残念ながら理性は万能ではない、と言わざるを得ない。
デカルトが理性により世界のすべてが理解できるはずだと宣して以降、科学が人類の新しい宗教として君臨し続けてきた。これを科学万能主義という。
だが、20世紀に入り欧米各国が事実上世界の大半を支配するようになると、皮肉にもその欧米内部から科学万能主義への疑問がつぶやかれるようになった。
異論はあろうかと思うが、マルクスの共産主義こそは、理性至上主義から生まれたものであり、20世紀は西側先進国と社会主義国が世界を二分した以上、やはり理性により全てが解明されることが前提の科学万能主義は完成したと思われてしかるべきだった。
しかし、理性は本当に人を幸せにするのか?理性により合理的かつ効率的に運営される社会は、人々を幸せにするのか?理性は感情を納得させられるのか?
社会主義が破綻し、金儲け至上主義が少数の富者と多数の貧者を生み出した。科学により多くの病気が解明され治療法が編み出された一方で、科学では解き明かせない心の闇が存在することに気付かざるを得ないではないか。
だからこそと言ったら言い過ぎかもしれないが、20世紀はモンスター花盛りである。吸血鬼にゾンビ、ドラゴンにデーモン、魔法使いにホビットと妖怪、怪異、なんでもござれ。
所詮、子供向けさとの嘲笑はあっても、大人たちも一緒に楽しんでいる現実に変わりはない。
モンスターなんて、いないよと賢しげに語ることが大人ではないと思う。むしろ、科学が乏しかった時代に、モンスターという心の処方箋をもっていた昔の人の英知に学ぶべきだ。
昔から心をおかしくしてしまった人たちはいたようだ。今ならば、やれ分裂病だとか、うつ病だとか、科学的な診断を行い、化学療法を施すのだろうが、昔はそんなことはしなかった。
不慮の事故により幼子を失い自責から正気を失いかけた母親に、子供を襲う化け物が悪いと責任転嫁して救った。激しい躁鬱を悪霊がついたと責任転嫁して、本人を攻め立てることを避けた。
理性では納得しえぬ理不尽な不幸を、モンスターのせいに出来た時代の方が、人々は幸せだったかもしれない。人間の理性では解明できぬことモンスターのせいにして、心の痛みを和らげた知恵は、今でも有効ではないかと思うことがある。
多分、そのほうが人間、幸せなんだとも思う。だって、人が知恵をもち、文明を築き上げて数千年、そうやってモンスターと共存してきたのだから。
私は理性を大切なものだと信じているけど、お化けがいたって良いと思う。多分ね、人間の理性なんて、その程度のものだと思うよ。
ところで表題の映画、大人から子供まで楽しめる内容ですが、ダンス・シーンが秀逸。古典的な件pを愛するはずの伝統的吸血鬼がラップかます場面なんざ、思わず立ち上がって踊りたくなる楽しさ。機会がありましたら是非どうぞ。