスト教の価値観を正しいものとしての認識が、当然に基盤になっているので、イスラム教的な価値観に重きを置いた本作は、とても珍しく感じられたものです。

まあ、難しい理屈は抜きにしても、水、予知、宗教などの要素をベースに、見事に異世界を構築し、架空の歴史を描き出したデューンは、SF史に残る名作だと思います。

日本では大ヒットとはいきませんでしたが、アメリカでは大人気となり、TV化されたり、映画化されたこともあります。たしか映画では、ミュージシャンのスティングが敵役で登場していたはずです。小説もシリーズ化され、続編が何冊も出ています。

実は日本での刊行当初は、本の挿絵を漫画家の石森章太郎が担当していました。原作の雰囲気を適格に捉えた素晴らしいイラストだと思います。しかし、現在ではこの石森章太郎のイラスト版は古本屋でしか手に入りません。

刊行した早川書房の経営方針の変更で、漫画家のイラストは子供っぽいとでも判断されたのでしょう。馬鹿げたことです。小説に挿絵を挟むのは、どうも日本版だけのようです。他のSF小説もそうですが、挿絵や表紙画の美しさは、日本の本の美点といっていい。海外の洋書は、表紙画だけ華々しく、挿絵があっても稚拙なものが多く、殊更日本の出版文化の奥の深さが感じ取れて私は好きです。

日本に馴染みの薄かったSF小説を普及させた早川書房の功績は認めますが、大人の娯楽としてのSF小説を、妙に高級化させようとした経営方針に、私は懐疑的です。もし古本屋で見つけたら、貴重な作品ですので、是非ご一読を。石森のイラスト版は、それだけでも十分価値のあるものですゆえ。


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2 コメント

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Unknown (jin rock)
2006-05-22 18:03:24
キリスト教の価値観に 重きを置いてる社会では ダヴィンチコードも 評判がよくないですね
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Unknown (ヌマンタ)
2006-05-22 23:57:58
まあ、伝統的なキリスト教徒には容認しがたい内容ですからね。映画は話題性からヒットしそうですが、尻切れとんぼの原作を、どのように処理したのか若干興味はあります。まだ観に行くか決めてません。
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