忘れた頃にやってきたのが円安だ。
日本円が対ドル相場で7年ぶりに120円台を付けた。本当に久しぶりの円安水準なので、輸出入関連の企業は対応に苦慮している。
改めて確認するが、通貨の価値を為替という基準で測るならば、その通貨の発行国の経済力を中心とした国力を反映したものとなるはずだ。その意味で、現在の日本の景気の低迷を受けた評価額である。
しかし、私に言わせると、いささか遅すぎた評価でもある。もともとは4年前のリーマン・ショックの際に生じた莫大な損失を穴埋めするため、ドルもユーロも大幅に通貨供給量を増やしたことが契機であった。
ドルとユーロが大幅に増刷している以上、日本も通貨供給量を増やすべきであった。しかし、当時の白川・日銀総裁は頑として応じなかった。インフレ恐撫ヌが根底にある日銀は、我が国においてはリーマン・ショックの影響は少ないとし、断固通貨発行量の増加を拒否した。
結果、相対的に円の価値は上がり、一時は一ドル80円台と急激な円高となる始末であった。これは日本の経済力に応じた為替相場ではなく、あくまで通貨発行量の相対的差異による歪んだものであった。
困ったことにリーマン・ショックの悪影響は、我が日本においても相当なものであったが、それが分散された金融商品のなかに埋もれていた為に、なかなか表面化しなかった。
その典型例が、膨大な売り上げを記録した投資信託であるグローバル・ソブリンである。国外への分散投資を売りにしていたこのグロ・ソブにとって、リーマン・ショックの影響は相当なものであった。
高配当を謳い文句にしていたが、リーマン・ショック以降それを維持することは不可能となった。そこで止む無く元本払い戻しにより、高配当が続いているように見せかけざるを得なくなった。
厭らしいことに、この元本払い戻しを特別分配金などと称して配当したため、元本割れの実態は紙面上に隠されてはいたが、投資家の多くは既にその惨状を把握していた。これが投資家心理を冷え込ませた。
日本にとって不幸なことに、当時は民主党政権であり、この善人ぶりっ子の独善押し付け政治家と、霞が関出身のお役所ご用達政治家との連合政党は、この投資家心理に気が付かず、また白川・日銀への指導力にも欠けた。
そのため、不当な円高水準が維持されることとなった。それが安倍・自公連立政権となり、黒田新日銀総裁のもとで大幅な通貨供給量増加により、3年遅れて欧米とのバランス調整が可能となり、円の為替水準は日本経済の実態に相応しいものとなった。
これが今の円安の正体である。
だが、不自然に円高が維持されていたため、日本企業はこの急激な変化に十分対応しきれていない。輸出企業には恩恵である円安だが、既に円高に対応するための海外への進出、移転を済ませているため、円安の効果はそれほど多くない。
また原発を停止しているため、火力発電のための重油、天然ガスの輸入が増大していることが、大幅な円安による日本の経常収支を悪化させもしていた。今年に入り輸出の増大により、経常収支は改善されたようだが、国内経済はまだ低迷が続いている。
今年4月の消費税増税の影響は収まったとニュースは伝えるが、私は信用していない。むしろこれからが本番なのだ。なぜなら、消費税の納税義務者である法人や個人事業者の消費税申告は、来年以降であり、売上が前年並みでも納付すべき消費税は3割以上アップしてのものとなる。
大企業はともかくも、中小企業や零細事業者には相当な税負担となる。現在、大手町の国税庁の一階には、税金を滞納した納税者との相談室が設置されている。私も滞納した顧客に同行して、滞納税金の納付について相談に同席したが、どうみても過半が消費税の滞納であったようなのだ。
来年以降、消費税の滞納はさらに増えると、私は予測している。円安は、日本経済が完全に復調にならない限り、当面続くと考えられる。ただ、120円台はいささか円安に過ぎる気もする。
ただ、海外から投資、観光を呼び込むには、そう悪い数値でもない。変化する環境に応じて経営していかねば、21世紀の日本は生き残れない。安定は停滞であり、不自然な円高水準が維持されたことが、今日の混迷を招く一因であったと私は考えています。